第36話 ディケー復活!

「……よし、治った!」



 魔女セレンが我が家を訪れてから数日が経った。

 指示通り、しばらく有害召喚獣の駆除はお休みした後に。

 療養に療養を重ね、今朝はいよいよ左目のガーゼに続いて右腕のギプスを外して、腕の調子の最終確認。

 巨猿王コングロードの顔面を粉砕した時に折れてしまってからは、ひたすら魔力を腕の回復に回してしまっていて、反動で毎日お腹が減って大変だったのよね……魔女ってすっごく燃費悪いわー。

 この2週間だけでも食欲が爆増しで、食費が結構嵩んじゃったからなあ……。



「(でも、そこまでしないと倒せない相手だった、って事よね……)」



 "歩く厄災"とも称される特A級有害召喚獣を倒すには、未来の大魔女たるディケーの魔力と身体をもってしても、多少のリスクを覚悟で挑む必要があった。

 毒と呪いによるデバフと、極星のローブによる相手の攻撃の魔力還元、そして限界まで底上げした私自身の身体能力強化のバフがなければ、まず勝てなかったと思う。

 ……あそこで取り逃がしていたら、今頃ヴィーナの町はモノクロ映画のキングコングみたいな事態になっちゃってたはず。



「ん、骨は完全にくっついてる!」



 掌でグーパーを繰り返してみたり、腕をグルグル回してみたりしても、特に異常はないみたい。骨も痛くない。

 魔力を通しても問題なく体内で巡回してる!

 ヴィーナの冒険者ギルドの救援隊による適切な処置と、あるだけのポーションをひたすらぶっかけまくってくれた、ネリちゃん達の初期治療のおかげね!




「(むしろ……2週間前より強くなってる!)」




 まだ回復に回した分の魔力の充填が出来てないから万全な状態ではないんだけど……それでも本能で理解わかる!

 死線を乗り越えた事と、巨猿王の血を浴びた事で、私の魔力の総量が以前よりグッと増してる!





ズ ズ ズ …… !!!





 激闘の果てに死の淵から復活してパワーアップなんて、そんな7つのボールを集める漫画の戦闘民族じゃないんだからナイナイ!なんて思ってたけど……あるんじゃないですかね、これは!




「(RPG的な考え方をすれば、巨猿王を倒して大量の経験値を得て、一気にレベルが上がったって事なんでしょうけど……)」




 あれ、そもそも今のディケーってレベルいくつ?

 「小説家になっちゃおう」とかに掲載されてるような転生とかチート物の小説だと「ステータスオープン!」とか言うと自分のレベルやらスキルやらがウインドウで表示されるのがお約束だけど……こっちの世界に来てからそんなの一度も見た事ないのよね……。



「……ま、いっか。

 さー、お風呂入って腕洗お」



 この2週間、ずっとお風呂入る時は右腕のギプス濡らさないように気をつけながら入ってたから、やっと気にせず入れるわー。腕も洗いたいしね。





****





「ふー、さっぱりした」



 戦いで付いた身体の傷もほぼ癒えてたし、コンディションはバッチリね!

 あと、ディケーに転生してからと言うもの、風呂上がりやら寝る前にスキンケアを一切しなくても肌の調子が常に一定に保たれてるのが、すごーくありがたい。

 シワとかシミも一切ないし、ギリ10代でも通じる見た目してるからなー。



「(あと生理痛も一切ない。これ大事)」



 こっちの世界にもスキンケア用品は勿論あるけど、まだまだ貴族の奥様や御令嬢向けって感じで、結構な値段してるから……買わずに済むのはラッキー、って言うか。

 来年からのライア達の魔術学校の学費やらを考えると、無駄な出費を抑えられるのはいい事よね。




「ん、そろそろライア達が起き始める時間かな」




 今朝は少し私の方が早めに起きたのよね。

 ライアとユティには心配かけたし、数日は家で過ごして、冒険者への復帰はそれからでもまあいいでしょう。

 魔力の充填にも、あと少しかかりそうだし。



「さてさて、朝御飯の準備をっと……」



 久々に右腕を使える状態で、私が朝御飯の支度に取りかかろうと。

 いつものようにエプロンを身に付けようとしていると、




「ふあぁ……かーさま、おはよー……。

 ……かーさま!? て、もういいの!?」




 まだ眠気眼ねむけまなこであくびをしながらキッチンに現れたライアが、朝の挨拶もそこそこに。

 私の右腕からギプスが外れたのを認めるや、慌てて駆け寄って来る。





「心配かけたわね、ライア。

 もう大丈夫だから」

「かーさま! かーさまのみぎて!

 よかった! なおってよかったー!!」





 私の言葉を聞くなり、ライアは私の右手に、泣きながら頬擦りする。

 3人で歩く時はいつも私の右側がライアのポジションだったもんねえ……しばらく手を繋いであげられなくて、ごめんね。



「かーさまぁ……」

「ライアは泣き虫ね」



 ライアの目尻からこぼれる涙を指先でぬぐって、ぷにぷにの頬っぺたをつついてみる。

 相変わらずお子様体温であったかくて、触り心地抜群ね、うちの子の頬っぺたは。



「(寂しかったのね……)」



 それに私が治療に専念出来るよう、ライアもユティもここ2週間は"魔女見習い"の鍛練は自主練ばっかりだったからなー。

 ライアも怪我が悪化したらマズいと思ったのか、不用意に抱きついたりして来なかったし、私達がこうして触れあうのも久方ぶりの気がする。



「うへへ。

 かーさま、くすぐったい……」



 ライアに涙は似合わないからね!

 将来、"おっぱいの付いたイケメン"と評される美人さん(ただし邪魔するなら女子供にも容赦のない悪役キャラ)になる事は確定してるし、可愛がれる時に思い切り可愛がってあげないと。





『ま、アンタが母親役をやりたいってんならそれでもいいけど……。

 あの子達を悲しませるような真似したら、私は絶対許さないからね』





 今更ながら数日前の魔女セレンの言葉が胸にグサリと刺さる。

 いやホントそれよね、今回痛感しましたよ。

 巨猿王と戦った事自体は後悔してないけど、子供達や周囲の人達に心配かけちゃったのは、紛れもない事実だしね。

 ……でも、だからこそ。




「(ライアとユティに心配をかけないためにも……ゲーム本編のディケーのような大魔女にならないと……!)」



 

 ライアを腕に掻き抱きながら。

 私の、ディケーとしてこちらの世界で生きる決意は、より強固な物になったーーー。

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