ノースポール

坂下 ミヤビ

第1話

───『加害者は、P県Z市に住む、三十四歳女性、梁見坂はりみさか 瑠璃るりさん。被害者は……』

「最近物騒な事件が多いですね。」

「まぁ、春になると不審者が増えるとか言うだろ?あれの夏版みたいなモンだろ。最近特にあちぃし、暑さでどっかヤられてんだよ。んな事より、引き出しの整理はようやく終わったか?」

「はい。あ、これ。」

「なんだ?『ノースポール』?」

「はい、日記なんですが、何か良い情報が残っていればと。」

「……花言葉は『誠実』、『純粋』ねぇ。犯罪者とは真逆だな。机の上空けろ。中、見るぞ。」

「分かりました。」


『八月二十三日(曇)

ようやく私と真情しんじとの子供が昨日産まれた。(ホントは昨日日記書きたかったけど、さすがにダメだった)

入社してすぐ付き合いだしたから、四年も待ったよ。

でもようやくなんだね。実感は思ったよりもないかも。

男の子ってきいてから名前は決めてた。まことそれがあなたの名前。

自分に正直に育って欲しいってのと、

真情の真から意味を取って、誠。

お医者さんは誠が発達障害だって言ってたけど、お母さん信じてないから。

もし発達障害でも、生きやすい世の中になってきてるから、未来は明るいよ。

これからよろしくね、誠。


追記

花言葉が誠実、純粋で誠にぴったりだと思ったので、この日記をノースポールと名付けます。』


「八月二十二日に息子が生まれたみたいだな。めでたいこった。でも今日は八月二十四日。事件は二日前。息子の誕生日に何やらかしてんのかねぇ、この母親は。」

「何をしてんでしょうね、本当に。

はぁ……もう読む気失せてきましたよ。

読むのやめちゃだめですか。」

「勝手にしろ。俺はお前の上司だ。給料、ボーナスについては覚悟しとけよ。」

「わかりましたよ。読みますよ。」

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