サプライズハッピーバースデー
がっかり8割
安心したの1割
あとの1割は準備期間として前向きに捉えた。
「フフフフ~~ン♪」
鼻歌も出ちゃう。
今日はこーきの誕生日
当日にサプライズが出来なかったのは残念だけど、会えなくてもおめでとうを伝えて、こーきが嬉しくなってくれたらなって。
夕焼けの色を写す窓
暖色に染まった部屋に
少しだけ冷たい吹き込む風が
「わぁ~…可愛い!」
ふわっとカラフルなそれを舞い上げた。
HAPPYBIRTHDAY
カラフルなテープで壁に書き、カラフルな星を散りばめた。
昨日焼いたほろほろクッキーは
ハートの箱に詰め
「もう聞き飽きたかな」
くまもんのメモ帳に伝えたい言葉を呟いて、いつも通り家のあちこちに残した。
.
「うまーーーい」
こーきがくれた朝鮮飴はそりゃもう美味しかった。
「あんた何個目よ」
「すずちゃんちょっと食べ過ぎよ」
「全く…朝霧くんはいつも土産を買いすぎだ
なにしに出張に行ってるんだか」
「まぁまぁいいじゃんパピー
こんな美味しい焼酎買ってきてくれたんだし~」
かっくん来てます。
「で?朝霧くんはいつ帰ってくるんだ?」
「明日~
あ、明日遅くなってもいい?
帰ってくるの家で待ってたい」
「明日はピアノ教室でしょう」
「そうだった…」
テーブルの上には、かっくんの実家から送ってきたらしい冷凍ホタテ。の殻。
夕飯のバター焼きは絶品だった。
「すげーなーお兄たま
外国に出張なんて~超エリートじゃん」
「ニューヨークが一番嫌なんだって
忙しいから」
「へーー」
「お土産なにかな!
スズなんかリクエストしたの?」
「まぁ、麻衣ちゃんの方が楽しみにしてるじゃない」
「だってお土産豪華なんだもんいつも」
アハハハハ
そんな家族団らんもこーきがいないからつまんない。
早く帰ってこないかな。
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テーブルの上で軽快な音を鳴らす私のスマホ。
「あら、噂をすれば朝霧さん?」
「あっちは何時よ」
「そっか!時間違うじゃーん」
「向こうは朝だろ」
『土曜は休めそうだけど会える?
午前中は会社に少し行くけど』
お父さんとかっくんのグラスがカラカラと音色を奏でる。
そこに私の心臓が大太鼓みたいに
ドッッッッキン!!
始まりの大きな音を叩いたみたいに大きく鳴ると
ドキドキドキドキ
鼓動の伴奏が始まった。
「なんだって?朝霧さん」
「お兄たま~焼酎美味しいよ~」
「やだ~かっくん聞こえないって~」アハハハハ
「ど…土曜日」
「え?土曜日?」
「ど…ど…土曜日お休みなんだって!
デデデデデートだから夕飯いらない!!」
ガタンッ!
「なによ、急に立ち上がって」
「声が大きい
もう少しおしとやかにしなさい」
「スズちゃん?どうかしたの?」
落ち着け私!
「お風呂入ってくる!!」
お父さんお母さんごめんなさい。
スズは土曜日ウソをつきます。
大人の階段を登ります!!
*
海外に来て、テンション上がらなくなったのはいつからだったか。
初めの頃は
ニューヨークの大都会ぶりに
日本とは違う町並みに
マーライオンを見て
自由の女神を仰いで
どこまでも続く地平線を目の前に
世界を相手に出来ることが誇らしく
緊張感に興奮
それに達成感というか優越感というか
そんな高揚があった。
なのに
いつの間にこれが日常になったんだ。
「kjdaji nkkn fji opanf ni ndjf」
「oh da nn nfhaoen wil auein」
↑いつもながら適当にキーボード押してるだけです
英語を喋るイケメン光輝を妄想して下さい
ったく、だからそれはさっき説明しただろ。
「soj daoadjfidjf ik so foekj doiu 」
「oh!」
おぉ!じゃねえし
なんだその今初めて聞いたような顔は。
誕生日の当日。
スズからおめでとうのラインは来たが、電話でイチャこきながら日付を跨ぐような事はできなかった。
出張が仕方ないのなら、せめて時差が真逆じゃない国がよかった。
どこにせよ、どっちの時間でハピバなのか謎だけど。
「やぁ朝霧くん急に来て貰ってすまなかったね」
「いえ!」
ガチャッと部屋に入ってきたのはエネ開のニューヨーク事務所の所長。
ニューヨークより浅草が似合う風貌。
腹巻きとハットにカバン持たせたい。
事務所と言っても、うちの支社よりほんのちょっと小さい規模で、支社と名乗っても良さそうな感じだけどな。
「飛行機何時だっけ?
いやぁ、飲みに出たかったのになぁ
時間なかったな」
「はい」
「今度またゆっくり
ウインナーの美味い店見つけたんだよ
目の前で焼いてくれてね~」
「いいですね、ウインナー好きです」
ウインナーかよ
肉を食わせろ。
「じゃ、またヨロシク頼むよ」
「はい!では失礼します!」
やっと終わった。
こっちにいる間はあまり時間がなく、スズの土産がハンカチとキャップとリップとマニキュアしか買えなかった。
↑じゅうぶん
だから空港でお菓子を買い込み
飛行機に揺られること十数時間
「ただいま…」
家に帰り着いたのは夜中だった。
玄関の電気をつけ、とりあえず荷物を置き、靴を脱ぎ靴下を脱いだ。
これはいつものパターンの動き。
靴下を洗面所の洗濯機に向かって投げ、また玄関の荷物を手にし
「あ、ちょい待て」
タイヤ拭かねえとな。
キッチンカウンターに置いてるウエットティッシュをとりに、ガチャッと部屋のドアを開けると
ヒュッと風が抜けた。
「やべ…窓閉めてなかったっけ」
玄関からの灯りと
閉めたはずだったブラインドから差し込む月明かりの下
「わ…!なんだこれ…」
フワッと舞う風船
すげぇ
「ん?」
寝室の壁に何かの跡を見つけ、薄暗さに目を凝らしながら
カチッ
手探りで寝室照明のスイッチを押すと
そこには大きく
『HAPPYBIRTHDAY』
風船はリビングと寝室に余白無く転がっていた。
「スズ…」
マジか
クスクス
笑わずにいられなかった。
嬉しすぎてたまらなくて。
『おめでとう!』
『お帰りなさい(*^_^*)
ニューヨークどうだった?』
『ケーキは今度作ってあげるね』
『クッキー美味しく出来たんだ~
夜ふかしして作ったんだよ!』
クッキー?
どこにもそれらしい物はなく、風船をふわふわとかきわけキッチンに行くと
『昼間は暑いからいちお冷蔵庫に入れた!』
冷蔵庫を開けると赤いハートの箱が入っていた。
箱いっぱいのクッキー
一つ口に入れると、それはホロッと崩れ、バニラとバターのいい匂い。
心が何かに満たされていく。
「美味い…」
『大好きだよ』
『ずっとずっと一緒にいてね』
大好きで愛おしすぎて
大切で
幸せで
泣ける事があると
俺は初めて知った。
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