まっさらな荒野で君と

モノリス

第1章

「今日の授業は終わります。今日やったところは各自、家で復習してきてください。」


霧矢が帰ろうとしたその時、クラスのいじめグループが彼を引き止めた。


「霧矢、放課後暇か?俺らと遊ぼうぜ。」


断ることなどできず、霧矢は廃墟となった雑居ビルに呼び出され、リンチを受けた。腫れ上がった顔で家に帰っても、親は何も心配しない。これが霧矢一平の日常だった。


(自殺しようかな……)


そんな考えが頭をよぎる中、霧矢はいつものように唯一の趣味であるネットサーフィンをしていた。そこで【人造人間手術被験者募集】という奇妙なサイトを見つける。


(どうせ死ぬなら、いっそ賭けてみるか)


自殺を考えていた霧矢に迷いはなかった。数回メールで連絡を取り合った後、手術の日が決定された。そして、手術当日。


「あなたが霧矢さんですね?」


待ち合わせた研究所で、若い男が声をかけた。


「はい」


「では、今回の手術は命の保証ができませんので、こちらに署名をお願いします。」


科学者は霧矢に大量の契約書を差し出した。


(やっと死ねる……)


霧矢はそう思いながら、全ての契約書にサインをした。


「では、手術室にご案内します。こちらについてきてください。」


言われるがままについて行くと、そこには7人の科学者が待機しており、数多くの手術器具が並んでいた。恐怖を感じた霧矢は思わず質問した。


「これ、麻酔はありますよね?」


科学者はにっこりと微笑んで答えた。


「ええ、もちろん。安心してください。」


その言葉を聞いて、霧矢はほっと胸を撫で下ろした。しかし――


「では、手術を始めます。」


その瞬間、霧矢の体に激痛が走った。足がまるごと切断されたのだ。霧矢は絶叫した。


「麻酔は!?麻酔はどうしたんですか!?」


霧矢は手術の中止を求めたが、科学者たちは無言で手術を続けるだけだった。霧矢にとって、その時間は永遠にも思えた。しかし――


「できた!やったぞ!手術成功だ!」


「霧矢さん、手術が終わりましたよ。大成功です!」


(終わったのか……)


その瞬間、霧矢は成功の驚きよりも、安堵感が勝った。しかし、その安堵も束の間だった。自分の体を見ると、全身が本当に機械に変わっていたのだ。


「霧矢さん、手からビームを出してみたいと思って、手に力を入れてみてください。」


科学者の一人に言われるまま、霧矢は腕に力を込めた。すると、驚くべきことに、機械の腕からビームが発射され、研究所の壁を突き破った。


「すごい!本当にすごい!脳回路との接続も完璧だ!」


科学者たちは喜びに沸いていたが、霧矢は困惑していた。


(まさか、本当に人造人間になったのか……)


霧矢は、今や自分が人造人間になったことを実感した。そして、この瞬間、彼は誰よりも強い存在になったことを悟った。


「この力、試させてもらいますよ。」


そう言って、霧矢は手術台の拘束を自力で外し、目の前の科学者の顔を握り潰した。


「ひぃぃぃ!この化け物!!」


周囲の科学者たちは慌てて拳銃を取り出し、霧矢に向けて発砲した。しかし、その銃弾は、今の霧矢には全く効かない。彼は圧倒的な力で、次々と科学者たちを皆殺しにした。


「すごいぞ!この力は……!」


しかし、その興奮も一瞬のものだった。冷静さを取り戻した霧矢は、自分の体を見つめ、人間として生活することがもう不可能だと実感した。


(これからどうすればいいんだ……。人間だった時ですら誰にも受け入れられなかったのに、今の俺を受け入れる場所なんて……)


だが、すぐに思考は変わった。


(いや、違う。この力があれば、世界を掌握することだってできる!)


長年地獄のような日々を送ってきた霧矢にとって、もはや人間は悪以外の何者でもなかった。彼の行動は素早かった。


「くらえ!」


霧矢は手に力を込め、極太のビームを放ち、住宅街を一瞬で焼き尽くした。


「きゃあああ!助けて!!」


「警察を呼んでくれ!」


一瞬にして街は大混乱になった。霧矢は不思議な高揚感に包まれていた。霧矢は自身の圧倒的な力を目の当たりにし、今まで感じたことのない興奮に支配されていた。人々の悲鳴や恐怖に満ちた叫びが、彼にとっては快感となり、ずっと抱えていた無力感が消し飛んだように感じた。彼にとって、人々が逃げ惑う姿は、自分を追い詰め、無視し続けた世界への復讐そのものであった。


「俺が何をしても、誰も止められない...」


しかし、その破壊を続けていると、霧矢の背後からヘリコプターの轟音が聞こえてきた。上空には複数の武装ヘリが霧矢を包囲していた。拡声器で声が響く。


「そこまでだ!動くな、武器を捨てろ!」


霧矢は笑いながら、機械の腕を見つめた。


「武器?俺が武器そのものだろうが!」


その瞬間、霧矢は空に向かってビームを放ち、一つのヘリが爆発し、火の玉となって墜落していった。他のヘリが一斉に発砲し、ミサイルが彼の方に飛んできたが、霧矢は動じなかった。無数の弾丸や爆発が彼の機械の体に当たるが、その全てを無傷で耐え抜いた。


「フハハハ!もう俺に通じるものは何もない!」


彼はさらに狂気の笑みを浮かべ、破壊を続ける意志を強めた。

霧矢は、自らの力に酔いしれながら破壊を続け、もはや誰にも止められないという確信を抱いていた。しかし、突如として耳をつんざくほどの高周波音が頭を貫いた。


「くっ…なんだ…?」


霧矢は頭を押さえ、振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。銀色に輝くボディスーツのような装甲を身にまとい、無機質な目で彼をじっと見つめている。


「貴方が霧矢一平?」


彼女の声は機械的ながらもかすかに人間らしい感情が混ざっていた。霧矢は警戒心を抱きつつも、自分と同じような人造人間だということにすぐ気づいた。


「お前は…誰だ?」


「私はNo.47。貴方と同じ実験体…」


霧矢は驚きの表情を浮かべる。まさか、自分以外にもこんな存在がいたとは。しかし、彼女の姿にはどこか脆弱さを感じた。彼女の体は完璧な人造人間でありながら、彼とは異なり、戦いの痕跡が少ないように見えた。


「俺と同じ、だって?お前もあの科学者たちに改造されたのか?」


「そう…私も貴方と同じ。だが、私には任務がある。貴方を止めること…」


そう言い終えると、少女は一瞬で霧矢に向かって突進してきた。彼女の速度は驚異的で、霧矢が気づいた時には、すでにその鋭い手刀が彼の機械の胸部に突き刺さっていた。


「ぐっ…!」


霧矢は驚きつつも、すぐに彼女の腕を掴み、押し返した。だが、彼の手応えから、彼女がただの敵ではないことが分かった。彼女もまた、圧倒的な力を持っている。


「俺を止める?そんなことできると思うのか?」


霧矢はビームを放とうとしたが、彼女はすでにそれを読んでおり、瞬時に側転して避けた。彼女の反応速度は人間離れしており、霧矢の攻撃が次々と空を切る。


「やるじゃないか…面白い!」


霧矢は再び攻撃を仕掛けたが、彼女の動きは依然として速く、霧矢の手が届く前に彼女は反撃の蹴りを放ち、霧矢を後退させた。


「私には感情はない。貴方を破壊する、それだけが目的」


だが、その言葉とは裏腹に、少女の表情には微かに葛藤が見えた。霧矢はその変化に気づき、さらに彼女に問いかけた。


「本当に感情がないのか?それとも、抑え込まれているだけか?」


その問いに少女は一瞬動揺したように見えた。しかしすぐに冷静さを取り戻し、再び攻撃態勢を取った。


「…貴方には関係ない」


「いや、関係ある。お前もあいつらに操られているだけじゃないのか?」


霧矢は自分の体を思い出しながら、彼女が同じ苦しみを抱えていることを直感した。彼女もまた、科学者たちの道具として作り出された存在なのだ。


「お前だって、自由になりたいんだろ?」


その言葉に少女の動きが止まった。瞳の奥に、霧矢が想像していた以上の葛藤が渦巻いていることがわかった。


「自由…」


彼女は小さな声でその言葉をつぶやいた。そして、しばしの沈黙の後、霧矢に向けて言った。


「もし私が自由になれるなら…私たち二人で、この世界を変えることができるかもしれない」


霧矢はニヤリと笑った。


「面白いじゃないか。俺たちでこの腐った世界を支配しようぜ。誰も止められない…俺たちならな」


こうして二人は意気投合し、世界を支配するという野望を共有するようになった。No.47という名前ではなく、彼女は「セラ」と名乗り、霧矢と共に歩むことを決めた。


最初に彼らが目指したのは、全てを操っていた科学者組織の殲滅だった。研究所を一つ一つ破壊しながら、彼らは人造人間の軍団を作り出す技術を奪った。霧矢とセラは次々と強力な兵器を開発し、二人だけの軍を結成していった。


世界各地で反発する勢力は多かったが、霧矢とセラの連携と圧倒的な力の前には無力だった。彼らは人々の恐怖を利用し、政府機関さえも手中に収めていく。


「見ろよ、セラ。この世界は俺たちのものだ」


霧矢は征服した都市の高台から、広がる光景を眺めて笑った。だが、セラは静かにその様子を見つめていた。


「これで本当に…自由になれたのだろうか?」


彼女の心には、まだどこかで疑念が残っていた。しかし、霧矢と共に進んだ道を振り返ると、後戻りはできないこともわかっていた。


「俺たちはこれからもっと強くなる。もっと多くを手に入れる」


霧矢の決意は揺るがない。こうして、二人は新たな秩序を作り出すため、世界の頂点へと登りつめていくのだった。


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