Ghost Game
一般通過ゲームファン
第1話 史上最悪のハロウィーン
※この物語はフィクションです。
作中に登場する人物、団体、思想、事象は全て、実在する人物、団体、思想、事象とは一切の関係を持ちません。
作中の残酷描写、暴力描写は重めなものになることが予想されるため、重度の残虐的な描写が苦手な方や、お子さまによる閲覧は推奨できません。本作の閲覧による精神衛生上の影響に関して、作者は一切の責任を負いかねますので、ご注意ください。
以上のことに同意できる方にのみ、本作の閲覧を推奨致します。
最後になりますが、貴方様の身に不運が降りかからぬことをお祈りいたします。
20XX年10月30日。
毎年のように、
毎年10月31日、ハロウィーンに、玲奈は仮装をして友達と渋谷に繰り出す。
渋谷ハロウィーンといえば、誰もが同じ光景を思い浮かべるだろう。最早イベントという枠を通り越して、社会現象とまで言ってもいいのかもしれない。
完成した自作の仮装を眺めて明日のことに胸を躍らせていると、ポケットの中のスマホが震えた。明日、共に街へ繰り出す仲間の一人、
『おっす、れなち〜
いよいよ明日だね!
仮装の準備終わった?』
玲奈は慣れた手つきで素早くメッセージを叩き込む。
『うん、終わったよ!
今回は我ながら自信作!( ◦`꒳´◦ )
そっちはどんな感じ?』
『こっちも準備万端!
すっごいの作っちゃったもんね!
れなちに絶対ギャフンと言わせてやるんだから!ʕ ◦`﹀´◦ ʔ』
メッセージを見る限りあちらも自信満々のようだった。
玲奈はさりげなく、もう一人の仮装仲間に確認を取る。
『カノンはどう?』
そのメッセージが送信されてからしばらくの間、チャット欄が沈黙する。
奏音からの既読も付いているのだが、一向に返事が返ってこない。何か立て込んでいるのだろうか?
それからさらに五分が経過して、ようやく返事があったのはいいが、問題はその内容だ。
『ごめん
私、今年は行かない』
「え!?」
その文章を見た玲奈は、思わず驚愕の声を上げてしまった。昨日までは「今年こそ!」と張り切っていた奏音が、前日になって突然来ないと宣言するだなんて、思ってもいなかった。
『体調でも崩したの?
それとも、家族の事情?』
彼女が考えるよりも先に指は自動的にそのメッセージを送っていた。
『いや、そうじゃなくて……』
その後、意味ありげに少し間が置かれて、次のメッセージが送られてきた。
『イヤな予感がするの
明日、渋谷で何かが起こりそうな、イヤな予感が』
そのメッセージを見た時、何故かぞくっとした。
奏音の予感が当たる。
直感的に、そう思った。
『だから、行かないってこと?』
香織が単刀直入に切り込んだ。
『うん』
『いやいや、予感がするだけでしょ?
ダイジョブダイジョブ、そんなの当たるわけないって!』
確かにそうだ。
ここはゲームやアニメの世界ではなく、現実だ。実際には、予感なんて滅多に当たるもんじゃない。
さっきのも、きっと自分の気のせいだ。
玲奈もそんな風に考えていた。
立て続けに香織からメッセージが送られてくる。
『あ!さてはカノン、仮装に自信がないんでしょ?
不安だからそんないらない心配をしちゃうんだよ!
もし出来が悪くたって私たちは笑わないし、他の誰かにも笑わせないから安心しなよ!』
『そ、そうなのかな……』
奏音から再び、心配を募らせているようなメッセージが送られてくる。
いつもは前向きで、心配事をこんなに引きずったりしない奏音にしては、珍しくネガティブな様子を見せている。
『カノン、もしかして疲れてる?』
『言われてみればそう、かも……』
その返事を受けて、玲奈は次の文言を打ち込む。
『とりあえず、今日は早めに休んで、明日調子を見てから決めたらいいよ
来るか来ないかは、明日のカノンに任せるから』
彼女の返事は即座に返ってきた。
『うん、そうするよ
ありがと
二人とも、気をつけてね』
『OK👌
じゃあれなち、明日渋谷でね!
おやすみ💤』
『うん、おやすみ』
それだけ言ってチャットを閉じると、玲奈はベッドに身を任せ、眠りに落ちた。
しかし、彼女は後に後悔することとなる。
彼女自身の直感……ひいては、親友の予感を信じるべきであったと。
信じて、惨劇の舞台の一つとなる渋谷に、繰り出さなければよかったと。
『史上最悪のハロウィーン』
犠牲者は10万人に上るか?
20XX年10月31日、列島各地で『史上最悪のハロウィーン』として語られるこの惨劇は起こった。
最も衝撃的な事案は渋谷のランドマークの一つ、SHIBUYA109での50代の会社員による自爆テロだろう。
この爆発の影響で、109ビルはスクランブル交差点側へと崩落。渋谷を訪れていた多くの仮装者が犠牲となった。
警察によると、容疑者が勤めている会社はブラック企業の疑惑があるS社であり、本件を受けた捜査により、疑惑は真実であったと判明、その他不祥事の隠蔽も発覚し、警察はS社の代表取締役・K氏を逮捕。K氏は取り調べに対して、容疑を否認している。
また、渋谷での自爆テロを皮切りに、横浜市での暴走車両による事故、福岡県某所での都市開発に反対する反社会組織による無差別殺人事件、名古屋市での大火災、岡山県での土砂災害などが立て続けに発生し、多くの犠牲者を出すこととなった。
<中略>
この未曾有の大惨劇を生き残った唯一の生還者(本人の希望により、匿名とする)は、この惨劇を二度と繰り返さぬよう、政府への各種体制の強化を求める署名活動を行っている。
「……と、これが一月先に公開される予定の情報の内容となります。さて、状況は理解していただけましたかね?」
若者たちの前に立つ、巨大な異形の存在がそう問いかける。
「要するに、皆様はこの惨劇の犠牲となり、お亡くなりになってしまった。これは紛れもない事実なのです。」
集団の中でざわめきが起こる。若者たちはとても信じられないというような形相を浮かべていた。
「皆様、お静かに。話を進めましょう。」
異形は若者たちを諫め、薄笑いを浮かべ、話を始めた。
「改めまして、冥界へようこそ、未練多き若者たちよ! 我が名はレイヴン、皆様の担当を務めさせていただく、
鴉の悪魔の割に気品や儀礼を重んじているのか、レイヴンは若者たちに向けて、丁寧に一礼する。
頭を上げたレイヴンはそのまま言葉を続ける。
「さて、自分で言うのも何ですが、冥界でも五本の指に入っているほどの高位の悪魔たる私が万単位の犠牲が出たこの一大事の死者の対応において、数万人の処理さえスラスラと捌ける技量を持ちながら何故、たかが200名程度の貴方たちを担当することになったのか。それはズバリ、皆様の無念が強すぎるからでございます。」
呆気に取られる集団をよそに、レイヴンは一人で話を進めていく。
「冥界での通常の処理だけではどうにもならない、どうしようもないほど並外れた無念を抱える皆様には、特別な処置が必要でして。故に、私が担当に選ばれたと言うわけでございます。皆様に現世に化けて出られようものならば、その魂が強力な妖魔となることは明確でございます。そんなことになっては、高位の悪魔が精算で掃討されることすら考えられる大問題! 私とて消えるのはごめんですからね。」
レイヴンは大袈裟な身振り羽振りを見せながら言葉を連ねていく。若者たちは言いたいことが沢山ある様子ではあるが、彼の気迫を前にしているととても言葉が出せない。そもそも相手は悪魔、得体の知れぬ異形なのだ。下手に刺激すれば、何をしてくるかわかったものではない。沈黙以外に、取る必要のある行動は存在しない。
「そんな面倒事になるなら、何故手を加えて皆様の死を回避させなかったのか? 答えは単純、あんな大事件が各地で起こっているのです、そんな中貴方たちだけを死なせないよう手を回すには人手、いや、魔手が足りません。では特別な処置とは何か? 実際のところ、これには特定の手法などは一切存在しないのです。全ては担当者である私の一任、どうにかして皆様の無念を抑え込むことさえできれば手段は問われません。つまり、私が貴方たちをどのように扱おうと私の自由なのです。」
その言葉に、誰もがゾッとした。
この悪魔が自分たちに何をしようが、こいつが罰せられることはない。
どんな横暴をされようと、受け入れるしかないのだ。そんなに恐ろしいことが他にあるだろうか? 最早答えるまでもない。
「怖気付くことはありません。こんな頭から尾羽の先まで真っ黒な姿ではございますが、こう見えて私は優しくてですね……底なしの無念を抱える皆様の気持ちはよくわかります。何せ皆様はまだまだこれから、道半ばというところでお亡くなりになってしまったのです。自らの夢や将来への希望、やり残したことは数知れず、それでは死のうに死にきれません。そこで私は、現世の作り話より着想を得て、皆様から納得していただけるであろう処置を考案してまいりました。」
そこまで言ったレイヴンは、両の翼を広げ、高らかに宣言した。
「皆様が受ける特別処置は、至って単純で、至って残酷で、至って悪魔的な処置、現世の言葉でいう『デスゲーム』でございます! カーッカッカッカッカッカー!」
壇上で天を仰ぎ、鴉の悪魔が大きな高笑いを上げる。
全てを賭けたゲームが、始まる。
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