『異端』扱いされた俺だが、信じてくれたヒロインのために魔獣を駆逐しようと思います。

滝飯

第1話 記憶喪失で転移したら、そこは戦場だった

 「・・・ここは何処で、俺は誰だ?」

 俺は記憶喪失のテンプレなセリフを吐いた。


 ちなみにガチの『記憶喪失』だ。


 何か手がかりがないかと、ポケットを調べると財布に学生証が入っていた。

 俺の名前は『榊 八雲』 20歳らしい。


 俺は周りに注意を向けてみる。


 なんだか、騒がしい。


 中世ヨーロッパ風の石造りの街並みに、傷ついた兵士たちであふれかえっていた。

 街は高い外壁に囲まれており、外からは轟音が聞こえてくる。


 「・・・外で何かと戦っているのか?」


 傷ついた兵士たちは、壁の中へ運び込まれており、テントのような仮設拠点で治療を受けているように見える。籠城戦なのだろうか。


 「冷静になれ、俺。まずは状況ーーー」


 ゴォォォン! ドドドドーン!ズドーン!

 壁に亀裂が入り、徐々に広がると、外壁は破壊された。


 土煙からティラノサウルスを思わせる『白い化け物』が姿を現した。


 「おいおいおいおい!なんだよこの化け物は!異世界に召喚でもされちまったのか!?」


 俺は結構ふざけた性格なようだ。


 こんな状況なのに『ワクワク』し、俺が活躍する物語が始まるだろうと『期待感』の高まりを感じる。


 『白い化け物』に意識を向けると、突然、俺の左手が熱を帯び始めた。


 「なんだこれ・・・。俺の左手が光っている。あの『白い化け物』に反応しているのか?」


 俺は自身の左手を注視する。

 左手の甲にはおそらく『月』と『星』を抽象化した『紋章』が青白く光を放っていた。


 かっこいい。俺はこの紋章を『星月紋』と呼ぶことにしよう。(厨二脳)


 すると唐突に、視界がセピア色に染まった。

 そして、一瞬のうちに映像が脳に詰め込まれる。


 ーーー白衣の若い女性が『白い化け物』に食い殺されるーーー


 「なんだ、今のは!」


 俺は不思議と『この映像が現実になる』と確信していた。


 辺りをキョロキョロ見渡すと、先ほどの映像に映った女性を発見した。


 ー今の俺に何ができるってんだ!

 ーだけども、これは異世界転移だろ?

 ー目の前で女の子が襲われるのを見過ごせるか!

 ーこの湧き上がる不思議な力で、状況を打開できるかもしれない!


 「彼女が俺の『ヒロイン』かもしれねーだろ!助けないなんてありえない!」


 いろいろな感情が沸き起こる中で、俺は、彼女のほうへ走り出していた。


 世界が遅くなり、自身の動きが加速するように感じた。


 俺は通常の人間では考えられない速度で、『白い化け物』に襲われている白衣の女性に肉薄した。


 『白い化け物』はその巨大な顎を広げ、女性に襲い掛かる。


 「GYAAAAAAOOOO!」


 俺は白衣の女性の前に飛び出し、『白い化け物』の噛みつき攻撃を受け止めた。


 「・・・ぐぬぬ」


 膨大な質量が体をつぶそうとするが、俺は受け止められていた。

 やはり、『星月紋』の力だろう。


 だがしかし、すぐに均衡が崩れた。

 『白い化け物』は重心をずらし、俺の右手をかみちぎった。


 「痛ってええええええええええ!俺の右腕がああああ!!」


 うそだろ、異世界転移してすぐに右腕損失!?


 俺は女性を助ける選択をしたことを後悔し始めていた。

 痛みに悶絶していると、『白い化け物』の追撃が俺をおそう。


 死にたくない!せっかく、ファンタジー世界に来れたのに!


 俺は残った『力』を振り絞って、無我夢中で左手を突き出すと、光の奔流が流れ出た。


 光は『白い化け物』を包むと、徐々に体が縮まってゆき、最終的には『ワニ』のような動物に姿を変えた。


 「へっ!?」

 俺は間抜けな声を上げた。


 なんだこれ、攻撃じゃなくてこれは・・・『変身』?


 童話に出てくる魔法使いの『カエルになれ』の呪文みたいなものか?しかし、なぜワニ?


 俺は戸惑いつつも、『白い化け物』を撃退できたことに安堵する。


 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」


 周囲が静寂に包まれる。


 あ、俺、何かやっちゃいました?


 すると徐々に周囲の人々が話し始める。

 「・・・見ろよ、アイツ。『魔獣』を動物に変えちまったぜ」

 「しかも見てみろよ。アイツの食いちぎられた腕、再生し始めているぞ」


 なんだって?


 俺の右腕は白い煙を放ちながら、高速再生していた。


 これも俺の能力なのか?


 さらに、周囲の人たちの声が耳に入る。

 「あの『高速再生』スキル、まるで『魔獣』のようだ」

 「気味悪い」

 「危険じゃないのか?」  


 あ、これ本当にやっちまったパターン?

 『異端』だから追放されるパターンですかね!?


 「あ、あの!!俺、危険じゃーーー」


 ばたん。


 あれ、急に力が入らなくなって・・・


 俺は仰向けに倒れ、空を見上げていた。

 だんだん眠くなってくる。


 「ーーーキミ!大丈夫かい!?」


 俺のことを心配する声が聞こえ、視界に白衣の女性が映る。


 心配そうな顔でこちらをのぞき込んでいる。


 傾国の美女と言っても差し支えないほど美しい女性だった。


 シルクのような質感のプラチナブロンドの髪が風に揺らめく。


 彼女の瞳はアメジストが埋め込まれたようにすみれ色の輝きを放つ。


 黒のワンピースの上に白衣を羽織った姿は、知的な大人の魅力を感じさせる。


 くっそ美人じゃん。この人が俺のヒロインだといいな・・・


 俺は満足感に満たされ、目を瞑る。


 俺は意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る