スノボ旅行18.音大
「こーき!」
ドアを開けるとそこには
「おはよ…」
顔色のよろしくないこーき。
「飲み過ぎた…昨日」
男子会も盛り上がったみたい。
「お水あるよ?昨日大浴場で買ったやつ」
「あぁ…大人ごっこのやつか…ちょーだい…」
ペットボトルを渡すと一気飲み。
「あーー美味い水だ」
「味わかった?」
「そりゃ大人だから」
そんなことを言って笑った。
「荷物は?」
「自分で持てるよ」
「格好つけたいから持たせて」
「仕方ないな~」
私の大きな荷物と自分の荷物を持って、顔色の悪いこーきはニコッと笑う。
「忘れ物ない?」
「うん!」
「じゃあ帰るか」
楽しかった大人一人部屋のホテルライフ。
ドアが閉まると扉に鍵が掛かって、旅行が終わる感じがした。なんだか少しだけ寂しかった。
「こーき…」
「ん?」
両手塞がって耳を傾けたこーきに
「えいっ!」
チュッ
「連れてきてくれてありがと!」
顔が熱いーーーー!
「朝ご飯朝ご飯!!先行くね!」
クスクスって笑い声が追いかけてくる。
「スズ!」
こーきも耳が赤い。
「来てくれてサンキュ」
今朝のご飯は洋食だった。
ロールパンに丸いパンにデニッシュの四角いパン。
サラダとウインナーがあって
「ジャムめっちゃあるーーー」キラキラ
「スズっち見て苺ジャムが苺なの!」
「うわすごい!絶対それ!」
苺にママレードにキウイにブルーベリー。
「洋なしってレアい~」
「朝霧くんがジャムにワクワクしてる感がヤダ…」
「は…はぁ?!うっせえな!」
パンばかり食べ過ぎた。
「お前よくあんだけ飲んだ次の日に
ジャム山盛りでパン食えるな」
「その黒いの何だよ…」
「あんこ」
「おえ…」
そんな朝食の後はもうお別れの時間だった。
東京組の真田さんとマドカさんとれんちゃん、それに宮城の村上さん達も飛行機が午前中。
横浜の米山さんは「岡山支社寄って帰らないと」らしく、大阪の竹内リョウマさんと京都のさなえさんはちょっとだけ広島観光して新幹線で帰るとか。
熊本の小沢さんと福岡の神田さん。
福岡まで一緒で小沢さんはそこから自分の車で熊本に帰るらしい。
「スズっち来年もおいでね~」
「はい!」
ホテルからバスに乗る飛行機組を見送るため、外に出ると
「んーーー、やっぱ空気美味しい」
マドカさんが伸びながら大人台詞を言うから
「プ」
つい笑ってしまった。
「なによ」
「ちょ…スズ」
↑音大紹介してもらうから丁寧に扱いたいこうくん
「だって私空気の味わかんなくて」
マドカさんが笑う。
フフンって。
「そりゃそうね
田舎に住んでるんだからこれが日常でしょう?
わからないでしょうね
都会に住んでるとわかるのよ」
「そっか!すごーーい!
本当にわかって言ってたんだ!
味しないのにすごいな~」
「スズ…」
「イラつくわね…」
「すみません…」
「朝霧さん」
「はい」
「例の件、よろしくお願いします
いいお返事をお待ちしてます」
なんの件?
「こちらこそ
よろしくお願いします」
なぜかこーきがビシッと頭を下げた。
「スズちゃん」
「はい」
「ピアノ、毎日しっかり弾いてね」
え?
そりゃ一応毎日弾いてるけどさ。
大きなバスがホテルに入ってくる。
「じゃ、またね~」
「また来年~」
別れを惜しむような感じでもないけど、みんなどことなく寂しそうで、横で見送るこーきもちょっとだけ寂しそうだった。
残ったのは車組。
「お前ら広島駅でいいの?」
「いいで~す」」
「全員乗れねえから神田の車にも乗れよ」
「俺しずちゃんとがいい!」
「や、てか俺の車で5人ぴったりだし
朝霧いいぞ、俺が送って帰るから」
「そんな…!」←竹内
そんな感じで車に乗り込んだ。
「じゃーねスーたん」
助手席側の窓から神田さんが
「ターッチ」
手の平を向ける。
なんか寂しいなって思った。
私が一人でぽつんとならないように、1番気に掛けてくれて楽しませてくれたのは神田さんだった。
「ありがとうございました」
手の平を向けるとパチンと軽く手の平があたった。
「神田、明日書類の件メール送るから」
「オッケ」
「じゃあまたな」
車がゆっくり動き出し、静香さんは後部座席で後ろに向かって手を振る。
アハハ
「飛びすぎ~」
楽しかったな。
初めはちょっと緊張もしたけど、こんなに楽しい旅行になるなんて。
「なんか寂しいね~」
静香さんがあ~ぁってため息をつく。
「スズちゃん来年も行こうね」
「はい」
「朝霧、逃がさないように頑張んなよ」
家に帰り着いたのは午後3時を回ったとこ。
「あーー着いちゃった」
なにこのガッカリ感。
「んーー疲れた」
こーきは車を降りると背伸び
「スズちゃんの荷物どれ?」
トランクを開けた静香さん。
そんな音を聞きつけたのか
「お帰りなさい!」
玄関からお母さんが出てきた。
「お母さん!」
帰って来たくなかったのに、お母さんを見た途端すごく嬉しくなった。
「スズちゃん楽しかった?」
「うん!」
よしよしって撫でる。
「朝霧さん静香さん、ありがとうございました
お世話かけましたね」
「いいえ全然!」
「こちらこそありがとうございました」
「どうぞ上がってください」
すぐ帰っちゃうのかと思ってたけど二人ともうちに上がった。
「でね、これこーきが買ってくれてね
ブレスレットはお揃いなの」
「まぁ可愛いわねバッグ
しっかりしてるし、大事にしなさいよ
そういうシンプルなのはずっと使えるわよ」
「うん」
キッチンでお茶を淹れながらお母さんは私の話を聞く。
「じゃあ朝霧さんも滑らなかったのね」
「いいの、倉敷デート楽しかったから」
「もぉ…ごめんなさいね
せっかくスキーだったのに」
「いえ、倉敷も行ってみたかったので」
お茶を飲み、静香さんがくれたチーズタルトを食べながら写メを見せたり。
それが一段落ついた頃
「疲れてるでしょうしどうかなって思ったんだけど」
お母さんが口を開く。
「二人ともお夕飯食べて行かない?」
戸惑ったお母さんに反して、二人は何も戸惑うことはなかった。
「いいんですか?!嬉しい!」
「お言葉に甘えて」
お母さんは嬉しそうにニコッと笑う。
「じゃあ早めに夕飯にして
早く帰るようにしましょうね
二人とも明日はお仕事でしょう?」
「はい」
「ありがとうございます」
「スズちゃんも明日学校だしね」
「え」
にこやかだったお母さんが急に真顔になる。
「スズちゃん明日からテストでしょ?学年末」
チ、チ、チ、チ、チーーーーーーン
「ウソ」
「スズ…お前まさか」
忘れてた。
そんな現実に帰ってきた夕方。
「だから紀元前にはナンチャラカンチャラ」
静香さんの世界史からの
「だから電磁誘導の式でナンチャラカンチャラ」
こーきに理科をたたき込まれ
「静香何読んでんだよ」
「今時の女子高生はこんなの読むんだね」
「スズも漫画読んだりするんだ」
え、漫画?
ベッドに寝転がって静香さんが読んでたのは
「あーーー!ダメ!」
麻衣ちゃんに薦められたちょっと大人な漫画本。
「え、なになに
どんなんだよ」
「朝霧には見せれない」
「それは麻衣ちゃんが勝手に!」
「私もなんか持ってたかも遙か昔に買ったやつ
今度貸してあげるね
私もこんなの読んで予習したわ~」
こーきは見たがったけど、静香さんはこーきには絶対に見せなかった。
こーきに見られたら死ぬ。
そうして私の勉強をみてもらってるうちに
「ご飯よーー」
下から声がした。
「懐かしい気持ちになった」
「お母さんってこうやって呼んでたわね~」
ニコニコしながら私の部屋を出て、子供みたいに階段を駆け下りた。
「あ!青井本部長お疲れ様です!」
「おじさまお帰りなさい」
「いやいや二人ともごめんね
世話かけただろ~」
おじさまとか言われてご満悦?
キモい。
「さ、座って座って」
食卓に準備されてたのはお鍋だった。
普通のやつ。
お肉と野菜となんか魚の切り身の。
「今日は胃に優しくね」
お母さんはそう言って笑ってお鍋の中身を整える。
で、車なのに
「泊まったらいい
明日ちょっと早めに起きたらいいだろ」
グラスを合わせるお父さんとお母さんとこーきと静香さん。
↑疲れてるだろうに可哀想
ゴクゴクってビールを飲んでグラスを置くと、隣に座ってたこーきはちょっとだけふぅって息をついた。
なんだろ。
なんか、よし頑張るぞ!的な。
「あの…青井本部長お母さん」
え、何?
何の話?
いきなり真剣すぎて、お父さんもお母さんもビビってグラスと箸を置いた。
結婚の挨拶だったらどうしよう。
「スズ…」
「はい」
「大学のこと、気持ちに変わりない?」
音大に行きたいって言ったこと?
「変わりないよ」
「お父さんお母さん」
人生一大決心みたいな顔してこーきは
「青山美芸大がスズが…」
え?何?
「や…青山美芸大の推薦が」
何の話かわからないけど、台詞まとめてなかったらしいこーきがしどろもどろ。
「朝霧さん、どういう事?
順番に話してくれる?聞くから」
お母さんが助け船出航。
「あの…自分の同期の彼女が
青山美芸大の教員らしくて」
「え、マドカさん?」
こーきは私に頷くだけの返事。
「スズのピアノを聞いて大学に推薦してくれると」
「えぇ?!?!」
たぶん私が1番驚いた。
「え…っと朝霧さんそれは」
「ですから一般試験無しで
選考の項目なんかは詳しくまだわかりませんが
でもスズは英語は絶望的だし作文も」
こーきが説明するのを
「それはなにか」
お父さんが低音で遮った。
それだけですんごい緊張が食卓を凍らせる。
そうだよね。
「東京…だもんねダメだよね」
「え?」
必死の形相で力説してたこーきがキョトン。
「こーきごめん!
マドカさんにも謝って!
そう言ってくれた気持ちはすごく嬉しいよ!
大学で教えてるような人に認めてもらえるなんて」
「や……え…えぇ?!」
「マドカさんってそんな凄い人だったんだ。
おかしいと思ったんだ
いきなり弾いてみてとか言うしさ~」
「待って…スズ…ちょ……」
「東京じゃね…うちから通えないもん
うちから通える大学じゃないとダメなの」
チーーーーン…
↑こーき脳内、たぶん白目
ガラガラガラガラ
↑何かが崩れ落ちるこーき、粉砕
「あ、静香さんビール飲むの早くない?
注いであげる~」アハハハ
「や、待ってスズちゃん…」
「なんか空気悪いですよね~やになりますね~」
「サラッと何言ってんの」
から回ってんのわかってます。
「鈴、ちょっと黙りなさい」
「スズちゃん座って」
あーーー嫌だ嫌だこの空気。
私が座るとお父さんはふぅーーって嫌なため息をついた。
「鈴」
「はい」
「鈴は音大に行きたいのか?」
絶対反対される。
こーきが頑張って話してくれたのに。
お父さんは反対するもん。
音大に行くなんて東京に行くなんて。
許してくれるはずない。
「鈴が大学でピアノを勉強したいのか。
それが一番大事なことだろ」
急加速で
何故か涙がこみ上げた。
最近お父さんは優しいんだった。
「ピアノ…したい」
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