第32話 繋がりと絆

 帰り道、お店の店員にこっぴどく叱られ、反省してる美優、母さんにも叱られ、さらに落ち込む美優、度が過ぎた悪ふざけだった。


 とぼとぼと歩く。ふざけた美優も悪いが、キッカケを作った俺も悪いのかも。母さんは、


【今日話してもいいと思って私もついてきたの。こんなふうに親子で話せる機会ってないからね】


なんか凄く重い話かな?


不思議と美優も俺もただ事ではないと感じる。


ドレス👗と礼服を持って近くの公園に。


缶コーヒーを飲みながら座り、


冗談なんて言える雰囲気ではないな。


【お父さんのこと、覚えてる?美優?】


【すごく優しい人だったってことかな?】


【正人は?覚えてないよね?】


【うん…何も】


【正人が赤ちゃんのころ、お父さんと別れることになったの…事情は今度話すけど、結婚そのものが向いてない人だったの】


俺が赤ちゃんの?


【それでね、再婚した相手が美優の本当のお父さん】


美優は、缶コーヒーを落として、


【本当の?じゃあ、お母さんは?私、お母さんと私は…】


【そうね…美優を連れて来たお父さんと結婚したの。3歳の美優を連れてね。あの事故の前のこと。美優、凄くいい子ですぐに私に懐いてくれて、甘えてくれて…】


【じゃあ、お母さん…本当に血は繋がってないの?私は、お父さんとしか血は?えっ?ずっとそんな私をお母さんは?】


震えてる…美優。


母さんは美優を抱き抱えこむように、


【美優、こうしてると安心するでしょ?】


【うん。これ今も大好き。お母さんの匂い、凄く凄く安心する。でも、血が繋がってないってことは、ごめんね、そんな私を…】


言いかけた美優の唇をつまんで、


【血の繋がりってなに?血の繋がった正人のお父さんは正人の出産の時にいなかったの。大事な仕事だと。その後も長期出張で正人を見たのは出産して二ヶ月くらいして。でもね、会っても正人が泣いたら嫌そうな顔して。この人は愛情を持ち合わせていないんだと。結局仕事に生きて家庭を犠牲にする人だと】


美優は、


【ひどい!!正人かわいそう】


【結局、抱っこしないまま、別れたの】


【そんなの!!何のために結婚を?】


【家庭があるって体裁だけ。ほとんど家にいない。いても正人の泣き声を聴くとすぐに自分の部屋に入って出てこないの】


美優は、怒りに拳を握りしめて、


【そんなの最低!!可哀想…】


【美優のお父さんは、正反対に優しくて、家庭をとにかく大切にする人。美優も大事に大事に育てられてきたのは解った。会ってすぐなのにあんなに人懐っこい娘なんて。それに美優のお父さんは正人にもたくさんの愛情を持って接してくれて…】


母さん、話すの辛くないか…


【事故の詳しいこと、私は永遠に言わない。誰に聞かれても。お父さんの強い願いだから。美優、血の繋がりなんて意味ないの。あなたのお父さんほど思いやりを持つ人は…】


美優は、


【お母さん、もう話さないで!!解った。お母さんは私のお母さん!!!これは変わらないから。だって今もこうして抱きしめてくれてる】


それでも、


【ありがとう美優!!】


 泣き出した美優を母さんは、さらに強く抱きしめ、美優は泣き声で、


【当たり前だよ!!お母さんの娘以外やだもん!!血の繋がりなんて関係ないもん!!】


 俺はただただ座り込んで、この二人の絆の強さを実感していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る