鬼喰い

@kinogi

第1話 運命の交錯

 天城ユウは、暴走した鬼人きじん――霧島シュウと対峙たいじしていた。シュウの姿は、かつての彼とはまるで異なり、凶暴な力に満ち溢れていた。しかし、その中にはかすかに自我が残されていた。シュウはその目を細め、ユウを視認し、彼の残された自我を振り絞って声を出した。


「逃げろ……ユウ、おまえを……食いたくない」


 シュウはかすれた声で訴えた。ユウはその言葉を聞き、首を振りながらシュウに手を差し伸べた。


「シュウ、一緒に帰ろう。おまえの帰りを皆が待っているんだ」


 ユウは心からの思いを込めて言った。


 その瞬間、シュウの筋肉が音を立てて隆起し、彼の瞳は血のように赤く染まった。彼は残された最後の理性で叫んだ。


「逃げろぉぉぉぉぉ!」


 その声は、彼自身の内なる葛藤を反映していた。ユウはその叫びに対抗するように、力強く言った。


「生きることから逃げるな! 諦めてんじゃねえ!」


 シュウはその言葉に動揺しつつも、ユウに襲い掛かった。ユウは覚悟を決め、腰の鞘から刀を抜き、シュウを迎え撃つ準備を整えた。


 *


 一方、鬼華きっかでは、二人のやり取りが映像で流れていた。緊迫した状況に、鬼道司令官は小さなため息をついた。


「鬼道司令官、天城ユウ隊長から応答がありません。どうされますか?」


 部下が尋ねる。鬼道は、場所が第八セクターであり、今から向かっても間に合わない距離にあることを理解していた。モニター越しには、ユウとシュウが激しい攻防を繰り広げている様子が映し出されていた。ユウの刀が光を反射し、シュウの力強い攻撃をかわしながら、彼は必死にシュウの心の奥に潜む自我を呼び戻そうと奮闘していた。しかし、シュウの暴走した力はすさまじく、彼の動きはまるで獣のように荒々しかった。鬼道はその光景を見つめながら、心の中で葛藤していた。果たして、ユウはシュウを救うことができるのか、そして自らの命を守ることができるのか。


 鬼道は覚悟を決め、管内アナウンスのスイッチを入れた。


「皆さんにお願いがあります。現在、天城ユウ第一部隊長と暴走した霧島シュウ隊員が交戦中です。動ける者は第八セクターまで至急向かってください」


 彼の声は冷静さを保ちながらも緊迫感を帯びていた。部下たちはその言葉に反応し、すぐに行動を開始した。


 その中で、鬼道の息子――鬼道アキトがモニターを見つめ、心の中で舌打ちをした。


「司令官、俺と神谷が行きます」


 彼は決意を固めて言った。神谷ナナは力強く頷いた。


「はい、動けるのは第一部隊だけですので、私も行きます」


 アキトとナナは急ぎ足でブリッジから出ていき、鬼華の一員たちは祈るような思いで彼らの無事を願った。


 二人はジープ型の車に乗り込み、第八セクターに向かった。アキトの運転は荒々しく、ハンドルを握る手には緊張が走っていた。ナナは俯きながらアキトに疑問をぶつけた。


「どうして、ユウは黙って行ってしまったのかな?」


 彼女の声には不安が滲んでいた。アキトは一瞬考え込み、そして答えた。


「さあな。今の俺たちは疲弊している。ユウは、俺たちが足手まといになると思ったんじゃないか?」


 彼の言葉には、ユウの決断を理解しようとする気持ちが込められていた。


 ナナはスラックスを握りしめ、己の実力のなさが悔しかった。彼女は自分が何もできないことにイラ立ちを覚え、心の中で葛藤していた。アキトはその気まずさを感じ取り、咳払いをして言った。


「悪い。冗談だ。ユウはきっと、俺たちを心配させたくなかったんだろうな」


 ナナはアキトを涙目で睨みつけた。


「今、まともに動けるのは俺と神谷だけだ。鬼華が鬼に襲撃された際、俺たちが必要になると思ったんだろうな。だから、ユウは言いたくても言い出せなかったんだ」


 彼女は小さく呟いた。


「そっか……」


 アキトは彼女の言葉に頷いた。


「でも、あとはおやじがうまくやってくれるだろう」


 アキトは自分を奮い立たせるように言った。彼の言葉には少しの希望が込められていた。ナナはその言葉を聞き、心の中で少しだけ安堵あんどを感じた。二人はジープ型の車の中で、互いに無言のまま、ユウの無事を祈りながら第八セクターへと向かっていた。


 ジープ型の車が急速に進む中、ナナはふと窓の外を見つめ、心の中でユウの姿を思い描いた。

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