運動会②ムカデ競争

こんな片田舎の支社のエネ開は人数が少ない。


会社全体でいくと情報技術や薬開と同じくらいの人数はいるけど、それは主に主要都市の支社に配属され、うちは群を抜いて少ない。


だけどこの運動会は部署別対抗。

優勝チームにはこのあとの打上費と、参加者にギフト券。

それにお掃除ロボットが贈られる。

毎日掃除に入ってもらえるわけじゃないから、部長はこれが欲しい。



「可愛いな~」

「スズちゃんジュースあるお」

「青井本部長似てねえな」

「さきいか食う?」

準備が終わりテントに行くと、スズは囲まれていた。

ニコニコしてさきいかを食う。


「さすが癒やしのポメラニアン」

「もう飲んでんの?」

静香が缶ビールを一本俺に差し出す。

「やめとく、スズいるし」



「スズちゃん!頑張ってね!期待してるよ!」


部長がそう言うとスズは「はい!」とまた笑う。

恐ろしいほど運動神経ないけど、返事は良い。


「可愛らしいわね~

 よかったじゃない朝霧くん」

お上品なこのご婦人は部長の奥様。

「主人から聞いてたのよ

 可愛い彼女が出来て仕事も良くなったって」

「いえそんな」

「守る物が出来ると違う?」


守る物?



「はい、違いますね」



「そう」ウフフ



「可愛いお弁当の作り方、教えて貰わなきゃ」

部長夫人はさきいか食ってる輪の中に入っていった。



「そう言えば下田は?」

「迎えに行ってから来るって、少し遅れるみたいよ」

「あぁ、家族旅行か」





パンパカパーーーン


『開会式を始めまーす

 部署ごとに並んでくださーい』


あの小さな支社にこんなに人がいたんだなって思う。

こうやって集合すると結構な人数だ。


『優勝賞金は二の次!第一に怪我のないように!』

『準備運動をします』


俺の家族枠で参加のはずなのに、スズは一向に俺の横に帰ってこない。

花田さんと余田さんに連れて行かれ準備運動。

そこに第二企画室の松坂さんがやって来て、さらに情報技術部の浦川さんが来てスズを撫でる。


可愛いのはわかる

そこいらのOLよりよっぽど可愛い。


「変なことはしないでしょ

 一応花田さんと余田さんなんだし」

「わかってます」

「可愛がってもらえる方がいいわよ」


『1!2!3!』

組合長がするようにスズも一緒に屈伸をする。

そしてエロオヤジ化が始まってる30代半ば独身たちが微笑む。

いやニヤける。

俺のスズの可愛さに。


長ズボン履いて来いっていわなきゃだった。

なんであんな短いの履いてんだ。



「……」



「朝霧?どうしたの顔赤いわよ」



白くて細い真っ直ぐ伸びた足

見てしまったスヌーピーのあれ


禁断のそれは、今まで俺が見てきた中にそのジャンルはなかったし、色気はないと分類されるジャンル。

それにスズはどう頑張ってもムチムチセクシーではない。

なのになんだ


あのエロさはなんなんだーーーー!!!



『では早速プログラム一番からいってみよー!』


テントに戻り、プログラム一番、ムカデ競走がスタンバイに向かう。


「よし!じゃあ代打スズちゃん!」

「いいね~!」

盛り上がる。

ムカデ競走に出るのは、俺と余田さんと下田と初登場西島さん

人数合わせの背景なので覚えなくて結構。


下田が来てない。

家族旅行の連休だから。


「えーー出来るかな」

「大丈夫大丈夫、俺の前においで

 優しくしてあげるから」

「ホントですか~」

完全にセクハラ上司に片足ツッコんでるじゃねえか。

「可愛いな~」

「ズルいぞ余田!」

「さ、行こう

 下田来るなよ」

冗談が含まれてるのはわかってる。

余田さんがスズの腰に手を回す。


「偉いね~

 よく我慢できましたね~」


スズは嫌がらない。

冗談とわかってか何も考えてないか。


むしろそれに乗っかって

「右足から!せーの!」

「まってスズちゃんそれ二人三脚

 ムカデは縦一列だから」

「あそっか、じゃあ肩ですね!」

肩に手を置けとスズは余田さんの前に出る。


嫌そうな顔でもすれば助けに入れるのに。


スズはわかってるのか、おっさんたちのそういうセクハラめいた事。

俺の彼女とか関係ねえ。

後輩の彼女なんて遠慮無し。



「代打静香ちゃーん!」



いきなり缶ビールを俺におしつけ、静香は元気いっぱい手を上げた。


「朝霧腹痛でトイレ行きまーす」


余田さんとスズの間に割り込む。


「どいて余田さん

 順番的にスズちゃんの後は私でしょ!」

「えーー…俺静香ちゃんの肩?」

「何かご不満でも?」

「無いです…」


お前、毎年組合のイベント出ないじゃん。

ビール飲んで見学して。

運動は嫌いだから。


「フフ…」


思わず笑いがこぼれてしまった。



「だから今年は動ける格好で来たのか」



殆どの競技に出ないといけない若手な俺。

思いがけず見学になり、押しつけられたビールを飲んだ。


楽しそうなスズがロープを足首に結び、運動したくない静香が、同じように楽しそうに笑って間に立ってくれた。



俺が乱入すれば変な空気になる。



静香には頭が上がらない。


入社したときからずっと。



いや



『あ、オナラの人だ!』



面接試験の時から、俺はもう静香に頭は上がらなかった。




『よーーーい…』パァァンッ!



思いっきり笑うスズと静香。


男ばかりで揃えられた他の部署から断トツ遅れたけど、二人とも楽しそうだった。




「おーー、始まっとる」



呑気な声が背後から。



「下田お前…!」



振り向くとご一行様。



「まぁまぁどうもお世話になってます~」

「母ちゃんこの人、噂の朝霧さん」

「あ!女子高生とちょめちょめの!」

はぁ?

「司がお世話になってます~」

「あ…いえこちらこそ」


「あーあ、ビリッケツじゃん」


お前が遅れて来るからこんな事になったんだろ!

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