大人の階段 × 愛のかたまり

スノボ旅行①静香さんとお泊まり

「これは明日着て行って

 こっちがホテルで着るやつで

 パジャマと下着と帰りに着る服」

「うんうん、いいんじゃない?」


部屋いっぱいに広がった服やらなんやら。


「スズちゃん雪って案外焼けるのよ」

「え、そうなんですか!」

「お化粧してない?」

「BBクリームとパウダーです」

「羨まし!それで晒せるとか凄い!」


静香さんはベッドに座って缶ビールを飲みながら、散らばった私の服を物色する。

さっきお風呂に入ったから、すっぴんでパジャマでメガネで。


「これ可愛いね、ブラウス」

「それしまむらなんです」

「えぇ?!うそ!」



ここは私の部屋。


仕事が終わって荷物を取り、こーきと静香さんが来たのはもう22時だった。


コンコン


「はーい」


「あらま、散らかってるわね~」

お母さんが毛布と枕を抱えてきた。

「スミマセン私します」

「いいのよいいのよ」

お母さんの後ろから敷き布団と掛け布団を抱えたこーきも。


「準備終わった?」


明日の朝、出発が早いから、こーきと静香さんは泊まることになった。

迎えに回って高速まで走るより、同じ場所から一緒に出発した方が時間短縮だし寝坊できるってことで。

言いだしたのはお父さん。

「うちに泊まって県央から高速乗ればいいだろ」

絶対こーきと飲みたかっただけ。


「すずちゃん可愛いの買って貰ったわね」

「でしょ~」

「静香さんごめんなさいね、お世話かけるわね」

「全然!スズちゃんが来てくれて私も楽しいし」

「まぁそう?」

「ね、スズちゃん」

「よかったわね、お姉ちゃんが増えたみたい」

エヘヘ〜



洋服を畳んでスーツケースにしまい、化粧品なんかの細々したのをポーチにざっと入れて、それもスーツケースにしまう。


「すずちゃんこれお小遣いね」


お母さんが荷物の上に封筒を置いた。

「ご飯食べたりお土産買ったり

 飲み物買ったりするでしょ?

 そんなのは自分で払うのよ」

「はーい」

「や…お母さんそれは

 お父さんにもいただきましたので!」

え、そうなの?

「いいのよあれは」

「え?」


「探り入れに行っただけだから」


お母さんが珍しく悪い顔で笑い、こーきは汗汗した。


「お金掛かるんだから。

 使ってちょうだい、子守代よ」



荷物を退かした床の上に、こーきが持ってきた布団を伸ばす。

「じゃ、静香さん自由にしてちょうだいね

 冷蔵庫も開けてくれていいから」

「はい、遠慮なく

 ありがとうございます」

お母さんは一階へ降りていった。


「いいね~スズちゃんち

 理想的な感じがする」

「え、そうですか?」

「朝霧んちは若干愛に偏りあるから」

「うっせーな、否定はしないけど」

「静香さんは東京なんですよね?

 兄妹いるんですか?」

「うちはね、弟と妹。

 親は離婚したから

 お母さんとお母さんの再婚相手」

「そうなんだ~

 長女だろうなとは思ったけど」

「朝霧、これを戸惑わず返せるって

 なかなかいいわよ」

「なんだそれ」

「大体ね、えっ…!ってなるのよ」


こーきが机の椅子に座り、静香さんが飲んでたビールを横取りする。

「ねえじゃん!」

「持ってきて

 冷蔵庫開けていいって言ってくれたし」

こーきがビールの缶を持って出ていく。


「さ、スズちゃん今のうちに下着なんか詰めちゃいな

 あいついたら出来ないでしょ」

「うん!」

「生理の予定ない?

 私も一応持って行くけど

 持ってた方がいいかもよ」

「それはお母さんにも言われて入れました!」

「まぁ、ホテルにも何でも売ってあるし

 ちょっと行けばコンビニもあるんだけどね」

「静香さん」

「ん?」


「ありがとうございました」


「え?」


「あ、言わなきゃって思ってて…

 静香さんが来てくれなかったら

 本当に終わってたかもしれなかったから」

「そんなこと無いよ。

 私が痺れきらしちゃったけど

 朝霧も自分でなんとかしたと思うよ」


「ちがうの」


「何が?」


「こーきが来ても…

 私逃げちゃってたと思うから」


「そっか」



「18才になったら最後までして貰います!」



アハハハハハ


「怖くない?」



「どうだろ」



私は安心した。


18才までしないと言われて


私は安心してしまったの。



「怖くなくなる時がくるよ、大丈夫」



もう背伸びして先を望むことはやめる。


今の私が私だから。


こーきがそれでいいと言ってくれるんだから。



「朝霧にとっても試練だから。

 これまでの行いを悔い改めればいいわ

 ちょっとこらしめたほうがいいのよ」


そう言って笑った静香さん。



ガチャ


「ビールでよかった?

 お母さんが酎ハイも買ってくれてたけど」

「ビールがいい!」


缶を開けながらこーきが机の前の椅子に座り


ゴクゴクゴク


立てかけてあった名刺を取った。


「まだ持ってたんだ」


「それが一番宝物なの」



こーきが部屋に入ったのは初めて。



壁に掛けてあるセーラーを、フフって笑って見た。



「キッモ!変質性感じたわ今の」

「うっせえなお前は

 気安くベッドに座りやがって…!」

「スズちゃんおいで~一緒に寝よ~」

「はい!」


「腹立つな…!」


「朝霧」


「…んだよ!」



「お先にいただきます

 スズちゃんとお泊りの夜」






.


次の朝



「はい目ぇ閉じて」


ギュッ!


「軽く、力抜いて」

「あ、はい」

見たことないような使い込まれた小道具が部屋の床に広げられ

「まぁ~上手ね」

「あ、これ新色のやつだ」

お母さんと麻衣ちゃんが見学。


「いいな~スズ、彼氏と旅行とか」

「静香さんが行かないんだったら許してないわよ」

「じゃあ麻衣ちゃん

 今度は姉妹と彼氏2人と私で行こう」

「それいい!近場でいいから行きた~い!」

「それ静香さんいいの?」

「寂しいわね」

「じゃあお母さんも行こうかしら」

「お母さん来たらお父さんも来るじゃん」

「スズちゃんあからさま嫌そうにするね

 青井本部長結構人気だよ~」

「うっそ!信じられない!」

「お母さん言われてますよ」

アハハハハハハ


盛り上がる女子

早朝5時50分


麻衣ちゃんの更に上にお姉ちゃんが出来た感じ。


アイシャドウにマスカラにアイライン

真っ赤なリップを塗って完成。


「はい次は巻きま~す」


髪にいい匂いなスプレーが振りかけられ、クルリンと。


「うわ~スズじゃないみたい」

「可愛いじゃない」


静香さんが可愛くしてくれた。




出発時間ギリギリまでこーきは寝ていた。

昨夜、静香さんは私と一緒に早く寝たけど、こーきはお父さんに捕まっていた。


「こーき起きて!」


ドスッ!


1階の和室に突入。


「んー…zzz」


布団に潜り込みながら寝返ろうとしたこーきは、布団が動かないから無理矢理引っ張り、それでも動かないから


「ん…」


目をこじ開ける。


だって私が乗ってるんだもん。



「……っわぁっっ!」



そんな驚かなくても。



「見て見て可愛いでしょ!」

「あ…え…えぇ?どうした?」


こーきは真上からのぞき込む私に手を伸ばす。


「可愛い…」


そのまま引き寄せるから、私はこーきの上にラッコさん状態。



「静香さんがやってくれた!」



「……」

「なに?」


「そうだ静香いるんだった…」



「ヒーヒッヒッヒッヒッヒ」


「?!」



「見たわよ…」

「気配を隠して盗み見るな!」

「さっさと着替えなよ

 前半は運転してやるから」

「こーき、今日はあれ着てね」

「え…」


「じゃじゃーん!

 3人リンクコーデ!」


胸元にニコちゃんマークのワンポイントが可愛いパーカー。

私はチャコールグレー、静香さんはネイビー、こーきはブラック。

それにデニムのスカート。

静香さんはロングで私は膝上、こーきはデニムのパンツ。それにニット帽。


「姉妹みたいでしょ!」

「やっぱ俺もですか…?」

「せっかく買ったんじゃん!」


完成した3人のおそろを見て

お見送りのお父さんが一言



「なんか兄妹みたいだな」



こーきは家の中と車を行ったり来たり荷物を積み、静香さんは2人分の布団を畳んで片付けた。


「スズちゃんこれおにぎりね

 お腹空いたら朝ご飯に食べなさい」

「うん」

「朝霧さんと静香さんの言うことよく聞いて

 1人にならないようにするのよ」

「わかってる」

「22時にはお部屋に戻ってね

 静香さんも会社の方とお話ししたり

 色々あるでしょうから

 1人で戻って鍵掛けて寝るのよ」

そこは1人でもいいんだ。

「会社の方に失礼のないようにね

 あなたは色々喋らずにニコニコしてるのよ」

「はーい」

「それからね」

「わかったってば!もう耳イカ!」

「タコでしょ」

「イカの方が好きだもん」



「それからね

 いっぱい楽しんでいらっしゃい」



「うん!」



やっと出発。


運転席は静香さんで助手席は私。

後ろにこーき。


「気をつけてね」

「はい!お世話になりました~」

「すずちゃんのことよろしくね」

「お任せ下さい!」


「朝霧くん、頼んだよ」

「はい」


車はゆっくり車庫を出る。



まだ心配そうなお母さん。

その横で麻衣ちゃんがあくびしながら手を振り、お父さんは少しだけ笑っていた。



「行ってきまーす!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る