『ファンレター』 中
病棟中央の会議室には、たくさんの人が集まっていた。
『まてまて、なんで、個人的な問題にこんなに集まるの?』
すると、先ほどの電話の放送局の人が語ったのである。
『これは、もはや、社会問題なのです。わたくし、アナウンサーのタラコです。え、ご紹介します。裁判長の、イワシさん。書記の、タイコさん。検察官相当の、シャコさん。弁護人相当の、マグロさん。そうして、原告の小林某さん。被告人の、やますんさん。さらに、陪審員のみなさんです。では、裁判を始めたいと思います。裁判長。よろしく。 あ、起立! 礼。』
まったく、どうなっているのかは分からないが、模擬裁判みたいなものだろう。
原告の小林某さんは、見れば、90歳位ではないかと思われるご老人であるが、なかなか、気品が高い。
良い着物を着ていらっしゃる。
ぼくは、当然、寝間着だが、右足は動かないから、松葉づえをついて来ている。
この方が、あの爆発的な文を書いたのだろうか?
『では、まず、シャコさん、起訴理由ならびに求刑内容を。』
『あ、原告は、現在、93歳ですが、被告人が書いたネットミニ小説‘’のろい‘’にいたく感動し、ファンレターを書いて送付したにも関わらず、被告人は実質5日間も放置し、あいさつさえも返さなかった。原告は年齢的にも一分一秒が大切である。そこを鑑みるに、被告人は重罪に当たると思料される。よって、死刑を求める。』
『はあ? 死刑?』
『被告人は、黙りなさい。あとで、反論の機会を与える。では、弁護人。』
『はい。被告人は、ご覧のように、老人性骨折で入院しています。やむを得ない理由に相当し、死刑ではなく、終身刑とすべきであります。』
『はあ? なんだそりゃ。』
『被告人は黙りなさい。退廷を命じますよ。では、被告人、意見をのべてください。』
『え、お返事が遅れたのはもうひわけないですが、この通りで、メールが出された日は手術していましたし、そこはご容赦ください。無罪を主張します。』
『え、証人、医師のふぐさん。』
『はい。』
『被告人は、医学的に、メールをすることもできない状態だったと言えますか?』
『それは、つまり、医学的だけではなく、主観的な問題もありますゆえ……』
『医学的だけで述べなさい。』
『はあ。まあ、医学的だけでなら、可能ですな。』
『ありがとう。では。原告、申し述べることがあれば、どうぞ。』
小林某さんは、車椅子のまま、登壇した。
『かなしかったのです。はい。』
『そうでしょうとも。では、陪審員のみなさん、評決を。』
『はあ?』
『被告人は黙りなさい。』
『むちゃくちゃです。まったく。なんですか、これは? ジョークにしても悪質な。』
『黙りなさい。判決に影響しますよ。』
陪審員のみなさんは、その場で、協議に入ったのである。
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