異世界海獣転生
ウエス端
第1話 海獣転生
「キュ、キューッ!?(な、なんじゃこりゃあ!?)」
オレは水面に映ったモノの姿を見て驚愕した。
恐らく自分の姿が映っている筈のそれはーー白いアザラシの子供? だった。
それにしても可愛らしいなぁ。
いやいや、オレはもっと強そうなのに転生するって聞いてたのに!
あの女神のクソアマが!
適当なこと言いやがって、オレをハメたな!
思い出すのも忌々しいが……あの時のことをもう一度思い返してみる。
◇◇◇
「……ゴウマ、高橋 業魔(タカハシ ゴウマ)! 聞こえているのですか?」
……誰の声だ、何処から聞こえてくる?
オレは確か、手掛けていた投資詐欺絡みで揉めた半グレとヤクザ数人に取り囲まれて滅多刺しにされたはず。
病室ではなさそうだけど……。
「聞こえないのですか? それとも『ダマし討ちのゴーマ』の方がいいですか?」
うわっ、やめろよ。
他人からつけられた好きでもない渾名でオレを呼ぶんじゃねえ。
「……高橋 業魔だ」
「やっとですか。私は転生を司る女神。高橋 業魔、貴方は死んだのです」
「や、やっぱりそうなのか。で、オレみたいなのも地獄に落とされずに転生させてくれるっての?」
「微妙なところではありましたが……闇バイトに始まって不正転売、特殊詐欺とロクでもないことばかりしてきた貴方も、人に直接危害を加えることは無かったので」
「それはどうも」
「転生先では、心を入れ替えて真面目に働くと誓いますか?」
「(チッ、うっせーな)はーい、勿論でございま〜す!」
「……心の中では、ちっとも反省していないようですね。では、無能な村人として次の生を全うし、苦労することで心を入れ替えるのです」
「フザケンなこのクソアマ! いいからオレを異世界の勇者にしてチーレム俺TUEEEでイキらせろや、オラァ!」
「女神に手を掛けようとは正にケダモノ……いいでしょう、ケダモノならば異世界のカイジュウにでも転生させるまでです!」
「うわあああああー!」
「あー、やっと今日の転生ノルマ達成した〜!」
「ニュクス、お疲れ〜! というか本当に疲れ切ってるじゃない」
「今日の転生者はクズが多くて……。最後の奴はもう、カイジュウが跋扈する異世界のケモノにしてやった。それで残酷な死に方でもすればいいのよ」
「わかる〜。クズの奴らって、実際に手酷く痛い目に遭わないと懲りないからね〜。ところで仕事が終わったのなら、天界のパーティに行こうよ! 今日はイケメン神が勢揃いって噂だよ」
「本当? もちろん行く〜!」
◇◇◇
あの時、確かに女神のクソアマは怪獣に転生させてやると言った。
人間じゃなくなるのは残念だけど、強い怪獣ならば逆に人間を襲って食ってやるというのも面白い。
なのに……これ、どう見てもただの可愛らしいアザラシじゃん。
あーあ、なんでこんなことに。
怪獣詐欺だよ、クソッ!
……いや待てよ。
アザラシは哺乳類、つまり海のケモノ。
なんてことだ、オレは『海獣』に転生させられたのだ!
しかしなあ、同じようなのでも、せめてヒョウアザラシとかセイウチとかの攻撃力高い奴とか見た目インパクトある奴にしてほしかった。
女神の奴、今度会ったらタダじゃおかねえ。
それはともかく、今をどうやって生きるか。
岩場の上にいるのはオレ一人。
周りを見渡しても誰一人いないのだ。
つまり親もいない。
食い物の狩り方とか何も教わってねーぞ?
腹減ったなあ。
水面から小型の魚が泳ぎ回っているのが見えるのに。
……こうなったら、とにかく水中に入って手当たり次第に魚を食ってやるまでだ!
「キューッ!(やってやるぜ!)」
意気込んでドボンと水中に入ったまではよかったのだが。
お、溺れる!
この身体でどうやって泳げばいいのかわからない。
手というか、前足をバタつかせても一向に進まない。
おまけに鼻から水が入ってきて……!
とにかくもう一度岩場に戻らねば。
オレは必死だった。
そしてもがいているうちに後ろ足を振って身体を左右にうねらせると、ようやく泳げだしたので急いで岩場に上がったのだ。
「ゲフゥッ、ゲフゥッ!」
あー、死ぬかと思った。
気管に入った海水をなんとか吐き出し、しばらくゴロンと転んで休息を取る。
アザラシは人間とは全然泳ぎ方が違うんだな……当たり前だが、実際にやってみてよくわかった。
それはいいが、鼻の穴はどうすればいいんだ?
手は届かないから塞げないし。
気合で閉じれたりするわけ……おお、なんか閉じれた。
なんと便利にできているのだ。
気合というか、閉じようと意識すればそうできる身体の仕組みとなっているのだ。
さて、一回開けて空気をよく吸って。
水中に入る寸前に閉じる。
これで泳ぐことに気持ちを集中できるぞ。
オレはしばらく泳ぎの練習をしたあと、とにかく魚を追いまくって、お腹がある程度膨らむ程度には食べることができた。
あー疲れた。
とりあえず岩場の上でゴロンと寝転んで休憩しよう。
最初は親どころか仲間もいない状況に不安を覚えたが、よく考えたら食べ物を気兼ねなく独占できるじゃないか。
意外と悪くない生活だ。
海獣だから学校も試験も何にもない気楽な生活、サイコーじゃん!
しかし、そんな希望は間もなく打ち砕かれた。
何かが近づいてくる気配を感じる。
そしてすぐにソイツは目の前に現れた。
「グガァーッ!」
ぎょえええええええ!
オレの5倍はあろうかというトドみたいな、怪獣みたいな海獣が目の前に現れた!
そして獲物を狙う眼光でオレに向かってくる。
ヤバい、とにかく逃げないと!
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