ちょい怪/フシギの実話

コロガルネコ

はじめに

 僕が生まれ育った地元では、毎年7月に近所の神社で夏祭りが開かれました。境内は多くの屋台で賑わって、その一番奥にお化け屋敷と見世物小屋が並ぶのが恒例でした。


 僕は超怖がりでビビリな子供でしたから、その中に入ってみようなんて考えたことは一度もありません。

 そのくせ好奇心だけは人一倍で、一体中はどうなってるんだろうと、近くまで見に行きたい気持ちを抑えられません。

 しかし、お岩さんや骸骨やフランケンシュタイン、そのおどろおどろしい看板を見るだけで足がすくみます。母の腕につかまって、顔を隠しながら看板をチラ見するのが精一杯でした。


 小学校高学年ともなると、親ではなく友達同士で祭りに出かけるようになります。

 自分が怖がりなことは、友達にばれたくありません。多分皆の後ろの方からビクビクしながら、ついて行ってたのだと思います。

 ビクビクはお化け屋敷に対してと、皆に怖がりがばれないかという心配で。

 それでも決して中には入りませんでした。いや入れませんでした。

「お化け屋敷はなー、そんなに怖ないぞ。隣のヘビ女がめっちゃ怖かったわー」

 自慢げに語る同級生の話を興味津々で聞いていました。


 怖がりとビビリは大人になってからも基本的には変わっていません。

 青春真っ盛りの頃にありがちな心霊スポット巡りも、実は一度も行ったことがありません。

 その理由のひとつには、説明のつかないモノやコトは確実に“いる”し、確実に“ある”もんだと、なぜか子供の頃から思っていたからです。

 僕の地元は大阪ですが、梅田や難波などの繁華街は別として、その当時は大阪市内でも田畑が残り、夜はもっと暗かったし、日が暮れると闇と呼べる箇所がそこかしこにありました。

 街灯の数が今より断然少なく、照度も数段に低かったのでしょう。

 見えないものへの恐れ、よくわからないものへの恐怖心が、自然と身についていったのだと思います。


 昨今、何度目かの怪談ブームのようです。

 カクヨム上でも、書籍やYouTubeチャンネルでも人気を呼んでいるようです。

 僕は怖がりのくせに持って生まれた好奇心からか、中でも実話系の話に興味が尽きません。

 いつの頃からか隠れ怪談マニアになっていました。

 実話系の中でも特に好きなのは、幽霊やお化けが出てくるような本格的な怪談話よりも、異世界に紛れ込んだとか、河童に出会ったとかいう話に強く惹かれます。

 僕は特段霊感が強い自覚はありませんが、あれは一体何だったんだろうという消せない記憶や、説明のつかない体験、人から聞いた不思議な話が幾つかあります。


 これまで他人には話してこなかったけども、「あれって一体何だったんだろう」という体験って、誰しもひとつやふたつあるのではないでしょうか。

 そんな話を掘り起こし、書き記していきたいと思います。


 本格的な怪談話や心霊話はなるべく書きません。

 そういう話をするとそういうモノが集まってくると聞きます。冒頭にお話しした通り、怖がりの超ビビリ作者としては、なんとしでもそれは御免蒙りたい。

 ですので、そういうジャンルの話を期待する方には物足りないと思います。

 日常の中のちょっと不思議な話、薄味の怪異話、怪談と呼ぶほどではない“怪談未満”の話、そんな話を「ちょい怪」と名付けました。


 総て僕の体験話か、僕が家族や友人知人から聞いて集めた話です。創作話はひとつも書きません。

 実話ゆえに脈絡がなく、唐突でオチのない話も多いです。

 しかし体験した当人にとっては至って真剣で、ずっと記憶の片隅に引っかかっていた、誰かに聞いて欲しかった話ばかりです。

「んな、バカな」と言わず、お読みいただければ幸いです。


 それでは『ちょい怪/フシギの実話』開演します。

 第1話は、僕が子供の頃におばあちゃんから聞いた話です。

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