第2話
ただ、神殿でスキルを確認しただけなのに。
私は存在自体許されないの?ドアからそっと体を離し、走って自分の部屋へ戻ってきた。
「ファルマお嬢様?大丈夫でございますか?」
ネスが心配そうに聞いてくる。
「ネス、私、蟲使いだから、この家の恥なんだって。病気にされちゃうみたい」
「お、お嬢様・・・」
ネスは私のスキルを知り、家族の話を聞いて私の代わりに涙を流しているわ。悲しみを通り越すと涙って出ないものなのね。
私はハンカチでネスの涙を拭いてあげる。
「ネス、ごめんね」
そこからの数日、私は部屋から出ることも許されず、ボーっと過ごす事になった。もちろん今まで部屋へやってきた家庭教師の先生も来なくなった。
私専属だったネスもどうやら配置変えがあったようで専属を外されたみたい。
食事は交代で侍女や従者の人が運んでくれるけれど、誰もが口を開くことなく食事を置くとさっさと部屋を出ていった。一人きりで過ごす事がなかった私にはとても苦しくて、辛かった。なんでなんだろう。
そんなに私の存在って恥ずかしいの?
私は家族じゃなかったの?
「ファルマお嬢様、突然でございますが、部屋の引っ越しをお願いします」
執事のセバスチャンは部屋へ入ってくると顔色を変えずにそういった。
「セバスチャン、私はどこへ引っ越すの?」
「ファルマ様には1階の一番奥の部屋をご用意しております」
「・・・そう。わかったわ」
私は反抗する事無くセバスチャンに連れられるまま部屋を変わった。1階の一番奥の部屋は日当たりが悪く、部屋の広さも今まで過ごしていた部屋の半分程度。
置かれている家具も使用人が使うような簡素なベッドと机と椅子、小さなクローゼットがあるのみ。
あぁ、本当に私はこの家には要らないのね。
幼いながらも現実を突きつけられ、心が苦しいと叫んでいる。私が部屋へ入るとバタンと扉が閉められた。
セバスチャンが出て行ってもう来ないのを確認してから初めて部屋を見て回る事にした。隣の部屋には一応トイレとシャワーは付いているみたい。だけどシャワーの使い方がわからないわ。
クローゼットの中を確認すると平民が着るようなワンピースが数着入っているだけだった。
何もない薄暗い部屋。
窓の外は植木で視界が遮られている。明かりは魔道具のランプが1つあるばかり。今まで魔法を使うことがなかったし、ネスが代わりにしてくれていたのでランプさえ点けられるかも分からない。
私はこれからどうやって過ごしていけばよいかわからず、ベッドへ寝っ転がった。ふと上を見上げると、天井には蜘蛛の巣が張っている。
「そういえば・・・私は蟲使いなのよね?」
スキルが発現してから1度も使った事がなかったけれど、私はすることもないので蜘蛛に向かってスキルを使ってみることにした。
「蜘蛛さんおいで」
そう言いながらスキルを使ってみる。すると1匹の蜘蛛がするすると降りてきて私の手の上にそっと乗った。
ふふっ、私ってやれば出来るじゃない。そう考えていた時だった。蜘蛛はカプリと私の手を一噛みした。
え?嘘。
スキルは通用しなかった、の?
噛まれた私は血が流れると同時にクラクラと痺れ始め、蜘蛛を手に乗せたまま意識が遠のいていった。
ーーー
「奈々ばあちゃん!目を開けて!」
「おやおや、啓介。私はもうそろそろかしらね。さっきから眠くて仕方がないのよ。こんなに沢山の家族に見守られて逝くのは嬉しい限りね。今までありがとう」
「母さん・・・」
あぁ、この場景。思い出したわ。
私の前世。
私の名は丹村奈々。63歳で少し早いけどこの世を去った。
片田舎の小さな村で育って虫取り、魚取り、田んぼのあぜ道を走り回った小さな頃。近所の男の子達と虫取りを日が暮れるまで必死に探して遊びまわっていたわ。いつも両親からもっと大人しくしなさいってよく言われてたっけ。
私は長女だったから大人になって家をそのまま継いだの。小中高とみんな変わらずに仲良く育った。私の周りは高校卒業と同時に就職するか都会へと旅立って行ったわ。私は進学せずに家業の手伝い。
幼馴染だった夫は大学に行くため都会へと旅立ちそのまま就職したんだけれど、都会の空気が合わなかったのかまた村へと戻ってきた。そして再会したの。
彼はぐだぐだと文句を言いながら我が家に居座り手伝いを始め、そのまま我が家へ婿養子になったのよね。
今思えば不思議だったわ。
でも最初から最後まで私を愛し続けてくれていたのだと思うわ。普段から愛してるだなんて口にしなかったのにね。
うちは農家を家族で営んでいたわ。兼業農家だったのよね。いろんな事があったけれど、子供は3人生まれ、孫は6人目がこの間生まれたわ。
この歳で沢山の子供たちに見守られて天国にいけるなんて幸せだと思ったの。ちょっと早いけど思い残すことはないってね。みんなのおっかちゃんでいられて良かったわ。
ーーー
前世の私はこんなにも幸せだったんだと思い出した。
今の私はどうだろう。
自分の家族にスキルだけで居ないものにされそうになっている。なんて親なの。ありえないわ!前世を思い出すまではどうやって生きていくかもわからない幼い子だったけれど、思い出すと考えって変わるのね。
とりあえず、今更だけれど今の私の状況を確認するわ。
私の名前はファルマ。現在10歳。人間は10歳になるとスキルを発現する。人によりスキルが違うのよね。
様々なスキルがあって役立つものやゴミのようなスキルがあるみたい。スキルによっては国から大事にされるらしいわ。そして私もご多分に洩れずスキルを確認しにこの間、父と神殿へ行ったのよね。
私の家族はというと父の名前はアーダム・ヘルクヴィスト伯爵。母の名前はペトロネラ。私の4つ上の姉シーラ。そして2つ下の妹エイラがいる。
代々ヘルクヴィスト家は精霊使いなの。嫁に来た母は違うけれど。昔は魔王や魔物を退治するために精霊召喚を行い戦っていたらしいのだけど、魔王が居なくなってからのヘルクヴィスト家は王宮お抱えの召喚士で見目麗しい精霊をお茶会や舞踏会時に召喚し、貴族や賓客をもてなすという役割へ変化したのよね。
父達は誇りに思っているみたいだけど、今の私からしたらほんとそれ必要?って感じだわ。
そしてこの世界には魔法も存在していた!
なんてファンタジーな世界なの!
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