第9章:魔力増幅反転掌 ~魔法城で繰り広げられる頂上決戦〜

 琥珀は深く息を吐き、全身の筋肉を緊張させる。周囲のエーテルの流れを感じ取り、その変化を読み取ろうとする。


「はあっ!」


 琥珀の雄叫びと共に、エーテル撹乱拳が炸裂する。しかし、覇道はその攻撃を軽々とかわした。


「その程度か? そういえばお前の両親も、そんなちゃちな技で挑もうとしてきたな」


 覇道の冷笑が、琥珀の心を刺す。


 広大な広間に、二つの影が激しく動き回る。一方は魔法社会の頂点に立つ覇道、もう一方は魔法に頼らない力を極めた琥珀。その対決は、まさに魔法と格闘技の頂点の激突だった。


「天雷招来!」


 覇道の低い詠唱と共に、広間の天井が紫電に包まれる。次の瞬間、巨大な雷が琥珀目掛けて落下した。


「くっ……!」


 琥珀は瞬時に「無呼吸の型」を発動。体の周りにエーテルのバリアを形成し、雷撃の大半をかわす。しかし、その衝撃波で体が宙に浮く。


 覇道は容赦なく攻撃を繰り出す。


「氷獄結界!」


 琥珀の周囲の空間が、瞬く間に凍りつく。鋭利な氷の結晶が、四方八方から琥珀を襲う。


「はあっ! エーテル撹乱拳!」


 琥珀の拳が空気を震わせる。氷の結晶が粉々に砕け散る中、琥珀は覇道に肉薄する。


「甘いぞ! 灼熱魔炎!」


 覇道の手から、青白い炎が噴出する。通常の火とは比べ物にならない熱量だ。


「ぐっ……!」


 琥珀は咄嗟にエーテルを操作し、炎の軌道をわずかにずらす。それでも、左腕に軽い火傷を負う。


 しかし、琥珀の動きは止まらない。


「エーテル感知!」


 周囲のエーテルの流れを読み取り、覇道の次の動きを予測する。


「風槍千刃!」


 覇道の魔法で、無数の風の刃が形成される。それらが一斉に琥珀に向かって飛来する。


「そこだ!」


 琥珀は風の隙間を縫うように、高速で覇道に接近。エーテルを纏った拳が、覇道の胸元を捉える。


「ぐはっ……!」


 覇道が初めて声を漏らす。しかし、その表情はむしろ昂揚を示していた。


「面白い……。だがまだだ! 次元歪曲!」


 覇道の周囲の空間が歪み始める。琥珀の動きが鈍くなる。


「この程度で……!」


 琥珀は歯を食いしばり、エーテルを全身に纏わせて空間の歪みに抗う。


 両者の攻防は、まさに目にも止まらぬ速さで繰り広げられる。覇道の繰り出す強大な魔法の数々。それに対し、琥珀はエーテルを直接操作する技で応戦する。その姿は、まるで荒れ狂う嵐の中で舞う二匹の龍のようだった。


 広間の至る所に、戦いの爪痕が刻まれていく。床は抉られ、壁には無数の亀裂が走る。天井からは瓦礫が落ち続ける。


 しかし、戦いが長引くにつれ、琥珀は次第に追い詰められていく。


(くっ……このままじゃ……)


 琥珀の体が、限界に近づいていた。これまでに習得したあらゆる技を駆使しても、覇道の圧倒的な魔力の前では歯が立たない。


 そんな中、突如として広間の扉が開かれた。


「琥珀!」


 蒼空の声だった。蒼空は一瞬の隙を突いて、覇道の背後に回り込む。


「風の刃!」


 蒼空の魔法が、覇道を襲う。不意を突かれた覇道は、一瞬のバランスを崩す。


 広間に轟く激闘の音が、一瞬途絶えた。蒼空の声が、その静寂を破る。


「今よ、琥珀!」


 蒼空の叫びが、まるで時間を引き伸ばすかのように響き渡る。琥珀の瞳に、決意の炎が燃え上がる。全身の筋肉が限界まで緊張し、血管が浮き出る。


 覇道の手から放たれる巨大な魔力の塊。それは、まるで小さな太陽のように眩い光を放っていた。広間全体が、その光に飲み込まれそうになる。


 しかし、琥珀は怯まない。彼は最後の力を振り絞り、両掌を前方に突き出す。


「魔力増幅反転掌!」


 琥珀の声が、魂の叫びとなって響く。彼の掌が、覇道の魔法を捉える瞬間、世界が静止したかのように感じられた。


 一瞬、琥珀の体が宙に浮く。エーテルの渦が彼の周りを旋回し、青白い光を放つ。それは、まるで神々しい光景だった。


 そして――。


 轟音が広間を揺るがす。増幅され、反転された魔法が、まるで雪崩のように覇道に向かって押し寄せる。光の奔流が、覇道を包み込む。


「な、なんだと……!?」


 覇道の驚愕の声が響く。その瞳に、初めて恐怖の色が宿る。しかし、それも束の間。


 琥珀の姿が、光の中から浮かび上がる。彼の全身が、青白い炎に包まれているかのようだ。その目は、覇道を捉えて離さない。


「エーテル撹乱拳!」


 琥珀の雄叫びが、広間中に轟く。彼の拳から放たれる衝撃波が、可視化された波動となって空間を歪ませる。


 渾身の一撃が、覇道の胸を直撃する。


 刹那、時間が止まったかのような静寂。


 次の瞬間、覇道の体が、大きく宙を舞う。彼の姿が、まるでスローモーションのように、ゆっくりと後方へと弧を描く。


 覇道の体が地面に叩きつけられる瞬間、広間全体が大きく揺れる。天井から砕けた岩塊が降り注ぎ、壁に無数の亀裂が走る。


 立ち込める埃の中、琥珀の立つ姿だけが、くっきりと浮かび上がっていた。


「琥珀……」


 蒼空が、そっと琥珀に寄り添う。


「私は……私は琥珀が好きだ」


 蒼空の告白に、琥珀はゆっくりと顔を上げる。


「俺も同じ気持ちだよ」


 琥珀は微笑み、蒼空の手を取る。

 二人は互いの想いを確認し、抱き合い、熱いキスを交わした。


 覇道との決戦を終え、琥珀と蒼空の新たな物語が始まろうとしていた。


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