第1部-4 アグバログの呪い編
第46話 魔女テミスの武勇
「ヴィーナ自治領の御領主殿からの書簡、確かに拝領した。
後で大切に読ませて頂く。
……しかし、魔女殿が我ら氏族の森を来訪されるのは実に300年ぶりの事。
平時であれば歓迎の宴と行きたいところなのだが……」
「数日前、南の空に
こちらにお仕えしているメイドのサラさんに託した、私の魔女の刻印に相違ありませんでした。
もしや炎魔将アグバログの呪いに侵された、氏族長様の御息女の
交通渋滞なんて一切ない空をひとっ飛びして、馬車だと何日もかかる南の樹海地域への道のりを、僅か数時間で踏破してくれたのだから。
途中で空を飛ぶ魔物が近くまで飛んで来たりもしたけど、シフォンちゃんがひと睨みしただけで文字通り、血相変えて尻尾を巻いて逃げて行ったりと、やっぱり鷲獅子ってすごい!と親子3人で背中に乗りながらキャッキャって、メッチャ興奮しちゃったわ!
ーーーそして、お昼過ぎには樹海手前に到着。
帰りもよろしくねと、シフォンちゃんに告げて一旦別れ、背の高い木々の生い茂る樹海の入り口付近に私達親子が降り立つと、
『お待ちしておりました、ディケー様。
……必ずや、来てくださると信じておりました』
なんと、エルフの氏族に仕えているメイドのサラさんが、既にスタンバってくれていた。
何の連絡もしてなかったのに、どうして私達が今日ここを訪れるのが分かったの?と聞くと。
サラさん曰く、
『……ディケー様の魔力は独特ですので、遠くからこちらに近づいているのが何となく分かりましたもので。
昼からずっと、お待ちしておりました』
との事だった(何かサラさん、ちょっと照れてると言うか、顔が紅かったわね。どうしてかしら?)。
そう言えば、初めて会った日、魔女の正体バレしたついでに悪役ムーヴかまして、サラさんのすぐ側で魔力を全開で解放して、ちょっと脅かしたんだった……。
『エルフの耳に触るのは初めてだわ。
……ふぅん、こういう感触だったんだ?
素敵な触り心地ね』
『あっ……あ……っ!』
『可愛い声も出せるのね』
『んんっ……あ、あっ……!』
『くすっ、震えてるわね。
でも、誰も助けになんて来ないわよ?
正体を現す寸前に部屋に結界を張ったの。
私の魔力は外に一切漏れず、誰も検知出来ない。ドアも絶対開かない。
……貴女はこれから私の
嬉しいでしょう? 嬉しいわよね?』
あの時は悪ノリが過ぎて正直、スマンカッタ!
でも、あれから1ヶ月以上経ったのか……私も
……こんな感じでサラさんと再会した後は、樹海の中にそびえ立つエルフの氏族の王城(城っていうよりは大昔に建てられた砦みたいな雰囲気ね)に案内され、早速エルフの氏族長様に謁見の最中……とまあ、今そんな流れな訳でして。
「魔女殿の指摘通り、娘のエレナの容態が急変してな。
つい数日前までは普段通りだったのだが……」
「アグバログの呪いが、お嬢様の身体を本格的に
「……うむ。
今は妻や治療師達が診ている。
申し訳ないが、娘への面会は明日でも良いだろうか。
わざわざ御足労頂いた所を誠に申し訳ないのだが、本当にこのまま解呪をしても良いか、妻とも話し合いたいのだ」
「はい。今はそうされた方が良いかと存じます」
氏族長様、心労が祟っているのかあまり元気がないみたい……。
実写映画のロード・オブ・ザ・リングでオーランド・ブルームが演じたエルフのレゴラスとはベクトルが違うけど、若い頃はさぞかしオモテになったでしょうに……なんやかんやあって、生活に疲れたオジサンって感じになっちゃってるわね今は……うーん、勿体ない。
「(でも愛娘がそんな事になれば、親なら当然か……)」
もしライアとユティが病気にでもなったら、私も多分、相当慌てるだろうし。
確かに氏族長様の言う通り、今は様子見がベストかも……お嬢様の心身の状態が良い時じゃないとマズいかもだしね。
「(いきなり"
でも、160年間ずっと大人しくしてたアグバログの呪いが、どうして今になって悪化しちゃったんだろう……?
「ところで。魔女テミス殿はお元気かな」
「(えっ?)」
魔女テミス?
テミス、テミス……はて?
そんな名前の魔女の先輩、居たかしら……?
少なくとも前回の
うーん……あれ、でも何か引っ掛かる……。
……あ、まさか、もしかして!?
「……魔女テミスは私の
今は
先日も魔女の夜にてお会いしましたが、息災の御様子でした」
「なんと、そなたの師だったか。
そして今はテミス殿が大魔女……。
そうか、300年も経てばな。
……いや、唐突に申し訳無かった。
ディケー殿は何処と無く、テミス殿に雰囲気が似ておられたのでな」
「そ、そうでしょうか?」
うわー、やっぱり!
魔女テミスって、お師匠の事だったんだ!
魔女の夜の時は本名聞きそびれてたんだけど、レジェグラの設定資料集に載ってたディケーの前の大魔女のカラーイラストに小さく「テミス」って書いてあったもんね、確かに!
「(えっ、てコトは300年前の深淵戦争でエルフに加勢して戦った魔女って、大魔女だったんだ……!?)」
前にサラさんにイタズラした時、
『魔女様はかつての深淵戦争においても、我々エルフと共に異界の魔物と戦った同盟者。
私も幼い頃より憧れを抱き、いつかお会いしたいと思っていた存在です。
……それを、私の幼い頃からの憧れを、貴女という人は!!!』
って、ガチギレしてたもんね!
そっか、うちのお師匠、若い頃はそんな事もしてたのね……。
落ち着いた雰囲気のハリウッド女優みたいな佇まいの
「アグバログとの最後の決戦の折、
テミス殿はそれをたった一人で食い止めてくださったのだ。
彼女が増援を足止めしてくれなければ、我々がアグバログを打破する事は叶わなかったであろう」
「(マジパネー)」
それ、いわゆる「ここは俺に任せて先に行け!」的な死亡フラグ立ちまくりのシチュじゃん!
フラグ折って覆しちゃう辺りが、何ともあの人らしいっちゃらしいけども!!
……そっか。
あの人、そういうトコロもあったのね。
「引き留めてすまなかった。
部屋は既に用意してある。
子供達と共に、ヴィーナからの旅の疲れをまずは癒してほしい」
「御配慮痛み入ります。
……では、私はこれにて」
挨拶し、私は謁見の間を後にする。
うん、まずは氏族長様の御厚意に甘えて休むとしますか。
サラさんからお嬢様の様子も聞いておきたい所だし。
「……?」
ふと。
樹高が何十mもある木々に囲まれたエルフの氏族のお城の中で、私はある事に気づく。
エルフが何百年も好んで住んでるだけあって、樹海の中は樹齢何百年~何千年にもなる木々が生い茂り、濃い魔力に満ちているんだけど……その魔力に混じって。
「(瘴気の匂い……?)」
ーーー良くない匂いが、風に乗って運ばれて来ているのを感じた。
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