わたしと文体

紙の妖精さん

エピローグ【繰り返す季節と記憶】

授業が終わると、私はまた屋上に向かった。教室の雑音から逃げたくて、青い空を見上げる。そこには、雲一つない、まぶしいほどの晴天が広がっていた。


「なんで、こんなに綺麗なんだろう」と、思わずつぶやく。空はどこまでも高く、私はその美しさに嫉妬を覚えた。


「もっと曇っていればいいのに…」そう感じる自分が、少し恥ずかしい。生きることがこんなにも面倒だと思うのは、いつからだったのか。


私(橋本円花)は、高校二年生。特に目立つわけでもなく、ただ無難に毎日を送っている。唯一の自慢は、成績が良いことくらいだ。


新学期が始まり、クラスも変わった。隣の席には、いつも元気な田中あゆみがいる。彼女は明るく、誰とでもすぐに仲良くなれるタイプだ。


「ねえ、円花!放課後、一緒にカラオケ行かない?」田中の声が耳に響く。


「ちょっと、考えとくね」と曖昧に返す。実際には、行く気が全くなかった。カラオケなんて、どうでもいい。田中の明るさが、逆に重く感じる。



私はまた、屋上で静かな時間を過ごすようになってしまった。ここなら、誰にも邪魔されず、自分だけの時間を持てる。空を見上げながら、何も考えたくない。そんな気分だった。




私が屋上にいると、風が心地よく、学校の雑音が遠く感じられる。そんなとき、また舞からのメッセージが届いた。


「ねえ、今どこにいるの?」


私は少し迷って、屋上からの景色を背景にした写真を送った。返信が来るまでの間、雲の形を眺めながら、ぼんやりと考えにふける。




その時、ドアが開く音が聞こえた。振り向くと、遠藤さんがいた。彼女は、少し恥ずかしそうに笑いながら、私の隣に座った。


「またここにいるんだね。」


「うん、ちょっと逃げたくなって。」


遠藤さんは頷き、しばらく静かに空を見上げていた。何を言おうか迷っていると、遠藤さんがふと口を開いた。


「私も、最近思うことがあって。」


遠藤さんの言葉に、私は興味を持った。遠藤さんのような存在が、私と同じような感情を抱いているとは思わなかったからだ。


「何か、あるの?」


遠藤さんは少し微笑みながら、頷いた。


「私も、時々逃げたくなる。周りの期待に応えなきゃいけないって思うと、疲れちゃう。」


その言葉は、私の心の奥に響いた。意外な共感に驚きつつも、心が少し軽くなった気がした。


「私も、そんな気持ちを抱えてる。」



空の青さが二人を静かに見つけるようだった。


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