珈琲2杯目 (8)店主の目的

 疑問ではちきれそうな頭を抱えたクラウ様を玄関までお送りしてから二階の居間に戻りますと、机の上で文字どおり頭を抱えておられたリュライア様は、盛大にため息をつかれました。

「まったくあの馬鹿ときたら……まあ、本名を名乗らなかっただけマシか……」

「珈琲のお代わりはいかがですか」

「頼む。アーモック産の浅煎りを布濾しでな」

「かしこまりました」


 わたくしは空の椀をお下げしようとしましたが、リュライア様が名残惜しそうに白磁のカップを眺めておられるのを見て、まずはご主人様にお声がけすることにいたしました。

「大変素晴らしい逸品でございますね。クラウ様もお目が高い」

「あの阿呆はどうでもいい。何故無駄話と雑用をするだけで法外な報酬を支払われるか、疑いもしない奴だぞ」

 リュライア様は憮然として椅子にもたれかかりました。「学院の生徒が何人もいる中で、何故自分だけが選ばれたのか不思議に思わんとはな」

「それに、作業着の寸法が合っていたことも。地下倉庫で棚に置かれた物を整理することが分かっているなら、ある程度背の高い者を雇うはずでございましょう。しかし……」

「クラウのような背の低い者を雇い、作業着もそれに合った物が用意されていた。確かに作業の肝は魔道具の鑑定だが、そんな魔法なら魔導学院の学生の大半は使える。なのに何故その種の作業に不向きな自分が選ばれたかのか、全く気付かんと来ているな。やはりあいつは間抜けだ」

「それに、地下倉庫には埃が積もっていたそうですが、何故か棚の上に置かれていた白磁の器には、埃が付いていなかったようでございます。まるで古道具をわざわざ地下に持ち込んで並べたかのようでございますね」


 リュライア様は諦念の表情でわたくしと目を合わせました。「ゴディルとかいう奴の狙いは、奴の息子を名乗る人物と背格好が似ているプラトリッツの学生だ」

「はい。正確には、その学生の制服一式かと」

 リュライア様とわたくしは、同時にうなずきました。やはり主従が同じ結論に達するのは、快いものでございます。

「店は実際の古道具屋を使ったのだろうな。借りたか、実家の親が危篤になったとかの偽手紙で主人を実家に追い払ったか……いずれにせよ、手間も費用も相当かかっているはずだ」

「それにクラウ様への法外な報酬も。それほどの手間と大金を投じてまで、魔導学院の制服を手に入れる目的は一つしか思い浮かびません」

 リュライア様は、わたくしの言葉に同意のうなずきを返されました。

「ユニコーンの角、だな。ゴディル一味は、先月学院に侵入して角を盗み出そうとした盗賊連中に違いあるまい」

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