第59話

従者が師匠達に晩御飯の時間だと告げに行ってくれた。


もちろん私は師匠の為に晩御飯を作ると言ったけれど、陛下や王子殿下達に作ると言っていないので王宮料理人が人数分の食事を作ってくれているので足りなくても問題はない。


 師匠は待ちかねたようにイソイソと食堂へ入ってきたわ。すると陛下も急いで来たみたい。どうやら私が食事を作るのを耳にしたようで急いで仕事を終わらせたとか言ってた。


私は火魔法でそっと鍋を熱してコロッケを揚げていく。カラカラといい音がしている。さっと油を切り、用意された皿に盛り付けていく。お皿や野菜はベンヤミンさんが王宮料理人に頼んで用意してくれたの。


「陛下も食されますか?」


「ファルマ、勿論だ。久々のファルマの手料理。ずっと食べたかったんだぞ」


そう言った時にフィンセント殿下、レンス殿下、ヴィル殿下が食堂へとやってきた。


「良い香りがするね。ホルムス兄上、お帰りなさい」


陛下と師匠のコロッケを毒見係に渡した。本日の毒見係はなんと王宮料理人の料理長が名乗り出た。


何故だろうと思ってたんだけど、どうやら陛下は私の作る家庭料理が気に入ったらしく料理長に出してくれって我儘を言っていたらしい。


相当に料理長は困っていたのだとか。料理長はフムフムと味わうように一口ずつ食べていく。料理長からOKが出ると、陛下と師匠の前に皿とスープ、サラダとパンが出された。


「私達の分はないのかな?」


王子殿下達の食事は王宮料理人が作った食事が出されている。


「少しなら残っているので出すことは可能ですが、1人分の量としては少ないので試食程度ですが良いですか?」


「かまわないよ」


師匠と陛下には手のひらサイズのコロッケを3個入れたけど、王子殿下達には手のひらの半分サイズ1個ずつ皿に乗せて出した。スープはデミコーヒーのカップを使わせて貰ったわ。


「ファルマ、コロッケが足りません」


「ホルムス様、もうないですわ。今度また作りますね」


師匠はがっかりしている。それとは対照的に王子達は目を見開いて驚いている様子。


「ファルマ嬢、美味しいよ。料理が上手なんだね。もっとこのスープを飲みたい」


「騎士団料理長のベンヤミン様の協力を元に作りました。作り方は彼が知っていますわ」


「そうか、料理長。後で作り方を聞いておいて欲しい」


「畏まりました」


そういって料理長は返事をした。


「久々のファルマの料理。やっぱり美味いな。フィンセントよ、早く王になるのだ」


「父上、それは困るかな。今の私では力不足だと十分理解しているから。ファルマ嬢が我が妃になるのなら考えなくもないかな?」


「だ、そうだぞ、ホルムス」


「・・・それは困りましたね。私はファルマが居なくては生きていけないのでね。ファルマはどうなのです?フィンセントの妃になりたいですか?」


師匠の言葉に視線が私に集まる。


うぇっ。視線が怖い。


「えっと、私は、その、趣味に生きて行きたいので、王妃、というより貴族の暮らしは向いていないかなって思っております。ホ、ホルムス様と過ごす、村の暮らしが合っているかな・・・」


「だそうですよ?弟達、諦める事ですね」


師匠が何故かにこやかに言っている。陛下は今にも大声で笑い出しそうだ。


「ファルマ嬢はいろいろと勿体ないな。その才能を国で発揮してほしいよ」


フィンセント殿下はいかにも残念そうに話す。いえ、そんな才能は全くないですよ、っと笑顔を作り心の中で否定しておく。




「ホルムス様、丁度ここに油もあるので天ぷらを少し食べますか?この間、レンス様とベースキャンプで採った山菜を揚げる事ができますよ」


「食べてみたいですね。少し揚げてくれますか?」


私は料理長に小麦粉と卵、ボール、塩を用意してもらう。侍女に部屋から麻袋の中の山菜を取りにいってもらった。その間に油を温め直しているとすぐに二人は戻って来てくれたわ。


私はその場で清浄魔法でしどけを綺麗にしてから風魔法で切って水魔法でボールに冷たい水と卵を混ぜ合わせて小麦粉をさっと合わせる。


油の温度を確かめてからさっと揚げていく。カラカラといい音がするわ。さっと取り出して皿に乗せて料理長に毒見をしてもらう。


「少し塩を付けると美味しいですよ」


その言葉に料理長は塩を付けて食べている。どうやら美味しかったようだ。うんうんと頷いている。次にホルムス様の分を揚げて、よく油切りをしてから熱々のままお皿に乗せるとホルムス様はホクホクと食べている。


「これはなんて香り高い食べ物なんでしょう。ファルマ美味しいです」


「良かった!採ったかいがありました」


「ファルマ、儂にも勿論揚げてくれるのだよな?」


陛下も待ち遠しい様子。本日の王宮料理はどこへやら。作ってくれた方ごめんなさい。陛下もサクサクと美味しそうに食べているのをみて欲しそうにしている王子達にも振舞う。


「ファルマ嬢と頑張って採った甲斐がありましたね。また食べたい。料理長作ってくれるかい?」


「勿論お作り致します」


喜んでくれたようで何より。ただ、あのベースキャンプまで取りに行かないといけないのが残念よね。


「ところでファルマ、明日の試験が終わったらすぐにパジャンに向かいますよ。部屋に戻ったら出発の支度をしておいて下さいね。どこか行きたい所はありますか?」


「ホルムス様、海が見たいです。お魚も食べてみたい」


「そうですね。では宿を取ってゆっくり魚料理でも食べましょう」


「いいなぁ兄上。僕も行きたい」


「ヴィルは視察でいけるでしょう。急な私用で公務を空けてはいけないですよ」


「はぁい。兄上ともっと遊びたいのになぁ。残念」


 なんだかんだで師匠は弟から甘えられているのね。そうしてみんなで美味しくご飯を頂いた。王子達は目の前で揚げた物をその場で食べるというパフォーマンスが新鮮に映ったみたい。


料理長さんも勉強になったと喜んでくれたみたいで良かったわ。


私は師匠と部屋へ戻ってから明日の準備を始める。楽しみ。旅行って初めてだもの。何日くらい海のある街に滞在するのかな。その前に憂鬱な試験が。でも、きっとなんとかなるよね。


鞄に服や使っていた日用品を詰めて王宮を出る準備はばっちりよ。実はこっそり騎士団食堂でしどけの胡桃和えを作って瓶に詰めてたのよね。


貴重な砂糖を少し分けてもらったの。自分でも美味しく出来たと思うわ。これはパジャンに行ってから師匠と食べるんだ。


ウキウキしながらこの日はベッドへと入った。

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