珈琲13杯目 (9)もふもふの代価はあまりに大きく
「これで、こいつがニセ物だということがはっきりした。早速、行方不明の金細工職人の捜索に取り掛かるよ」
立ち上がられたゼルベーラ隊長は、大きく背伸びをされてから、お隣に座るクラウ様を憐れみの目で見おろされました。
「……お嬢さん、拾ったのがニセ金では、謝礼金も期待できそうにないな」
「え? あ、うん、そうだね……」
一攫千金の野望が
「そう気を落とすな。警務隊から、何がしかの礼はある……かもしれんぞ」
ゼルベーラ隊長がクラウ様を励まされます。礼はする、と断言しないあたりは、ウソをつけない隊長の人の良さというものでございましょう。
一方リュライア様は、珍しくクラウ様に助言を贈られました。
「クラウ、どうせならリリーについて行って、そのニセ金を拾った状況を詳しく説明してやれ。そうすれば、お前は事件解決の端緒となった人物として記録に残る」
そして隊長を見て、意味ありげに微笑まれました。「その方が、『お礼』をもらえる可能性が高くなるし、授業を抜け出したことへの言い訳にも使えるぞ」
「! そっか、そうだよね!」
珍しい叔母君のご助言に、クラウ様は飛びつかれました。「じゃあ隊長。警務隊まで同行するから、『お礼』よろしくね!」
おふたりを玄関までお見送りした後、わたくしはすぐに二階の居間には戻らず、まず自室にて執事の衣服を脱ぎ始めました。
別に露出趣味があるためではなく、
そう、元々本日は、「リュライア様がひたすら
もちろんわたくしは、金貨の謎解きの間、リュライア様がずっともふもふの欲望に耐えておられたことに気付いておりました。ご主人様が、金貨がニセ物である証拠にまだ気付かれておられぬクラウ様の言葉尻を捉えて正解に導かれたのは、身内への親愛の情からではなく、一刻も早く邪魔者たちを追っ払いたいという、もふもふへの熱き衝動ゆえでございます。
脱いだ執事服をたたみ、
「やっと邪魔がいなくなったぞ!」
居間に入るなり、リュライア様はこちらに駆け寄られ、血走った目で
「も、もう我慢できん。吸わせてくれ」
そしてそのまま床に倒れこみ、わたくしを仰向けにして、無防備な腹部を天井にさらしました。そして、舌なめずりされつつ、うれしそうに目を細められました。
「今日は寝かさないからな。覚悟しておけ」
居間の絨毯の上で、
「ふおぉおおっ、ほら、どうだ! ここか、ここがいいのか!?」
肺腑いっぱいにわたくしの腹部を吸われる合間に、ご主人様が叫ばれます。以前でしたら、この種のいかがわしい言葉は声に出さずに<念話>で語りかけてこられたのですが、最近は口に出した方がより興奮するという事実に気付かれたご様子でございまして、一般的な「猫吸い」とはいささか異なる光景が繰り広げられております。
吸われるわたくしも、ゴロゴロと喉を鳴らしたり、身をよじったりして、「それっぽく」反応いたします。すると興奮されたリュライア様が、いっそう激しく愛撫、もとい、猫吸いをされまして、それがまたわたくしの切なげな反応を引き出して……という、愛と欲望の無限循環に突入しつつありました。
「そら、もっといい声で啼け! 悶えろ! もっ……と…………」
突然、リュライア様が愛撫を止められて、居間の扉の方を凝視されました。何事かと、その視線をたどりますと……。
「……リュラ、叔母、様……?」
居間の入り口で、クラウ様が呆然と
「……あの、僕、証拠のニセ金貨を忘れちゃったから、隊長に言われて、取りに戻って来たんだけど……」
クラウ様の瞳――瞳孔が全開でございます――には、使い魔の猫を相手に狂態を繰り広げる叔母君の姿が映ってしまわれたことでございましょう。
「……何、してるの……?」
「見てわからんのか?」
軽く咳払いされたリュライア様は、実に落ち着き払って答えられました。
「これが『猫吸い』というものだ。用が済んだら、さっさと出ていけ」
……ニセ金貨を手にされたクラウ様は、挨拶もそこそこに、
もふもふの前には、何ら恥じるところなし。もふもふに懸けるリュライア様の気迫が、クラウ様を圧倒されたのでございましょう。
ただ、衝撃から立ち直られたクラウ様が、今後リュライア様についてどのような風評を流布されるかは、天のみぞ知るところでございます。どうか、「僕の叔母は使い魔の猫と不純異種間交友している変態魔導士だ」などと噂されませんように。
あるいは、クラウ様が「猫吸い」とはこういう
珈琲13杯目 了
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