第2話
居酒屋からの帰り大通り、駅までの道を歩く雪乃。
今日は雪乃の誕生日だった。
断れない接待があるからと夫は帰りが遅いらしい。
(綾ちゃんは私の誕生日のお祝いしてくれたけど、私のマンションとは逆の路線って綾ちゃんもなかなか強者だ。しかも自分の家の近くの店を選んでるところが流石……まぁ、後輩なのに奢ってくれたから良しとする)
そんなことを考えながら、まだ混雑する道路を、人を避けながら歩いて行った。
ふと通りの反対側を見ると、夫に似た人物が女性と腕を組んで歩いている。
ここは夫の会社からは遠い。自宅の最寄り駅とも反対方向の町だ。
え……なんで
女性は康介に密着して歩いている。まるで恋人同士のようだ。
夫に似ているけど、別人なのかもしれない。
頭の中に、先程の居酒屋での話が蘇る。
(まさか……康介が、浮気……)
確かめずにはいられないと思い、雪乃は気付かれないように離れて二人の後をつける。
(酔った後輩に無理やり腕を組まれているのかもしれない。取引先の女性を接待帰りに送っているだけかもしれない)
何か理由があるのだろうと思いたい。
二人は仲良さそうに、大通りから左に折れて暗い通りへ入って行く。
先にはラブホテルがある。
夫は女性の肩を抱いた。
ホテルの中に入って行く二人。
現場をしっかりと見た雪乃。
青ざめる。
深夜営業しているカフェは、ラブホテルから近い大通りに面していた。
ガラス張りの店内から車道を行き交う人たちを見ている雪乃。
(康介は泊まりはしない。終電には間に合うように帰るだろう。入った時間を考えると2時間後にはホテルから出てくるはず)
先ほどの信じがたい光景が目に焼き付いて離れない。時計に目をやる。時間は9時を過ぎたところだ。
コーヒーを口に運びながら、考え込む雪乃。
出勤前、妻のためにコーヒーを淹れてくれる康介の姿を思い浮かべた。
今朝も普段と変わらない仲の良い夫婦だった。
雪乃が26歳、康介が30歳の時に二人は結婚した。
康介は大手の証券会社で債券トレーダーをしている。
高学歴で高収入、頭の回転が速く、人望も厚い。優しく思いやりがあり最高の夫だと思った。
二人は結婚後お互いしっかり働きながら今後の家族計画を立てていた。
結婚して数年は共働きで資金を貯め、将来的に子供は二人つくる。交通の便がよく子育てにも適したマンションを購入し、温かい家庭を築き幸せに暮らしていくつもりだった。
雪乃は30歳までに子供を産みたいと思っている。
今日で雪乃は29歳になった。
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