『異端』扱いされた俺だが、信じてくれたヒロインのために魔獣を駆逐しようと思います。
滝飯
第1話 記憶喪失で転移したら、そこは戦場だった
「・・・んで、俺は何処の誰だ?」
なんだここ?
目の前に広がるのは中世ヨーロッパを思わせる石造りの街。
高い外壁に囲まれ、傷ついた兵士たちが行き交う。
ーーGYAAAAAAOOOO!!!
ーー怯むな!!!四方を取り囲めーーー!!!!
外壁の外からは、恐ろしい咆哮と人の号令が聞こえてくる。
「待て待て待て待てぇえい!なんだよこの鳴き声!普通の生物が出していい音じゃないだろ!」
意味が分からない。ここが海外だったとしても、なんで兵士がこんなにたくさんいる?紛争地域にでも俺は来ているのか?
俺は必死に、この状況に至るまでの経緯を思い返そうにも、俺の記憶はただただ空虚だった。
「ここは何処だよ!なんで何も思い出せないんだよ!」
訳が分からない。頭を抱えて空を仰ぐ。
俺の困難なんか知ったこっちゃないと言わんばかりに空は快晴だった。
「ん?・・・・えええーーー?!」
そこで俺は信じられないものを目にした。
「・・・た、太陽が・・・二つある・・・?」
ハッとした。
この中世の街並みに、地球じゃありえない天体。
俺はこの展開を知っているぞ・・・。
「これって異世界召喚じゃねーーー?!まじかよ!ついに!俺の番が来たのか!ずぅーーーっと、こんな日が来ないか待ち望んでいたぜ!
てか、オタク知識は覚えているのに、なんで自分のことが思い出せないの?!」
興奮で体の震えが止まらない。
宝くじで1億当たったらこんな気持ちになるのだろうか。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、ふぅ・・・ひひひ」
うん、ほんの少し落ち着いてきた。
記憶喪失の件は一旦置いておこう。
それよりも優先すべきは状況確認だ。
何か手がかりがないかと、ポケットを調べると財布に学生証が入っていた。
「『榊 八雲(さかき やくも)』・・・これが俺の名前か。うん、しっくりくる。歳は20歳...」
自分の名前を知り、少し落ち着きを取り戻す。
しかし、その安堵もつかの間、再び轟音が鳴り響く。
ゴォォン! ドドドドーン!ズドーン!
振り返ると、外壁が崩れ、土煙が立ち込めている。
その中から、巨大な輪郭が浮かび上がってくる。
徐々に姿を現したのは、ティラノサウルスを思わせる巨大な『白い化け物』だった。その姿は、あまりにも凶悪で非現実的だ。
「・・・うそだろ?アレが俺のファーストエネミー?冗談だよね?最初はゴブリンとかスライムじゃないんですかーー!!!!」
さっきまでのウキウキワクワク感は一瞬で焦燥感に変わる。しかし、不思議と恐怖は感じない。それどころか、体が熱くなってくる。
特に左手に異常な熱を感じる。
「って、熱っつ!」
目を向けると、そこには『星』と『月』を抽象化したような『紋章』が強烈な光を放っていた。
「うぉおおお!!!これ絶対俺のチートスキルじゃん!あの『白い化け物』に反応しているのか?!」
興奮と不安が入り混じる中、八雲は自分の運命が大きく変わろうとしていることを感じていた。これから始まる冒険に、期待と不安が胸の中でせめぎ合う。
そして、彼はまだ知らない。この異世界で、自分がどんな役割を果たすことになるのか...。
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