【長編】14回の「幼馴染なのに違う男にNTRれてごめん。よりを戻そう」と、14回の「断る。もうお前とは関わりたくない」
八木耳木兎(やぎ みみずく)
序章 一緒に仕事をする話
◆ 202X年9月某日 午前11:00 ◆
◇ 神戸 ◇
◇ 市街地からやや離れたレストラン ◇
「断る」
「うぅっ……!!」
幼馴染の
わざわざ俺の行きつけのレストランに来てくれたのに申し訳ないが、だからってさっき彼女が言った頼みを承諾するかというとNOだ。
『昨晩未明、県内に住む大学生が車に轢かれ、死亡する事件が発生しました。加害者は見つかっておらず、ひき逃げの容疑を駆けて現在捜索中です』
客用に設置されたテレビに映る、早朝のどうでもいいニュース番組の、どうでもいい情報をどうでもよさそうに事務的に語るキャスターの声に同じく、目の前にいる幼馴染の声も、今の俺にとっては雑音でしかない。
「よりを戻そうと言われても、俺はもう君とは関わりたくないんだ。ごめんな、蜜乃」
「ねぇキンジ君……もう一度チャンスを頂戴? また昔みたいに仲良くやろうよ!」
「その昔の思い出を汚したのは、君自身だろ」
『劇団の資金を横領した容疑で指名手配中だった元特撮俳優Tが、市内付近で目撃されたとの情報がありました』
ニュースにかぶさって、昔と全く変わらないあだ名で、俺のことを呼んで来る兎。
はたから見れば微笑ましい光景なのかもしれないが、その事実に俺は反吐が出ていた。
『先日お伝えした病院から脱走し、車を盗難したとされる男女二人組ですが、うち一人の遺体が発見されたという情報が入りました』
確かに施設にいた頃の俺たちは、実の兄と妹のように仲が良かった。
中学に入って、異性として意識し合い始めた結果、付き合うことにもなった。
『県内の美術館に保管・展示されていた戦前の台湾人画家・劉澄波の名画が盗難被害に合った事件ですが、無事発見された模様です。損傷の程度を確かめた後、美術館に返還される予定です』
だが、そんな関係も、あの日すべて打ち砕かれた。
バーで仕事をしていた夏の日の夜、向かいのラブホテルからバーの先輩と出て来る彼女を見た、その日に。
そう、あの日俺は彼女を寝取られ、彼女は俺を裏切ったのだ。
『風俗店経営者の三盃直氏(30)が、市内の道路で死体となって倒れているのが発見されました。死体には銃撃を受けた後があり、県警では殺人事件の疑いがあるとして捜査しています』
「大体君には、俺と同じバーで働いてたあの先輩がいるじゃないか。あの人と一緒になればいい」
「マー君も知ってるでしょ……あの人は最低のクズだったのよ! だから詐欺に加担して捕まっちゃったのよ!!」
「三年付き合っておいて、彼を庇う気もないのか。俺のこともそんな風に裏切ったわけだな」
「そ、それは……」
『海運会社シャーウッド・オーソンの専属弁護士・緒方丈二氏を殺害した容疑で指名手配中だった小原海氏の死体が、神戸港沖合で発見されました。死体には銃創があり……』
蜜乃の言葉は、全てが白々しかった。
なびいた先輩のことを今になってクズ呼ばわりしてはいるが、誠意が一つも感じられない。
本当によりを戻す気があるなら、明らかに彼に買ってもらったであろう高級バッグやネックレスなどをつけてここにはこないはずだ。
『若くして亡くなった贋作家・相守真也氏の展覧会が、市内で開催されました。生前彼は優れた贋作家と知られ、鑑定士でも本物と見分けのつかない贋作を百点以上創作し……』
「
ある種の牽制のつもりで、俺はそう言った。
これ以上何か言ってきたら、すぐに追い払うつもりだった。
そもそも俺がこの場にいるのは、こいつに会うためではなく、今の恋人―――黒髪が麗しい今の職場の先輩と一緒に、話したいことがあったからだ。
こいつなんかには何の用事もない。今この瞬間も、これからも。
「ねぇ……今の君と、どう、とかじゃないの」
「何が?」
「ケジメとして、キミと最後の仕事をしたい、っていうか……」
「ハッ、いい加減幼馴染面なんかやめろよ。大方彼氏の背負った莫大な借金を返さないといけなくなって俺にすり寄ってきたってとこだろ、あ?」
「ごっ、ごめん……でも…………」
「いいよ」
「……え?」
呆気にとられたような顔で、俺を見つめてくる蜜乃。
「丁度人手が一人欲しいところだったんだ。君、前々から腕は確かだったもんな」
嬉しさよりも、戸惑いが先に来ているようだ。
まあ、それはそうだろう。
本当は別の女―――今カノから依頼されて、この仕事を控えているので、こいつなど本来は眼中に入れたくもないし。
「実は俺、今からここで仕事するんだ。一緒にやろう」
「え……ここで?」
「前にもよくやってただろー? あんな感じでやろうぜ、って言ってんだよ」
困惑の表情を浮かべる蜜乃。
わかりやすく二つの感情で板挟みになった表情をしたが、何かを決意したような表情で俺のテーブル席の向かいに座った。
「でも、こんなところでどうやるの……?」
「おいおい、俺の相棒だった頃はもっとおかしなところでやっただろ? ガソリンスタンドに和菓子屋にコンカフェに……」
「ご注文、お決まりですか?」
「い、いえ、まだです……」
「お決まりでしたらお呼びください」
「あ、ありがとうございます……。確かに私達、最初はそういうお店でお仕事してたけど、少ししたら銀行とか宝石店でお仕事するようになったじゃない」
「アレはもっと仲間を連れてやってたからな。必然、一人分の取り分は減っちまう」
話している途中、勝気そうなツインテールの女と、両手で抱える大きさ程もある黄袋を担いでいる気弱そうな
異様ではあったが、そいつらは無視。
「で、でも、こんなところでお仕事やっても、ろくにお金にならないような……」
「銀行とか宝石店で働くようになった時も、こういう50席くらいのチェーン店でよく仕事してたろーが。それにここはチェーンみたいに防犯カメラもねーぞ?」
「そりゃ、したけど……あれは客の集まりも多いチェーン店だからやったってだけで……」
「まあ最後まで聞けよ。確かにここで仕事してもロクな金にはならねーように見えるよな? でも実はここにな、宝が出回ってるって話なんだ」
そこから俺は、今カノから一時間前にスマホで聞いた話を蜜乃に説明した。
「ほッ、ほんと……!?!?」
「嘘だったらキミと組んだりしねーよ」
「裏切る可能性とか、考えないの……? 報酬を猫ババする可能性、とか」
「ま、仮に裏切って損をこうむるのはキミの方だしな。だからこそこうやって二度と会いたくないキミの頼みに応じてるんじゃないか」
「で、でも、私たちの仕事って場所が必要だよね。こう、仕事をした後、戻る場所、というか」
「おいおい、神戸が国際都市ってこと知らないのかー? 都合してくれる外国人はいくらでもいるさ」
蜜乃と視線を合わせて話をしてはいたが、この時俺はこの女のことなど道具としてしか考えていなかった。
「道具は持ってきてるの?」
「常備してる。税関も騙せるようなのをな」
早く、あの女に会いたい。
仕事をした後、
いや、抱きたいどころじゃない。
ぶち犯したい。
「移動手段はどうするの?」
「その人……まあ今カノなんだけど、彼女が十分後に車で来てくれるそうだ。そのままそれに乗ってここを去る」
「えっ今、今カノって……」
「その人との関係をウダウダ言うなら一緒に仕事しねーぞ」
……こいつを寝取られたときに比べて、俺も本能に忠実になったもんだ。
ま、それだけあの女が上物だから仕方ないか。
「仕事の後、そのソレはどこへ置いておくの?」
「その人が超金持ちでさ。別荘の一つに、うってつけの場所があるんだとさ」
「そ、そうなんだ……」
内心俺が何を想像しているかもわからずに、納得したような表情を見せてくる蜜乃。
そういうチョロさで、かつて俺を裏切ったわけだな、こいつは。
いっそ〇してやろうか、仕事が終わった後。
「ありがとうキンジ君、裏切った私に、こんなチャンスをくれて……」
「礼なんかいらねー、利用してるだけだよ。言っておくけど、仕事が終わったら二度と俺の前に顔出すなよな」
「………………………………わ、わかった」
「じゃ、指で合図するぞ」
「うん……」
俺は蜜乃だけに見えるように、指で合図した。
最初に、人差し指。1。
次に。中指。2。
最後に薬指。3―――俺たちは、動き出した。
「強盗だァ!! 金を出せェ!!!」
「テメェら一歩でも動いてみろ、
先ほどのか弱い少女のような声とはまるで違う、ドスの利いた蜜乃の声。
腕だけは錆びついてはいないようで、俺は安心した。
【長編】14回の「幼馴染なのに違う男にNTRれてごめん。よりを戻そう」と、14回の「断る。もうお前とは関わりたくない」 八木耳木兎(やぎ みみずく) @soshina2012
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