修学旅行①渡さん

「杏奈のめっちゃ可愛い!」

「そんなの欲しい!」


賑やかな駐車場集合。


杏奈のスーツケースはレトロお洒落なトランク風。

ソフト部たちはソフト部のやつ。

おおきなボストンバッグの人もいれば、コロコロ付きのスーツケースの人も。


そしてこんな女子校で断トツ地味カッコいい系の私。


「完全に彼氏の借りてきました感!」

「なんなの!地味なのに羨ましい!」

「これヴィトンじゃん!」

「え、びとん?」


みんな浮かれてる出発前。

三年になってすぐにある修学旅行は、クラスが仲良くなる前にあるから、クラス替え次第で地獄になることもあるという。

だけどこれを機に仲良くなるのも目的らしく、バスの中の席順はシャッフルだった。



学校の駐車場にズラッと並んだ虹色のバス。



5号車に連行される私たち。

「お荷物置いて乗って下さいね~」

せっせとトランクに荷物を詰め込む運転手さんに

「「「お願いしま~す」」」

荷物を置く。

「はい!」


「わ、イケメン」

「ホントだ~」

「こーきの方がカッコいいし」

「はいはい」


「あ、ガイドさん可愛い~」


そういえば私も職業体験のやつでガイドさんになったっけ。




「青井そこね~」

「はーい」

「岡田後から二番目、そっち」

「はーい」

担任は栃原先生。

参照、最初の方。

あのボタンをつけてくれた家庭科の先生。


決めてたのかはよくわからないけど、担任が言う席に座る。

仲良しグループは関係なく隣に座ったのは


「青井さんよろしく」


大人っぽい雰囲気であまり関わったことのない人。

三年で初めて同じクラスになった。


「渡藍子です」


あ、そうだ

渡さんだった。


黒髪のワンレンのロング。

ちょー小顔。

背も高いしパリコレとか出れそうな雰囲気。

大人びた涼やかな表情。

簡単に言うとアレよ


私と真逆


↑わかりやすい


あまり友達とつるんでない感じだし、こんな私なんかがお隣で申し訳ない。


「あ、窓側かわろっか!」

「いいよ、大丈夫」


横に座った渡さんはいい匂いがした。

大人っぽい香水?お化粧?


「青井さんいい匂いするね」

「え?」

「何かつけてるの?」

「なにも…」

あ!あれだ!

「ヘアオイル!メイドインシンガポールなの!」


クスクス


「あ…」

はずかしいな。




「全員いるーー?出発するよ~」



栃原先生が若干乱暴に言うと、バスに上がってきたガイドさんは軽く頭を下げ、数を数えながら通路を歩いた。

指を指すんじゃなく、指を綺麗に揃えた手の平を、自分の前でカウントするリズムを刻む。


顔を見ながら微笑んで、一人一人の顔を覚えるみたいに。




バスはゆっくりと動き出した。

前のバスに着いていく。


学校の門を出て道を走り出す。



「青井さんは何班?部屋」

「あ、私3班

 杏奈とかキノコと一緒なの

 あー…わかる?岡田さんと木…」

「わかるよ、いつも仲良くしてるグループ」

「うん」


渡さんって誰と一緒なんだろう。



『マリア女学院三年五組の皆さま!

 あらためましておはよーございまーーす』



「ピアノ、上手だね」

「え?」

「あ、ごめん

 上手とかのレベルじゃないんだよね」

「そんなことない」

「音大に行くって聞いたから」

「一応面接有るんだけどね…英語苦手でさ

 下手したら落ちるかもしれないの」

「落ちはしないんじゃない?」


『福岡空港までですが

 帰りもお迎えに参りますのでよろしくお願いします』


「音大にスカウトされるなんて凄いよ

 英語くらいで落とさない気がするけど」

「そうかな…」


バスは駅前を通過し、たぶん高速道路に向かってるんだと思う。


オフィス街を通る。



「あ!」



甲田ホールディングスの前をバスが列を成した。


見上げるビル


こーき、いるのかな


あのビルのどこかから見てないかな。



↑見てる

 8階の窓に下田と張り付いてる

『どれですか!』

『たぶん5台目!5組だから!』

『あれかーー!

 おーーい!スズちゃん!』

『お前らなにやってんだ!仕事しろ!』




「彼氏、甲田ホールディングスなんだよね?」

「あ…うん」

会話の途中だったのに窓の外に気が行ってた。



「私の彼氏ね、瑞葉コーポレーションなの」



「……」



は?



「バリバリサラリーマン。

 一緒だなって思ってたんだ。

 話しかけるチャンスなかったからさ

 青井さんと話したいなって思ってたの」


ごめん

共通点の彼氏社会人枠よりも



お父さんの顔しか浮かばない。



『短い時間ではございますが

 ご一緒させていただきますガイドは

 小林ココナでございます』



「なんだそうだったんだ~

 じゃあ部署が違うのかな~」

「そうかもね」

「あ、じゃあさ瑞葉の近くのお店知ってる?

 フレンチのね美味しいとこあってね」

「知ってる!エビアボカドピザのとこ!」

「そうそう!ランチも美味しいんだよ!」

「夜しか行ったことないの!」

「じゃあ今度ランチ行こうよ!

 彼氏にお小遣いもらっとく!」

「え、彼氏お小遣いくれるの?」

「くれないの?」

「もらったことない…て事もないか」


こーきがお小遣いをくれた。


こーきにスーツケースを借りて家に帰り、旅行の準備を詰め込んでるとき、ファスナーのついたポケットにお金が入っていた。


『欲しいもの買っておいで』って

付箋が貼ってあった10000円札。



「うちはね

 離婚しちゃってお母さんが育ててくれてるから

 お小遣いもないし

 必要最低限しか買ってもらえないんだけどね」

「へぇ〜そうなんだ」


「私と彼氏が出会ったのはそれだったの

 お小遣いちょうだいって

 その代わりね…その代わり…」


渡さんは下を向いた。

言葉を選ぶように

違う

なくしたみたいに。



「エッチなことしていいからって…」


え?


「私が声かけたの

 そしたらついてきてお金くれて…」

「そ…そうなんだ…」


「でも何もしなくてね

 美味しい物でも食べに行こうって」


「それから付き合ってるの?」

「うん」

「好き…?」


「大好き

 彼がいないなんて想像も出来ない」


すごく優しい人なんだろうな。

部署は違ってもお父さんも知ってる人かもしれない。


「でもさ~

 いっつも出張とか残業で全然会えないの!

 平気で1ヶ月会えないの!」

「あ、わかる~

 私も春休み全然会えなくて喧嘩したの~」

「わかる!春休みって全然会えない!」

「だよね!」

「しかも接待とか飲み会多くてさ~

 周りには綺麗なお姉さんばっかいるじゃん!」

「え!渡さんでもそんなこと思うの?!

 十分綺麗なのに!」

「うそ!青井さんの方が可愛いし無敵じゃん!」


私は気の合う仲間を見つけた。

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