第19話

「うわぁ。凄いね、師匠。食べ物やさんが一杯あるよ」


「そうですね。まずギルドに向かいますよ」


 沢山の行き交う人々にはぐれないためか師匠はしっかりと私の手を掴んでギルドへと歩いていった。そして歩いて【ハンドル】と大きく掲げられた看板がある商業ギルドへとやってきた。


冒険者ギルドは【アヴォンテュール】と看板が掲げられている。ハンドルとは商業、アヴォンデュールは冒険者という意味。そのまんまだね。


 字も読めない人が多いけれど、この看板を目印にしてギルドへと向かうみたい。今まで私が過ごしていた王都はというと、ギルドはあるらしいんだけど、多くの人や品物が集まるので農業部門、雑貨、錬金など細かな部門に分かれていて出店や物流を仕切っているの。


今思えば、直接店に売り込みに行くなんて自分は超無知だったのねって穴に入りたい気分になるわ。子供だから許されるのよ。うん。そういう事にしておくわ。




 師匠に連れられて商業ギルドへと入って行く。冒険者になってみたい願望はあるけれど、まぁ、剣も握った事もないし、魔法も微妙。現実は無理な話だと思うわ。一応さ、あれから初級魔法が使えるようになって色々と試してはみた。


例えば火魔法ならファイアーボールみたいに攻撃出来るのかな?って思ったんだけど、やはり無理っぽい、ファイアーボールと唱えてみてもライターの火みたいなのが指先から出る感じ?練習してようやくガスバーナー位なので攻撃には向かなかった。


クレームブリュレは簡単に作れちゃうけどね。生活魔法というだけあって攻撃には転用することは難しいみたい。転用する方法を見いだせないのはただ単に私の頭が足りないからかもしれないけど。


「ホルムス様、お久しぶりです。本日は何用でございますか?」


商業ギルドの扉を開けて進むと受付に20代後半と思わしきお姉さんがにこやかに話しかけてきた。


「今日は私の弟子の登録をしに来ました。手続きを」


「かしこまりました。お嬢さん、こちらへどうぞ」


 手招きをされ、近づいていくと、テーブルの上によいしょとカードリーダーのような物が置かれた。


「この機械に手を乗せてください」


私は言われるまま手を乗せた。


「いくつか質問しますね。お名前は?」


「ファルマ」


「歳は?」


「12歳」


「職業は何にしますか?」


「師匠と同じ薬師でお願いします」


「差支えなければスキルや得意魔法もお聞きしたいのですが」


・・・どうしよう。


聞いたら嫌がられるかな。私はお姉さんに言うことを躊躇していると師匠が横から口を開いた。


「スキルはまだ誰にも秘密にしておきたい。魔法は生活魔法です」


「分かりました。では魔力認証を行います」


そうして質問後に何かを入力してから手を置いている面がふわっと光って消えた。


「これで手続きは終了です」


そうしてカードリーダーらしき機械からカードを引き抜いて手渡された。


「師匠、さっきフワッって光ったけど、あれなあに?」


「ああ、あれはファルマの魔力を身分証に登録しただけですよ。カードを使えばお金だって預けられるし、支払も出来るようになる代物なんですよ」


おぉぅ。なんてハイテク。こんなにも科学の進化は遅いのにそういう所はハイテクなのね。前世より便利。


「あぁ、でもギルドに登録してある店じゃないとカードは使えないから結局お金は持ち歩く事になるよ」


やはりそうか。でも素晴らしい!すると師匠はカードを首に下げる用のカード入れを買って渡してくれた。


「師匠!ありがとう!」


「こんな事は当たり前ですよ。さっさと行きましょう」


私はお姉さんに一礼してギルドを出る。ギルドについて説明はされなかったけど、今度師匠と来ることがあったら聞いてみよう。


「師匠、これからどこへいくの?」


「とりあえず腹ごしらえでもしましょう」




私は師匠に連れられて食堂へと入っていく。食堂はお昼の時間という事もあってか賑わいをみせていた。私達は座席に座ると同時にメニュー表を見て注文する。


「お腹がぺっこぺこなんだ。お姉さん!このヘルボワの煮込みセット下さい」


「私も同じ物を」


注文した後、ゆっくりと室内を見回すと、隣の席や向かいの席の人が食べている料理も美味しそうだ。そして労働者が多いからか運ばれてくる量も多いようだ。


「ファルマ、貴女は字が読めるんですね」


「うん。本を読むのは好きだよ。家ではこっそり本を読んでた。他にすることはなかったしね」


「どんな本を読んでいたのですか?」


「うーん。色んな本?スキルを貰う前はそれなりに家庭教師だっていたんだ。スキルが分かってからは1人で薬草図鑑、植物図鑑や魔法本、錬金本。1人で生きていく為に必要な本を読んでいたかな」


「そうなのですね」


すぐに運ばれてきた煮込み料理にパンを浸して食べていく。ゴロゴロと入っているヘルボワの肉はしっかりと煮込まれていて柔らかくてとっても美味しい。


「ファルマは美味しそうに食べるのですね」


「だって美味しいんだもん。お淑やかに食べてたら冷めちゃう。熱いものはハフハフ言いながら熱いうちに食べるのが一番でしょう?」


「確かにそうですね」


 そして美味しい食事にもありつけ、早々に宿をとりベッドへ転がった。もちろん師匠と1つの部屋でベッドが2つある部屋だ。部屋に入ってすぐに清浄魔法を掛ける。もちろん師匠にも。


久々のベッド!ひゃっほう!リュックを足元へ置いてまずは部屋の探検。これは欠かせないよね。けれど、残念な事に部屋の外に共同のトイレとシャワーがあるだけみたい。


 私はさっとシャワーを浴びて部屋へ戻ると師匠は一足先にシャワーから戻ってきていたようで魔法で髪を乾かしていた。


「ファルマ、こっちへ」


私が師匠の横に座ると師匠は魔法でさっと髪を乾かしてくれた。


「師匠!凄いですね。さすが師匠」


「これぐらい簡単です。私は少し用を足してきますからファルマ、お昼寝でもしてなさい。子供にはまだ睡眠が必要でしょう?」


「ちょっと師匠。私これでも12歳です。幼児と一緒にしないで。でもいい子にして待ってる。行ってらっしゃい」


そうして師匠を見送った後、やることもないのでそのままベッドでゴロゴロしている間に寝ていたようだ。

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