永遠封鎖都市2024

YOSHITAKA SHUUKI

ダンジョン配信1話目


 薄暗い洞窟の中、似つかわしくない少女が歩いていた。腰には切れ味が鋭そうな剣と、海外のお土産で買うような杖を携えている。それだけでなく、カメラが少女の周りをフワフワと浮かんでいた。そしてなんと少女はその奇妙なカメラに向かって、なにやら独り言をつぶやいていたのだ。


「はーい、間食のダンジョン料理配信、始まるよー!」


 チンチクリンの光景がそこにはあり、目を背けたくなる世界がそこにはあった。少女の足元には大量のゴブリンの死体と、オークの死体が転がっており、カメラが外カメに切り替わることにより、その惨状が目一杯に映し出される。


 〇ぎゃあっ!いつになっても、耐性つかない。

 〇R=18タグをつけてください、お願いします!

 〇飯食ってる最中だったんやが、責任とれや。

 〇飯食いながら、ダンジョン配信見るなよ w。

 〇新参者が多いな、間食ちゃんも人気者になったな。


 平常運転。間食は魔物の美味しさの魅力に取りつかれており、ダンジョンのお宝はそっちのけ。

 腹を満たすことを優先するため、李厚樹山りあつきやまのダンジョンに訪れている最中。ダンジョン配信を行っている最中でもある。


「初めて食べたのは、ゴブリンの目ん玉です。間食でーす、よろしくでーす。それじゃ、味付けと切れ込みは終わったので、刺身にして食べたいと思います」


 食材は鮮度が命、それは視聴者にも分かる。でもゴブリンは刺身が美味しい、それは視聴者には伝わらなかった。


 〇は?

 〇待て、待て、ヒトモドキコバケモノ〔ゴブリンの学名〕は体内に毒を持っているんじゃなかったか?


「そうですね。なので、ユニークスキル毒耐性をあらかじめ待っておくことをお勧めします」


 〇ふぁ!?


 ナップサックから、まな板とテーブルを取り出すと、上にゴブリンを乗せる。


「あとは簡単です。剣でしゅぱしゅぱ切れば、ほら、刺身の出来上がりっ!」


 視聴者の目に飛び込んだのは、緑色のナニカ。間食が言うにはこれが刺身らしかった。


 〇こうして見ると、毒を持っているのも頷ける。

 〇剣裁きすごすぎて、何も見えんw


 〇説明も適当だし。感覚でやってんだろうな。才能ありすぎ。


 コメント欄もダイブ間食の配信に慣れてきたようだ。固定のリスナーがどんどん侵されていく。新参者も侵されていき、最終的にはフハハハハ。

 だってユニークスキルの毒耐性なんて存在しないし、そもそも魔物を食すのは政府が推奨していない。

 それでも間食の同時接続数はいつだって:イチマン:キープ。


「さて、次はドラゴンの丸焼きに挑戦したいと思いまーす!ドラゴンがいるのは、どこだっけ?」


 〇間食がいる上層にはいなかったはず。

 〇下層二階。

 〇エアプ乙、ランダムだからどこに出現するか分からん。

 〇下層なのは確かだろ。


「なるほどね」


 ダンジョンは足を運ぶたびに地形が変わる。モンスターも変わり、見栄えがその都度新鮮になる。ダンジョン配信が流行ったのは、そういった理由もある。退屈な毎日をナントカ遠ざけようと、新しい刺激を求めるゾンビ共が押し寄せてくるのだ。


 なので、この2024年のインターネットではダンジョン配信が支流となっている。


 最初は未知の恐怖に怯えた。足を踏み入れた偵察隊が何人もモンスターの犠牲になり、帰らぬ人になった。

 それでもこうして受け入れられたのは、ダンジョンの内部に眠る未知なる発見が大きかった。

 見たことのない宝石、不思議な魔力を帯びた武器、金銀財宝。

 生物学者はモンスターを朝昼晩観察し続け、トレジャーハンターが政府の目を盗みダンジョンに忍び込む。

 命に代えてでも、モンスターの秘密を探る。命に代えてでも、お金が欲しい。


 そうしてしばらくして、とあるモンスター……タートルゴーレムの内部にモンスターへと対抗できる物質を発見した。


 それがユニークスキルの詰まった宝石。これを砕くことで、スキルを獲得することができる。そして、ダンジョン配信の全ての始まりでもあった。

 

 

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