第2話 ライバルの出現

「いよいよだな」


田中竜星は、窓の外に広がる異世界の風景を見ながらつぶやいた。勇者株式会社が正式に設立されてから数週間。初期の資金調達は成功し、最初のオフィスも構えることができた。ベアトリス・バンクロフトという強力な投資家の支援もあり、田中は着実にビジネスを進めていた。だが、ここからが本番だった。


田中が目指すのは、冒険者たちのサポートをビジネスとして確立させること。彼らの戦闘能力だけでなく、生活全般をバックアップする仕組みを提供するという新しいアイデアだ。冒険者たちの依頼を効率的にこなし、日常の負担を軽減するサービスは少しずつ注目を集め始めていた。


「竜星、準備はいいか?」


ミリア・オルステッドがオフィスの扉を開け、田中に声をかけた。彼女はかつての冒険者ギルドの有力な剣士であり、今は田中の右腕として会社を支えている。ギルドに不信感を抱いていた彼女にとって、田中のビジネスは新しい生き方の象徴だった。


「もちろんだ。今日のプレゼンが成功すれば、さらに大きな契約を結ぶことができるはずだ」


田中は力強く頷いた。今日は、地元の商人たちを相手に、勇者株式会社が提供するサービスについてのプレゼンテーションを行う重要な日だ。この契約が成立すれば、会社は大きく飛躍することになる。


オフィスの会議室には、すでに数名の商人たちが集まっていた。彼らは田中の話に興味を持ち、どのような形でビジネスが展開されるのかを知りたがっていた。


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。私たち勇者株式会社は、冒険者の皆さんが安全に、そして効率よく活動できるようサポートすることを目指しています」


田中は自信に満ちた表情でプレゼンを始めた。スライドを使って、これまでの実績や、提供するサービスの具体例を示す。冒険者たちにとって、戦闘後の治療や装備のメンテナンス、さらには情報の提供など、必要なサポートがすぐに受けられる環境を整えることで、彼らの負担を軽減する。


「例えば、私たちの会社では、戦闘後のポーションの提供や、必要な武器の調達を行っています。さらに、冒険者同士の情報共有プラットフォームも運営しており、これまでにない形でのサポートが可能です」


商人たちは田中の話に聞き入っていた。中には頷きながらメモを取っている者もいる。田中はその反応に手応えを感じた。


「また、今後は冒険者が戦闘に集中できるよう、生活面でも支援を行う予定です。例えば、専属の料理人や治療師を派遣し、彼らが日常の雑事に煩わされないようにする。これによって、冒険者たちはより効率的に活動できるようになります」


田中の話が進むにつれて、商人たちの興味はさらに高まっていった。彼らにとって、冒険者は重要な取引相手であり、彼らの活動をサポートするビジネスが広がれば、自分たちの利益にもつながるからだ。


プレゼンが終わると、商人の一人が手を挙げた。「なるほど、あなたたちの会社が提供するサービスは素晴らしい。だが、ギルドとの違いは何ですか? 彼らも冒険者をサポートしていますよね」


田中はその質問を待っていた。これこそが、彼のビジネスの真髄だった。


「確かに、ギルドも冒険者をサポートしています。しかし、彼らは戦闘力の強化や依頼の管理に重きを置いており、個々の冒険者が直面する日常の問題にはあまり関与していません。私たちの会社は、冒険者一人ひとりのニーズに応じたサポートを提供することで、彼らが本来の力を最大限発揮できる環境を整えるのです」


商人たちは田中の説明に納得し、さらに詳細な質問を重ねてきた。田中は一つ一つ丁寧に答え、その場の雰囲気は次第に好意的なものへと変わっていった。


「これなら、私たちも投資する価値があるかもしれませんね」


「ぜひ、契約を結びたいです」


商人たちが次々と契約の意向を示す中、田中は内心で勝利を確信した。これで会社はさらに成長する。勇者株式会社が異世界で確固たる地位を築く第一歩を踏み出したのだ。


だが、その時だった。


「随分と面白い話をしているじゃないか」


突然、会議室のドアが開き、一人の男が入ってきた。黒いコートを羽織り、鋭い目つきで田中を睨んでいる。彼の姿を見た瞬間、ミリアが警戒心を強めた。


「エドガー・グリフィン……!」


田中もその名前に反応した。エドガー・グリフィン――異世界における勇者ギルドのリーダーであり、強力な戦闘能力を誇る男だ。彼はギルドの支配者として、冒険者たちを統括してきた人物である。田中は以前から彼の存在を聞いていたが、まさかこの場に現れるとは思ってもいなかった。


「エドガー、何の用だ?」


ミリアが鋭く問いかけると、エドガーは冷笑を浮かべた。「いや、ただ興味が湧いただけさ。この新人が一体どれだけやれるのかをな」


彼の言葉には、明らかな敵意が込められていた。エドガーは田中のビジネスが脅威になると感じているのだ。ギルドの支配力を維持するためには、新しい勢力を潰しておく必要がある。田中はそのことに気づき、冷や汗をかいた。


「この世界で、ギルド以外に冒険者を支援するなんて考え方は、今までなかった。それをお前が始めようというのは分かるが……」


エドガーは田中に一歩近づき、その鋭い目で睨みつけた。「本当にそれがうまくいくと思っているのか?」


田中は冷静さを保とうと努めた。だが、エドガーの圧倒的な存在感に押されそうになる。ギルドのリーダーであり、異世界の冒険者たちを支配してきたこの男が相手では、そう簡単に勝てるはずがない。しかし、田中には引き下がるわけにはいかない理由があった。


「もちろんです。私はこのビジネスを成功させるために、全力を尽くします」


田中の声には決意が込められていた。エドガーはその言葉に一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにまた冷笑を浮かべた。


「面白い。お前のやり方がどこまで通用するのか、見物だな。だが、覚えておけ。この世界で生き残るのは、力のある者だけだ」


そう言い残して、エドガーは会議室を去っていった。彼の背中が見えなくなると、会場内の緊張が一気に解けた。商人たちは何事もなかったかのように契約の話に戻り、田中はその対応に追われた。


田中竜星は、エドガー・グリフィンの去っていった扉をじっと見つめていた。彼の背中が見えなくなった今も、胸の奥に感じる違和感は消えない。異世界に転生してからというもの、ここまで計画通りに進んでいたはずの事業が、今まさに脅かされようとしていた。


「大丈夫か、竜星?」


ミリア・オルステッドが心配そうに顔を覗き込む。彼女の銀髪が微かに揺れ、彼女の冷静な表情が、田中にわずかに安堵を与えてくれる。


「いや、大丈夫だ。驚いただけだよ。あのエドガーが、俺たちに興味を持っているとは思わなかったからな」


田中は無理に笑顔を作って答えたが、内心は不安が渦巻いていた。エドガー・グリフィンはただの冒険者ギルドのリーダーではない。彼はギルドを支配し、異世界の経済的な中心であるこの街において、影響力を持つ男だ。彼の妨害は、会社の存続に深刻な打撃を与える可能性がある。


「エドガーが言っていたこと、気にしてるのか?」ミリアが問いかけた。


「そうだな……」田中は素直に頷いた。「彼の言っていたことは一理ある。この世界では、やはり戦闘力がすべてなんだ。俺たちはその戦闘力を支えるビジネスを展開しているけど、戦闘そのものを提供しているわけじゃない。だから、エドガーみたいな連中に狙われたら、俺たちは不利なんだ」


「確かに、エドガーは強力だ。それに、ギルドはこの世界での力の象徴だ。でも、だからって簡単に負けるわけにはいかないだろ?」


ミリアの言葉には力があった。田中はその言葉に少し勇気をもらいながらも、頭の中でこれからの戦略を練り直していた。エドガーが何らかの形で妨害してくることは間違いない。問題は、その内容だ。


数日後、田中の予感は的中した。


「竜星、大変だ!」


オフィスに飛び込んできたのは、勇者株式会社の若い社員、エリックだった。彼は冒険者上がりで、現在は会社の営業として働いている。普段は冷静な彼が、血相を変えて飛び込んできたことで、田中はすぐに何か重大な問題が起きたことを悟った。


「どうしたんだ、エリック?」


「ギルドが、俺たちのクライアントを奪おうとしているんです!」


エリックの言葉に、田中の心臓が跳ね上がった。すぐに詳しい話を聞くと、状況は思っていた以上に深刻だった。エドガー・グリフィンが指揮するギルドが、田中の会社と契約している冒険者たちや商人に対して、圧力をかけているというのだ。


「彼らはギルドに従わなければ、商売ができないようにすると脅しているらしい。しかも、ギルドの特権を使って、俺たちが提供しているサポートサービスを無償で提供し始めたんだ」


「無償で……? そんなことをしたら、俺たちが勝てるわけないじゃないか!」


田中は焦りを隠せなかった。勇者株式会社が提供しているサービスは、冒険者たちにとって便利で価値があるものだったが、それを無料で提供されてしまっては、彼らにとってのメリットはなくなってしまう。田中たちが築いてきたビジネスモデルそのものが崩れかねない。


「やられたな……エドガーは、俺たちを潰しにかかっているんだ」


田中は拳を握りしめた。エドガーは力で勝負してくると予想していたが、ここまで露骨にビジネスを妨害してくるとは思わなかった。


「どうするんだ、竜星? このままじゃ……」


ミリアも困惑していた。彼女もギルドの内情を知っているだけに、ギルドの圧力がどれだけ強力か理解していたのだろう。彼女の冷静な目にも、少し焦りが見える。


田中はその場に立ち止まって考えた。このままエドガーに押し切られるわけにはいかない。しかし、無策で対抗しても、勝てる見込みは少ない。何か別の手段を考えなければならない。


「……作戦を練り直そう」


田中は深く息を吸い込み、決意を固めた。今必要なのは冷静さだ。感情に流されず、ビジネスの観点から冷静に判断しなければならない。


「まずは、クライアントたちと直接話をしよう。俺たちが提供するサービスの本質をもう一度伝えるんだ。無料でサービスを提供するギルドとは違って、俺たちは長期的なサポートを保証できる。ギルドが無料でやることにどれだけの持続性があるか、きちんと説明する必要がある」


ミリアが田中の方を見つめて頷いた。「確かに、そのやり方ならまだ希望はある。ギルドの圧力がどこまで続くかは分からないけど、彼らも持ちこたえられる期間には限界があるはずだ」


田中はその言葉を受けて、すぐに行動に移した。クライアントたちとの会合をセッティングし、彼らに直接会って話をすることにした。エリックやミリアも協力し、勇者株式会社のチーム全員が動き出した。


数日後、町の商人や冒険者たちを集めた会合が開かれた。田中は、クライアントたちの前でスライドを使いながら、勇者株式会社が提供するサービスのメリットを再度説明した。


「ギルドが提供している無償サービスは一時的なものにすぎません。彼らには持続可能なビジネスモデルがなく、いずれはその無料サービスも終了するでしょう。私たちは長期的な視点で冒険者をサポートし、彼らの成功を支えることを目指しています」


田中は自信を持って話し続けた。彼の言葉には真実があり、クライアントたちもそれを理解し始めたようだった。ギルドが提供している無料サービスには確かに魅力があったが、それが永続するわけではない。田中の会社が提供するサービスの方が、長期的に見れば安定したサポートを受けられるということが伝わり始めた。


「竜星の言う通りだ。俺たちは彼らに支えられているんだ。無料だからってギルドに乗り換えるのは、俺たち自身の未来を切り捨てるようなものだ」


会場内の冒険者たちの間で、徐々に賛同の声が広がっていった。田中の話は、彼らにとっても現実的な選択肢を示していたのだ。エドガーのギルドが無料で提供しているサービスには、持続性がないという弱点があった。それを見抜いた冒険者たちは、再び田中の会社に信頼を寄せ始めた。


「ありがとう、みんな。この信頼に応えるために、俺たちも全力でサポートしていく」


田中は深く頭を下げた。彼のビジネスが再び軌道に乗り始めた瞬間だった。


だが、安心するのはまだ早かった。エドガーがこれで引き下がるとは思えない。彼はさらに強力な手段で田中の会社に攻撃を仕掛けてくるだろう。だが、今の田中には恐れるものはなかった。自分のビジネスが持つ力を信じ、クライアントたちとの絆を深めていくことで、必ず成功を掴み取るという確信があった。


「これからが本当の戦いだな」


田中は心の中でそう呟いた。エドガーとの戦いはまだ終わっていないが、勝機はある。自分のやり方を信じ、仲間と共に戦い抜く覚悟ができたのだ。


田中竜星は、ついにその日を迎えた。勇者株式会社が、異世界初の「株式公開」を行う日だ。この異世界では、株式の概念すら存在しなかった。しかし、田中のビジネスモデルはそれを実現させた。投資家たちから資金を集め、会社を成長させるという手法を異世界に持ち込むことで、彼は新たな一歩を踏み出そうとしていた。


「今日で俺たちは、新たなフェーズに進む」


田中は自らに言い聞かせるように呟き、胸の奥に込み上げる緊張感を押さえつけた。異世界に転生してから、彼がここまで成長できたのは仲間たちの支えがあってこそだ。特に、ミリア・オルステッドや、初期の投資家であるベアトリス・バンクロフトの存在は大きい。彼らがいなければ、ここまでたどり着けなかったのは間違いない。


オフィスには、勇者株式会社の主要メンバーが集まっていた。ミリア、エリック、そしてベアトリス。皆、それぞれの表情に期待と不安が入り混じっている。田中は彼らに向かって笑みを浮かべ、手を差し伸べた。


「みんな、ここまでよく頑張ってくれた。今日の株式公開が成功すれば、俺たちのビジネスはもっと大きくなる。これからが本当の勝負だ」


「ええ、竜星。ここまで来たんだもの、失敗するわけにはいかないわ」


ベアトリスが頷く。彼女は貴族出身の投資家として、田中のビジネスに最初に賭けた人物だ。今もなお彼のビジネスパートナーとして、資金や人脈でサポートしている。


「まあ、やるしかないってわけだな。俺たちは冒険者だって、裏切られないことを祈るさ」


ミリアは肩をすくめて笑い、エリックも軽く頷く。皆が心を一つにして臨んでいる。しかし、田中はどこか胸騒ぎを覚えていた。


異世界に株式公開を持ち込むという大胆な試みは、確かに画期的だったが、リスクも大きい。特に、この世界では金や力が支配しているため、何か不測の事態が起こる可能性は十分に考えられる。田中はその不安を胸に抱えながらも、信念を曲げるつもりはなかった。


「行こう、みんな」


田中の号令で、彼らは証券取引所に向かった。異世界の証券取引所は、田中の提案で新設されたもので、都市の中心に建てられた巨大な建物だ。建物の外には、多くの投資家や商人たちが集まっていた。皆、勇者株式会社の株式公開に注目している。


田中はその光景に一瞬圧倒されたが、すぐに気を引き締めた。これが彼の望んでいた未来だ。異世界の経済に資本主義を根付かせ、会社という形で新たなビジネスモデルを展開する。それが田中の目指す場所だった。


証券取引所の中では、すでに準備が整っていた。ベアトリスは投資家として、すでに大口の株主を集めており、公開初日からかなりの株式が売り出される予定だ。


「竜星、すべての準備は整ったわ」


ベアトリスが冷静な声で告げる。田中は頷き、取引が開始される瞬間を待った。


「それでは……勇者株式会社の株式公開を開始します!」


証券取引所の取引員が合図を送り、公開が始まる。その瞬間、会場内にどよめきが走った。勇者株式会社の株価は、予想を超えるスピードで上昇していく。初期投資家たちが次々と株を購入し、会社への信頼が目に見える形で現れていた。


「すごい……まさかこんなに早く上がるなんて」


ミリアが目を見張り、エリックも驚きを隠せない様子だった。田中はその光景を見て、胸に込み上げてくる感動を抑えることができなかった。これが、自分たちの努力の結晶だ。


だが、その感動もつかの間のことだった。


「……あれ?」


ふと、田中は異変に気づいた。株価の上昇が急に鈍り、次第に減少し始めている。さっきまで順調だった取引が、どこかで歯車が狂ったようにおかしな動きを見せ始めたのだ。


「どうしたんだ、これは?」


田中は取引員に駆け寄り、状況を確認した。すると、取引員は困惑した表情で答えた。


「大口の株主が突然、株を売り始めています……かなりの量です」


「売り始めている? 誰がそんなことを?」


田中の頭の中に警鐘が鳴り響く。大口の株主といえば、ベアトリスの手で集めた投資家たちだ。彼らが株を売る理由があるとは思えない。だが、事態は急激に悪化していった。売却が相次ぎ、株価は急落していく。


「これは……どういうことだ?」


田中が声を上げたその時だった。


「残念ね、竜星」


背後から冷ややかな声が聞こえた。振り返ると、そこにはベアトリスが立っていた。彼女の目には、いつもの冷静な光が宿っているが、どこか違和感を覚えた。


「ベアトリス……?」


「あなた、気づいていなかったのね。私があなたを支援したのは、あくまでビジネスとしてのリターンを期待していたからよ」


田中の心臓が一瞬止まったかのようだった。ベアトリスは彼を裏切っていたのだ。


「最初から……こうするつもりだったのか?」


「ええ。あなたのビジネスは素晴らしいものよ。でも、それ以上に魅力的だったのは、あなたが作り出したこの『株式』というシステム。私はそれを利用して、自分の利益を最大化しようと考えていた。それがビジネスでしょ?」


ベアトリスは微笑んだが、その笑顔は冷たかった。


「そんな……」


田中は言葉を失った。彼が信じていたパートナーが、自分の会社を裏切り、株を売り払っていたのだ。しかも、それは事前に計画されたものだった。


「あなたのビジネスが成功するためには、株式公開が必要だったわ。だから私はそれを手助けした。でも、株価が上がったところで一気に売り抜ければ、私は莫大な利益を得られる」


田中はその言葉に激しい怒りを感じたが、同時に冷静さを取り戻す必要があることも理解していた。今は、感情に流されている場合ではない。この状況をどうにかしなければ、会社が崩壊してしまう。


「ベアトリス……」


田中は声を震わせながらも、冷静に話し始めた。「確かに、ビジネスは利益を追求するものだ。でも、俺たちが目指しているのは、もっと大きなものだ。俺たちのビジネスは、冒険者たちを支え、この世界を変える力があるんだ。短期的な利益のために、それを壊すつもりなのか?」


ベアトリスはしばらく黙って田中を見つめていたが、やがてため息をついた。


「竜星、あなたは理想家ね。でも、私は現実主義者なの。ビジネスの世界では、理想だけでは生き残れないわ」


田中はその言葉に強く反発した。「違う! 俺たちは理想を追い求めるからこそ、成功できるんだ! 短期的な利益だけでは、長く続けられるビジネスにはならない!」


ベアトリスはその言葉に少し驚いたようだったが、やがて再び冷笑を浮かべた。


「あなたがそう信じているのなら、それも一つの道でしょうね。でも、私は私のやり方で生きていくわ」


そう言い残して、ベアトリスはその場を去った。彼女の背中が見えなくなるまで、田中は何も言えなかった。周囲の仲間たちもまた、言葉を失っていた。


「どうするんだ、竜星?」


ミリアが心配そうに尋ねたが、田中はすぐに答えを出すことができなかった。だが、一つだけはっきりしていることがあった。このままでは会社が危機に陥る。


「……まだ終わりじゃない」


田中は静かに呟いた。「ここから、立て直してみせる。俺たちのビジネスは、こんなところで終わらせない」


仲間たちはその言葉に希望を見出し、再び動き始めた。ベアトリスの裏切りによって、田中は新たな挑戦に直面することになったが、それでも彼は立ち上がるつもりだった。

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