第57話

それにしてもこの部屋って普通の客室とは違って華美な部屋ではないのよね。どちらかと言えば長い期間滞在する感じというのかな。滞在に必要な設備が整っているような。


 侍女達がさっと部屋になだれこんでくると私は彼女たちにお風呂に連れていかれ一斉に洗われる。そしてマッサージと髪のお手入れ、ドレスへと着替えさせられる。軍服が楽でいいのに、シクシク。


「ファルマ様、お食事が出来ましたのでご案内致します」


まぁいいかと何にも考えずに侍女の後を付いていく。えっと、案内された食堂はこの間師匠と食べた場所と違う。もっと豪華な家具で統一されているわ。


も、もしや・・・。


「おぉ、ファルマ。先に来ておったか」


ニコニコと入って来たのはタナトス様。


「父上、お待たせしました」


そういってフィンセント王太子殿下とレンス王子殿下、ヴィル王子殿下が揃って食堂へ入ってきた。


やっぱりここは王族専用の食堂だった!


なんて食べづらいのかしら。私だけ異物感満載だわ。


 タナトス様の合図で料理が運ばれてくる。お祈りをし、食事を始めた。うぅ、緊張しすぎて味がしない。私は借りてきた猫のように静かに食べていると、


「レンス、お前は期間より早く帰ってきたそうだな。何があったんだ?」


「兄上、ファルマ嬢とフェルナンドが持ち帰った魔王の欠片を城へと運んできたんだ。明日にはまた戻るよ。騎士達に状況報告とその後の森の状態を調べなくちゃいけないからね。あぁ、ファルマ嬢は明日からお城に居るといい。僕だけで十分処理出来るから」


「承知しました」


「この場では敬語なんて必要ないよ?ホルムス兄上のお嫁さんだし」


レンス殿下はふふっと笑いながらそう言った。


「では明日ホルムス様に連絡をしてお迎えに来てもらった方がいいですね」


「ファルマよ、それはちと待つのだ。先日の試験の結果が早速出てな、筆記試験全て合格しておった。


だが、ダンスだけが不合格。試験官達はファルマの優秀さに驚いておったぞ。残りのダンスを合格させるために明日から講師が来る。ファルマはしっかりとダンスの練習をしてから再試験だ」


えぇぇ。庶民には絶対要らないであろうダンス。がっくり。


「ファルマ嬢、凄い事だ。筆記試験を全てパスするとは。兄上が離さないわけだ。兄上が諦めるなら我が妃に迎えてもいい」


「フィンセント、お前にはもう婚約者がいるだろう。諦めろ」


「ははっ。父上、冗談ですよ」


何か恐ろしい話が聞こえてくる、気がする。いや、きっと気のせいだわ。


私は出来る限り急いで食事を口にする。勿論マナー違反にならない程度にね。


食事も終わり、部屋へ帰ってベッドへダイブ。明日も食事はあそこなのだろうか。とりあえず寝る前に師匠に手紙を書くために起き上がって侍女に便箋や筆記用具を持ってきてもらった。


 巡回騎士団から一足先に帰ってきた事や魔王の欠片を手に持ってぴりぴりしたこととか、試験に合格したけどダンスに落ちて明日から王宮でダンスの練習が始まる事。


でも筆記試験には受かったんだよね?私って優秀だった?ちょっと嬉しいかも。


早く師匠の待つ村に帰りたいなぁ。


でも、バカンスも忘れてないわ。美味しい海産物があるといいなぁ。


 その為には明日からダンスを練習しないといけないのか。そう思いつつ、今日の出来事でクタクタになっていたのでベッドに入るとパタリと気絶するように眠りについた。


「ファルマ様、おはようございます」


 侍女の声で目が覚める。やっぱり昨日は疲れていたみたいで起きるのも怠い。寝ぼけ眼でボーっとしている間に侍女がテキパキと用意をしてくれている。どうやらドレスを着せられたらしい。朝は食堂ではなく自室で朝食を摂った。侍女に手紙を師匠に送るように渡す。


 侍女と入れ替わるように来たのが男の従者を連れた1人の長身の男の人。歳は40くらいだろうか、姿勢が異常にいい。絶対この人がダンスの先生だわ。


「ファルマ嬢、おはようございます。私の名はカザール・サウランです。タナトス陛下の指示で貴女にダンスを教える事になりました。では早速ダンスホールへ向かいましょう」


ふぇぇぇ!?すぐにダンス練習開始なのね。


「サウラン先生、ファルマです。宜しくお願いします」


 挨拶もそこそこに先生に連れられてダンスホールへとやってきた。といっても舞踏会で使われている大きな会場とは違って王族がダンスの練習するための広い部屋らしい。サウラン先生の従者がピアノを弾いてくれるようだ。


「短期間でダンスを覚えるので厳しくなりますが、頑張るように」


「はい、先生」


 一番最初はワルツのステップの確認だった。3拍子で踊るのにこんなにもステップがあるなんてって思ったのは言うまでもない。頭で覚えると足が出るのが一瞬遅くなるので先生からの言葉が飛んでくる。姿勢保持も中々に辛いわ。


「ファルマ嬢、ホルムス様と踊れるように頑張りますよ」


「はい、先生」


お昼の休憩以外をずっとダンスに費やしたわ。気が付けば夕方になっていた。貴族って小さい頃からダンスをするので大人になる頃には自然と踊れるようになるけれど、私みたいに途中でやらなくなったら駄目ね。思うように体が動かない。


従者の方もずっとピアノを弾いてくれているので申し訳なく思っちゃうわ。


「今日はこれくらいにしましょう。ワルツは多少覚えておられたようなので繰り返し練習すればなんとかなりますね。ではまた明日」


「先生、ありがとうございました」


一日中ダンスをしたおかげで体中がギッシギシよ。もう明日は起きれないかもしれない。侍女に付き添われて部屋に戻る。侍女は分かっていますとてもいうようにお風呂の準備やマッサージをしてくれたわ。極楽過ぎて何度寝落ちしそうになったか。


食事も当分はこの状態が続くだろうからと部屋食へと切り替えてくれたの。ありがたや。ベッドに入って寝ようかと思ったんだけど、その前に師匠から貰ったポーションを飲む事にしたの。へへっ、持ってて良かった。


なんで自分の治癒魔法にしないのかって?


それは筋肉痛って確か筋肉の繊維が傷ついた痛みだったと思ったのよね。ただ傷を治すのなら治癒魔法が適してるんだけど、繊維を修復する時に更に頑丈になろうとするんだよね。治癒魔法で頑丈になるのを防ぐと全然筋肉が付かないんじゃないかなって思うの。


ポーションは自己治癒力を上げる物だから筋肉が付くのを阻害しないんじゃないかなって私の考え。一応何かあった時の為にって何本か持ってたの。師匠には使っちゃったと後で謝ろう。


 私はポーションを一気飲みしてベッドに入る。ポーションって薬の粉っぽさと魔力のとろみで絶妙な不味さだわ。蜂蜜や砂糖を加えたらマシになるのかなぁ。さて、お休みなさい。

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