第7話 ライアとユティのデビュタント

 魔女以外の来訪者を惑わせる魔霧を抜けた先にそびえ立っていた、巨大な魔女の塔。

 どっしりとした石作りの円柱型のそれは、所々が緑色の蔦や苔に覆われていて、一体いつから建っているんだろう、誰が建てたんだろう、とか色々と想像を掻き立てられた。レジェグラの設定資料集にもラフ画くらいしか載ってなかったし、ゲーム本編にも未登場だったからなあ……てか本編開始時点でディケーに跡形もなく破壊されちゃってたはず。



「塔の周囲だけ霧が全くなくて、綺麗な星空が見えてる……ここだけ別世界みたい」



 あの霧のおかげで隔絶された空間を維持出来ているのね。

 それにしても、眺めていると首がいたくなりそう。大きさも目測で2~300mくらいはあるんじゃない?

 ……これエレベーター的な物が中に無かったら階段昇らなきゃ駄目なのかしら。

 いや、中に居る人達みんな魔女なんだから飛べる事を前提にした作りよね多分。

 


「(私も子供達が寝静まった夜にちょっと試して見たけど、反重力魔術の応用でフワッと浮かべたし)」



 万一、誰かに攻め込まれたりしたら階段があったら昇って来られちゃうし。……相手も飛べる手段があれば分かんないけども。

 と、そんな事を考えていると。



「マム、ハリーアップ」

「あ、ごめんね。急がないとだったわ」



 私が塔に圧倒されて呆けていると、左手を握っていたユティがクイクイと手を引っ張って急くように言う。

 一方で、右手を握っているライアの方は



「まじぱねー!

 まじょのとう、すごいすごい!」



 とメッチャ興奮気味の様子。

 子供って大きい建物とかも好きだもんね……。

 って、関心してる場合じゃなかった。

 


「塔を眺めてて集会に遅刻なんてしたら目も当てられないわね。

 さ、中に入りましょうか」



 2人の手を引いて塔の入り口らしき木製の重厚な扉の前に進み出ると、ギギギ……と音を鳴らして勝手に扉が開いた。

 塔に在籍している魔女が来たら自動的に開くよう、何かの検知システム的な術式が施されているのかもしれないわね。これなら籠城とかも出来そうだし。



「いよいよね」



 どうか、これまでのディケーの集会欠席のサボりを咎められませんように!




****




「あら、ディケー。お久しぶりね」

「え、ええ。お久しぶり。息災でしたか」


「まあ、魔女ディケー。

 一体いつぶり? 今夜は出席なさるのね?」

「は、はい。サボり過ぎも良くないと思いまして」


「ディケーさんが子供を連れて来るなんてね。

 今夜は雨かしら?」

「あはは……一応、星空の魔女ですので」



 まずい。これはヒジョーにまずい。

魔女の塔に入るなり、一階の大広間的な所で早速ミニパーティみたい事をやっていて、私達がやって来た事に気づいた何人もの魔女達から話し掛けられるんだけど、誰が誰やらサッパリ分からない。



「(さすがに私以外に子連れの魔女は居ないか……)」



 みんなレジェグラの本編開始以前にディケーに全滅させられてて未登場な上、設定資料集に僅かに無彩色のラフ画(と言う名のラクガキ)が何枚か掲載されてただけの、いわゆるモブキャラ達だ。仮にゲームに登場しても黒塗りのシルエットの立ち絵だけとか、そういうポジの人達ね。



「(愛想笑いで誤魔化すしかない……!)」



 てっきり、会えば自動的にディケーの記憶が流れ込んで来て、他の魔女の名前も分かるんじゃないかとか薄っすらと期待してたんだけど……そうは問屋が卸してくれなかったみたい……。



「(それにしても……)」



 魔女と言うと、三角帽子に黒い服、それに手にはホウキっていうスタイルがパッと思い浮かぶイメージだけど、割と皆さん、ラフな格好でいらっしゃる?

 私のように伝統的なローブを纏っている魔女もチラホラいるけど、中には夜会服っぽい格好の人もそれなりに居る。

 夜のお仕事やってるオネーサン的な格好っていうか、肩やら足やらを肌見せしてる、ちょいセクシーな感じのドレスね。



魔女ヴァルプルギスナハトが始まるまで、まだ少し時間があるわ。

 子供達と一緒に何かつまんだらどう?」

「ど、どうも。そうします」



 塔の内部は四方を煌々と照らす照明魔術のおかげなのか思っていたよりずっと明るく、苔むした外観とは異なって結構清潔な感じだ。石作りだからと言って中が冷えるとかそんな事もない。

 私てっきり、所々にクモの巣があったり、ネズミやトカゲがウロチョロしてるような汚い感じの場所だと思ってたよ……。



「かーさま、くっきーがある!」

「食べていいそうよ。おあがんなさい」

「わーい!

 ……じゃなくて、はい。かあさま」

「(おお、よそ行きモード……)」



 ライアも今日ばかりはいつもの元気さはなりを潜めて、場に則した大人しい態度を見せる。

 ここ数日、他の魔女に失礼のないように言葉使いをちょっと真面目な感じで話せるように訓練した成果が出てるわね!



「おかあさま。わたしもよろしいですか」

「も、勿論よ、ユティ」

「では、すこしいってまいります」

「……」



 ……ユティのよそ行きモードに慣れるのは時間かかりそう。

 ゲーム本編でも激昂すると言葉使いが片言から真面目な感じになったりしてたし、設定資料集でも「ユティはキャラ作ってますね笑」って開発ディレクターの人がインタビューに応えてたもんなあ……。



「いこう。ユティ」

「そうね。ライア」



 黒猫を思わせる猫耳フード付きの黒いローブを纏った2人が、トコトコと石畳の床の上に足音を立てて、連れ立ちながらテーブルに向かう。

 そうして、お皿からクッキーを何枚か取ってモキュモキュと食べ始めると、周囲の魔女達からも



「あらあら……」

「魔女ディケーのところの子供達だそうよ」

「まあ、可愛らしいじゃない」

「ディケーさんが連れて来ただけあって素質はありそうね」

「そうね。子供ながらにかなりの魔力を感じるわ」



 ……こんな感じで、2人を遠巻きに見つめながらヒソヒソと色々囁いていた。

 うんうん、今のところは他の魔女から不興を買ったりしてないし、いい感じかも。

 今回の集会は「ディケーには集会をサボる意図は全くありません! 今までサーセンでした!」という謝罪の意思表示であると同時に、ライアとユティのお披露目デビュタントでもある。

 ゲーム本編だと、2人を弟子にした事を黙っていたせいで魔女の塔から除籍されちゃってるし、悪い要素は潰せるうちにどんどん潰しておきたいのよね……。



「お嬢ちゃん達、キャンディ食べる?」

「ジュースもあるわよ」

「魔女ディケーからはどんな鍛練を受けているの?」

「ねえ、使い魔はもう決めてる?」



……私より大人気ですやんか。

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