年末年始⑤スズのから元気

「あの青いのがお父さん用のシャンプー」


お風呂のドアから二人でお風呂の中をのぞき込む。


「ボディーソープは端っこの白いので

 洗うやつは白のがお父さんので」

「いいよ、一日くらい手洗いで」

「黄色の使って!私のだから!」

「え…!」


「こーき?」

なんか真剣に悩ませてしまった。



紅白の見たい人が出る前にお風呂に入る。

これ鉄則。

一応お客様から入って貰うということで、こーきが一番になった。


こーきがうちのお風呂に入るって…


キャーーー!



「スズごめんな」


え、何が?


「休み終わったら一度帰ってちゃんと話すから」

「ごめんねこーき

 なんかちゃんと出来なくて…」

「スズは何も悪くないから」


相手にはっきりと〝嫌い〟を示されたのはたぶん初めて。

気付いてないだけで、どこかで誰かに嫌われてるかもしれないんだけど。


あんなに


気持ち悪い物を、見たくないけど怖い物見たさで見るみたいなのは本当に初めて。


あ、あれだ

シダ植物の裏の種の点々。

ゾワゾワするから見たくないんだけど見ちゃうみたいな。


嫌だということをはっきりと示されるのは怖かった。

しかもこーきの家族に。



「スズ」

「全然大丈夫!

 いい子ねって思ってもらえるように頑張るね!」

お父さんが反対してたとき、こーきもこんな気持ちだったんだよね。


「こーき」

「ん?」


「ちょっとだけギュッてして?」


「は…ここで?!」

「お願い」

「や…だって誰か来たら…」

「そっか…だよねごめん困らせて」


「困ってないよ」


こーきのギュが涙を誘う。

泣いたらもっと困らせるのに。



「嫌われるような子で…ごめんね…」



「スズそれは違うから…!

 あーーもう…」



頭から離れないの。

ご飯の時楽しかったけど、だけど頭から離れない。

こんなのは初めて。

心に掛かるモヤモヤを晴らす方法はわからなかった。



「こーき?また武士になってるよ?」

「あ、ごめんつい」

こーきの手がギュッてするのをやめたから、私がこーきの背中に手を回した。

こーきは頭にポンと手を置いた。

よしよしって。


目と目が合う


こーきが一瞬目をそらす。


でも次の瞬間には、チュってキスをした。


「えへへ~」

「その笑いやめろ、可愛い」

「もっかい」

今度は頬にチュッ

「私もしたい」

「じゃあ口で」

チュッチュッチュ

結局こーきがする。

「もぉ~」



ガラッ!



「「!!」」



調子乗りすぎた!ここ家だった!



「かっくん参上!」



「「は?」」



「お兄さん自分も一緒にニューヨーク!」



なんか一緒に入るみたい。




.


「うひーーー!あっちあっち」

シャツの首元をパタパタやりながら、顔真っ赤で楽しそうに出てきたのはかっくん。

その後ろから顔真っ赤の真顔でこーき。

ちゃちゃっと洗って出てきただけな時間じゃない。

二人で湯船に浸かり、話し込んだか遊んだかの時間が経っていた。


「こーきお水飲む?」

「うん」

「すずちゃん、ビールにしてあげなさい」

「え、そうなの?」

「ごめん、ホントはビールがいい」


「スズ!セクゾだよ!」

「え!こーき自分でやって!」


↑セクゾに負けた彼氏


「じゃあ私入ってこよ~後半戦が見たいし~」


セクゾに集中してたら、気付けばすぐ横にビールなこーきがいた。

その横にお父さん、それに向き合ってかっくん。

リビングのテーブルにおつまみが並ぶ。

「スズちゃんセクゾ好きなん?」

「はい!あ、でもキスマイも好きです!」

「あー!わっかる!

 お兄さんキスマイにいそうだもんね!」

「お兄さん言うな」

「でしょ!」

「俺そんなチャラチャラしてない」


「最初朝霧くんが転勤して来たときは

 ちゃらちゃらした子が担当になったなと

 正直ガッカリしたけどな」


お父さんのいきなりの告白にこーき驚く。


「お兄さんもチャラってたんですか!」

「お前のとは種類が違うしレベルも違う」

「えーーパピーひどいな~」


なんかこの状況がしっくりきてる気がするのは私だけ?


私もお風呂いってこよ。

男子だけで話したいかもしれないし。


久々に麻衣ちゃんに突撃だ!


リビングを出たとこ

「すずちゃん」

お母さんが追いかけて出てきた。

「お風呂行ってくる」

「麻衣ちゃん入ってるわよ」

「突撃~かっくんとの話しも聞きたいし~」

「最初は驚いたけどちゃんとした方ね、かっくんも」

「インセイだもんね」

「お勉強がどうのじゃないの

 食べ方もすごく綺麗だったわ」


タベカタ?


「見た目で決めつけちゃいけないわね」


見た目?


もしかして私の外見かな。

家着にも近いデニムのスカートにトレーナーだ。

化粧もしてないし髪も素。

こーきのお母さんもお姉さん達も綺麗だった。


「すずちゃん?」


「あ…お風呂入ってくるね!」



「何かあった?

 お買い物から戻って元気ないみたいだけど」



「元気だよ」

「頑張ってる元気って感じがするの」



「そんなことないよ」



言えない。

こーきの家族に嫌われたなんて。


お母さん悲しむよね

お父さんは怒るだろうし。



「お風呂入ってくるね」

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