第26話




雪乃は綾ちゃんとスペイン料理を出すバルに来ていた。

ちょうど一年前、全てはここから始まった。


「本当に長い戦いでしたね。雪乃先輩も、ドロドロにはまりまくってましたよね。やっと落ち着いた感じですか?」


「そうね、やっと生活リズムが整ったって感じかな。離婚してからの半年は仕事と引っ越しとでバタバタしてた。あっという間だったわ」



「結局、康介さんと離婚しましたね。元サヤあるかのとか思ったんですけどね」


「一応離婚しないための契約期間は満了してから離婚した。契約を破ったのは康介だったしね。自業自得ってところだわ」


「けど、ご主人の離婚しないって強い意志は本物だったと思います。下半身が緩すぎっていうのは問題でしたけど」


「見境なくってわけではなかったけど、意志が弱すぎだったわね。結局私の事を甘く見ていたのよ」


「一番最初に、スッパリ離婚していれば、こんなに揉めずに被害も最小限で食い止められたのに、残念でしたね」


「そうね。まぁ、私も伴侶を失って、戸籍にバツが付いた。お金は手に入ったけど、今現在恋人がいる訳でもない。結構精神的にもキツかったわ」


「雪乃先輩の周りには、前島課長や、小林大地さんみたいなイケメンがいたのに、色っぽい関係に発展しなかったですね」


「私ってモテないのよね。現実世界で妻にするより、床の間に飾って置きたい人形タイプなんですって」


雪乃は冗談っぽく笑った。


「なんなんですかそれ、そもそも現代の家の間取りで床の間なんてありませんから。和室はいらないです。ダニが湧くし、全部フローリングに限ります」



「そうね……掃除しやすいのが一番ね」


なんか話の流れが家の間取りになっている。

突拍子もない方向へ進む綾ちゃんの話は面白いから時間が経つのも早い。




「まぁ、今どき離婚なんて珍しくもなんともないんですから、前向きに独身ライフを楽しんで下さい。それと、30歳おめでとうございます」



「ありがとう。新しい人生の始まりよ」



雪乃は気分もよく店を後にした。



あれから、真奈美さんの親が大地さんへの慰謝料を肩代わりしたようだ。

孫をずっと押し付けられ、娘の尻拭いまでさせられた真奈美さんのご両親は、彼女を実家から追い出したらしい。



結局、康介とはうまくいかず真奈美さんは一人になった。

彼女は今どこで何をしているのかは知らない。




康介は、会社を辞めて独立したと風の噂で聞いた。



私たちが住んでいたマンションは引き払ったようだ。

もう、東京にはいないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る