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WATA=あめ

プロローグ ある英雄の記憶

 英雄譚えいゆうたん英雄えいゆうを主人公とし、その活躍や雄々ゆうゆうしさをたたえる話。創作物そうさくぶつであったり、実際の出来事であったり、はたまた実在する人物の活躍であったりと、時代背景や内容まで様々だ。あるものは書物として人々の手元に残されていたり、またあるものはおとぎばなしとして口伝くちづたえに広まっていたりと、数え切れないほどの英雄譚えいゆうたんが、世界には存在している。


 ———おそらく、今俺の前で起きているこの死闘でさえも、後にその一つに加えられ、———とでも後世に伝わっていくのだろう。

 

 そんな、まるで他人事ひとごとかのように内心で独りちながら、俺はボロボロになった自分の体にかつを入れる。......というか、逃避の1つや2つしないで今の目の前の現実を受け入れられるほど、俺はできた人間じゃない。今こうして再び立ち上がろうとしていられるのが不思議なくらいだ。

 


 「......クソッ.......!!」

 


 痛む体を無理矢理叩き起こし、ヨロヨロと立ち上がる俺。......おそらく、もう限界を超えているのだろう。その証拠に、少しでも気を抜くと意識が飛びそうになる。それでも全身には、先程までの地面の温度と触感しょっかんが嫌というほど残っている、非常に嫌な感覚だ。


 ———しかし、改めて周囲を見やると.......本当にひどい有様だ。見慣れた街並みは消え去り、まるで別の世界に足を踏み入れたかのような感覚におちいる。先程まで肩を並べて戦っていた仲間たちは倒れ伏し、遠くの方で逃げ惑う人々の悲鳴が耳に入ってくる。どこまでも胸糞悪い光景に、拳を握る力が強まっていくのを感じていた。



 「......あぁ、そうだ!それでこそ君だ!!......君ならばきっと、再び僕の前に立ちはだかってくれると、僕は信じていたよ!!!

.......ククク......アハハハハハハハハハハハ!!!!」


 

 そんな俺の姿を見るや否や、両手を広げ、興奮気味に歓喜する1人の男。衣服はボロボロ、体の至る所には血が滲んでおり、色素の薄い髪は血で真っ赤に染まっている。まさに満身創痍、といった状態にも関わらず歓喜に狂うその姿は、明らかに異常だ。

 

 .......そう、俺が対峙しているこのイカれ野郎こそが、全ての状況を作り出した張本人であり、文字通りだ。



 「ハっ......相変わらずだな、テメェは。いい加減、他に言うことはないのかよ?」


 「他に、か......それは、考えたこともなかったね。君という存在を認識してからは、僕の頭をよぎるのは常に君のことばかりだ。......それ以外のことは、僕にとって些事さじでしかなく、無意味なことだ。有象無象うぞうむぞうの結末など、僕の“シナリオ”には記されていないからね」

 

 「.......ああ、そうかよ」



 予想通りの狂人の戯言ざれごとを、俺はいつものように短く切り捨てる。そう、こいつとの会話は。一見こちらの意図を汲んでいるかのようにも思えるが、結局自分の思想だけに結びつけて言葉を選ぶから意味不明になる。端的に言えば会話にならない。まさに狂人と表現するのに相応しい男である。



 「しかし、結局最後はこうなってしまうんだね。......〈混沌〉とは、選ばれし〈担い手〉同士の意思のぶつかり合いによってもたらされ......やがてそれは〈崩壊〉へと変化していく。

 つまりは、選ばれた〈担い手〉である僕と君が闘い続けることによって確立するというのに......こんなにも早く、決着の時がやってきてしまうとはね。本当に物事はうまくいかないものだよ.......あぁ———非常に残念でならないね」


 「何当たり前のこと言ってんだよ、バカ。永遠に続く死闘なんてあってたまるか」


 「———確かに、それもそうだね。

ククク.......君の言う通りだ。現に、僕も君も、そろそろ限界のようだからね」



 と、何が面白いのか、どこまでも可笑しそうに肩をすくめる男。自分から言ってきておいて、すぐこれである。とことん意味が分からない。

.......本当にどこまでも不快な奴だ。ましてや、顔だけは良いから、何気ない仕草が絵になるのもまたムカつくところだ。

 

———ま、とにもかくにも———



 「......これでしまいだ、くそ野郎。今ここで、テメェの理想をぶっ潰す」


 「ああ、かかってきたまえ。決着をつけると——」



 と、言い終わるが否や、突如俺の後方から赤色のエネルギー弾が狂人めがけて放たれる。不意打ちにも関わらず、それをなんなくかわしている狂人ではあったが、今までの戦闘のダメージが残っているためかその表情に余裕の色はない。

 

 何事が起きたのかと振り返るとそこには———全身傷だらけになり、今なお肩で呼吸をしながら攻撃を続ける相棒の姿があった。



 「お前......、ッ!、バカヤロウ!!無茶してんじゃねぇよ!!!そのケガで戦えるわけねぇだろ!!!」


 「はぁ!?バカはあんたでしょ!!!何が、『テメェの理想をぶっ潰す』よ!こんな化け物相手に、私抜きで勝てると思ってんの!!?この考えなし!!」


 「なっ!?.......お、お前なんていなくたって全然平気だし!余裕に決まってんだろ!!?」


 「どうだか。あんた、私がいないとロクに戦えないクソ雑魚でしょ?無駄死にする未来しか見えない」

 

 「こいつ.......!言わせておけば......!」



 攻撃の手を緩めないままに、つい先程まで瀕死になっていたとは思えない態度で喰いついてくる少女。とても死闘の最中さいちゅうのテンションとは思えない。......というかさすがにひどくない?さっきまで色々噛み締めて1人で頑張ってたのに全否定されて。ちょっと内心泣きそうになってるんだが。

 

 思えば、この少女が相棒になってからはこんなことばかりだ。些細ささいなことでケンカして、そのくせしてお互いにほっとけなくて、

......お互いのためにいつも無茶をして——



 「......あぁ、もう全く!!!!本当にお前は最高の相棒だよ.......!!クソが!!!」


 「!.......き、気づくのが遅いっての!!バーカ!!バーカ!!!......後で埋め合わせ、してもらうんだからね!!約束よ!?絶対だからね!!!」


 「はいはい......この戦いが終わってから——な!」



 

 埋め合わせ、か。俺もけっこうな大役を任せられるようになったものだ。.......やるからには、下手なプランを披露するわけにはいかないな。というかそれやったら確実に殺される、物理的に。


 ——とりあえず、さっさと終わらせて帰るとしよう。最高のプランを考えるために、な。

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