【ファンタジーアクションバトル小説】エーテルダンサー 〜魔法に抗う者の軌跡〜

藍埜佑(あいのたすく)

第1章:惨劇の幕開け 〜魔法の闇に呑まれる少年〜

 陽光が降り注ぐ穏やかな村の中央広場。

 しかしそこに不意に不穏な空気が流れる。

 見慣れぬ黒装束の男が、人混みの中に紛れ込んでいたのだ。


 無邪気に遊ぶ少年・琥珀を見守る両親の表情が、一瞬にして恐怖に染まる。


(あの男はまさか……!)


 琥珀の父が何かを察した瞬間。

 黒装束の男が手を振るい、突如として黒い稲妻が迸った。


「琥珀、逃げろ!」


 父親は咄嗟に琥珀を庇うように抱きかかえる。

 だが時すでに遅し。

 稲妻は父親の背中を貫き、鮮血が宙を舞う。


「お父さん!?」


 琥珀の絶叫が広場に木霊する。

 崩れ落ちる父親。

 その傍らで、母親もまた黒い炎に包まれていた。


「お母さん、お母さん!?」

「来ないで、琥珀! 逃げるの! 逃げるのよ!」


 泣き叫ぶ琥珀。しかし母親は、黒炎に焼き尽くされていく。焦げ臭い悪臭が鼻をつく。


 心が割れるような悲鳴を上げ、琥珀は愛する両親の亡骸に縋りつく。


「お父さん、お母さん、僕を置いていかないで! お願いだから目を開けて!」


 泣き叫ぶ琥珀。

 だがもう、温かな手は二度と握り返してはくれない。


 胸が張り裂けそうな痛み。

 崩れ落ちる現実。

 目の前で繰り広げられた惨劇に、琥珀は言葉を失う。


 ただただ、涙が止めどなく溢れ出す。

 大粒の涙が頬を伝い、血溜まりに落ちていく。

 父と母の血が混じり合い、濃く濁った赤黒い色を作り出す。


 両親の死を嘲笑うかのように、黒装束の魔法使いは不敵な笑みを浮かべる。


「これは魔法の力を侮った報いだ。小僧、このむごたらしい死を忘れるな。この死はお前の愚かな両親自身が招いたものなのだ。愚か者には相応しい末路だ」


 残酷な言葉を残し、黒装束の男は霧のように姿を消した。


 ただ一人、琥珀は虚ろな目で両親の亡骸を見つめていた。

 余りの悲しみと絶望に、心は千々に乱れていた。


(どうして……? どうしてお父さんとお母さんが……?)


 理不尽な現実に、琥珀は泣き叫ぶ。魔法の非道さ、残酷さ。己の無力さ。痛いほどにそれらを思い知らされる。


 広場は悲鳴と混乱に包まれ、人々は恐れおののいていた。平穏な日常は、もろくも崩れ去ったのだ。


 と、その時。意識が朦朧とする中で、琥珀の脳裏に両親の面影が浮かぶ。いつも優しく微笑み、琥珀を見守る両親。


(お父さん、お母さん……僕はどうしたらいいの……?)


 すると、まるで応えるかのように、両親の言葉が蘇る。


「琥珀、魔法に頼るな。自分の力を信じるんだ」


 そうだ。名高い格闘家であった両親はいつも、この魔法絶対社会にあって魔法に頼らない生き方を教えてくれた。魔法ではなく、己の力で道を切り拓く。その教えを胸に、琥珀は震える足で立ち上がる。


 大粒の涙は、悲しみから怒りへと変わっていく。魔法への憎悪。両親を奪った憎き力への復讐心。


「絶対に許さない……必ず仇を討つ。魔法を使って人を殺す奴らを……人を人とも思わないやつらを僕が必ず倒す……!」


 魔法という不条理に支配された世界。その犠牲になった愛する両親。琥珀の心には、消えない炎が宿る。


 己が魂を燃やし、魔法に立ち向かう。両親の仇を討ち、誰もが安心して暮らせる世界を作る。その覚悟を胸に、たった10歳の少年は誓いを立てたのだ。


 空は黒雲に覆われ、広場は血の海と化す。崩れ落ちる日常。失意の中にたたずむ少年。


 両親を失った悲しみと、魔法への怒り。相反する感情が、琥珀の中で渦巻く。未来への希望も、生きる意味も、全てを奪われた。


 絶望の淵に立たされながらも、少年は見上げる。目指すべき場所を見据え、新たな一歩を踏み出す決意を固める。


 己の拳で、魔法の脅威から皆を守る。たとえ命を落とすことになろうとも、最後まで戦い抜くと心に誓う。


 これは、両親を不条理に奪われた少年が、単身で魔法に立ち向かう、壮絶な戦いの始まりであった。

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