相対性理論

「神様、相対性理論って、結局なんなんですか?」


「特殊、一般、どっちのことを言ってるわけ?」


「……」


「はあ、そもそもそこすらわかってねえようだな。まあ、いい。どっちもに共通して言えることを説明すっか」


「お、お願いします……」


「相対性理論ってえのはあれだ。要するに、アルバート・アインシュタインが、座標系の相対性を仮定して、それを定量的に一般化したわけだよ」


「あ、あわわ……」


「落ち着け、泡吹いてるぜ。順番に説明すっから、よーく聞いてな」


「は、はい……」


「まずな、物理学の最終目的ってーのは、あらゆる自然現象をたったひとつの数式で表せるようにするってーことなんだ。これが『定量的に一般化する』の意味な。山のようにたくさんあるものを、ひとつの言葉で表現したいってことね。ここまではいいか?」


「な、なんとか……」


「で、たとえばだが、現実世界で成り立つ物理法則を、異世界でも成り立つように書き換えたいとしよう。変換式ってーのを使って書き換えるんだが、もしそのとき、物理法則を記述するための方程式の形が、明後日の方向に変わっちまったらヤバい事態なわけだ。なぜなら方程式ってーのはそもそも、物理法則を一般化するためにあるのに、形が変わっちまったってことは、もしかしたらその方程式自体が間違ってたんじゃねってことになっちまうからなんだ」


「か、神様、もうちょっと、わかりやすく……」


「ちっ、しゃあねえな」


「お願いします……」


「下世話なたとえだが、現実世界で1ミリも狂わず体重を測れる体重計が、異世界に持ってったら、まるでズレてましたとかになったらパニックになるだろ? 俺らの技術が間違ってたのかって感じでさ」


「それは、なんとなくわかります」


「その事態が科学史上起っちまったのさ。19世紀末から20世紀初頭にかけて、それまで近代物理学の二本柱だった力学のニュートン方程式と、電磁気学のマックスウェル方程式が、ある座標系についてどっちかの形を変えないように書き換えると、もういっぽうの形が変わっちまうってことがな。世界中の物理学者がパニックになった。おれらがいままでやってきたことは、全部間違ってたんじゃねーかってな」


「難しいですが、それが相対性理論とどうつながるんですか?」


「そこがアインシュタインの発想力のすごさよ。彼はこう考えた。間違っているのは方程式のほうじゃない、変換式のほうなのではないか・・・・・・・・・・・・・ってな」


「……」


「当時使われてた変換式は、『ガリレイ変換』っていうやつだったんだが、アインシュタインはその仮定のもとに、彼の時代には最新の数学テクニックだった『ローレンツ変換』ってーのを使って方程式を書き換えてみた。ローレンツ変換はガリレイ変換をアップグレード、つまり上方修正したものだと思えばいい。するとだな、ローレンツ変換のもとに、ニュートン方程式とマックスウェル方程式は見事、形を変えなかったってーわけよ」


「はあ……」


「これが座標の相対性。ガリレイ変換はあらゆる座標の中で、必ず基準になる座標があるってえニュートンの考え方を採用してたのよ。だがローレンツ変換はな、あらゆる座標の中から『基準』を取っ払って変換できるって寸法なのさ。座標系に基準なんてない、つまり相対的だって発想がなけりゃあ、こんな芸当はできなかったわな」


「相対性ですか、まだ難しいですね」


「人間は基準を作るのが好きだからな。そんなもの存在しねえのによ。基準を取っ払うって発想は、アインシュタイン以降の物理学では特に重要になってきてるな」


「現実世界でも基準がなくなるといいんですけど……自分は普通とか当たり前とかの基準が苦手で……」


「物理の勉強よりも、おめえはまずそっちの勉強が大事だな」


「たはは……」


「まったく、いい年こいてさ」


「……」


 こうして神様による中年男へのありがたい説教は続いたのである。

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