第十二話 思ったよりも

街の有力者と言っても金や権力があると言うよりも付近の世帯に顔の利く人物たちだ。前世でいうところの町内会長的な人だろう


「皆様、集会の告知からすぐによく集まってくださいました。私はこれよりこの地を治めることになったイヴァン・キャラハンの長子、ルイと申します。本日お集まり頂いたのは皆様の今後の生活についてお話しするためです」

俺の言葉を聞くと年配者中心の参加者達はお互いに顔を見合わせた

その中から恐る恐る手を挙げる者がいたので指し示すと強張った表情の若者が立ち上がった


「あ、あの。税はどうなるのでしょうか?先の城主様にほとんどの貯蓄の大半を持っていかれてしまって……。後は生活をけずらなければ差し出せるものもなく……。」

彼は発言しながら段々と声を落としていき、周囲の者達も苦い顔をしている

俺はそうして落ち込む彼らに一際大きな声で彼らを鼓舞した

「そこは心配するな!私から父に頼んで1年は物品による徴税を免除する!ただし、この地を先の暴君から守るために兵役を課すことはあると思う。そこは理解してほしい」


俺の言葉に代表者らは驚愕の表情で顔を見合わせて一斉に俺の方に向き直った

そこで先ほどの若者が再び声を上げた

「ほ、本当でございますか!?1年の税免除があれば傾いた産業を立て直せます!兵役も自分達の生活を守るためなら皆喜んで参陣しましょう!」

彼の威勢のいい言葉に他の代表達も深く何度も頷き、涙を流す者までいた


これは前城主のキースは随分と絞りとっていたらしい。まだ城館に庶民から奪った物品が残っていれば良いが…。まぁ、もし残っていたら彼らには物品はキースが持ち逃げしたとして説明しておこう。


父も今回参加した兵士に褒賞を与えねばならない

勘違いしてはいけない部分として、俺たちは決して悪政の解放を目指した十字軍ではなく勢力の拡大を目的とした私欲の軍隊なのだからな


だが、領民に小難しい事を説明するのも億劫だし世の中知らない方が幸せであることもある。ここは黙って笑顔で彼らの感謝を受け取っておこう

「それと、町民の代表者の中でも特に取次役を決めて意見の取りまとめなどをお願いしたいんだが誰ぞ適任はいるか?」

俺の問いに代表者達は少しの話し合いの末先ほど声を上げた若者を皆が手で指し示した。若者はまさか自分が選ばれるとは思っていなかったらしく驚き慌てた様な表情で周囲の者達を見回した


「え、えっと。自分なんかでいいんですか……?」

確かに彼くらい物怖じせず意見を言ってくれたり声を大にして主張をしてくれる若者は貴重だ。是非とも使いたい


「他の者達が彼でいいというならそうしよう。さて、君の名前は何かな?」

「は、はい!僕ははヘンリー。ヘンリー・クロードです」

俺が言葉をかけると若者はピシッと固まってうわずった声で答えた


「そうか、ヘンリー。ではこれからはこの街の決め事はお前を介して行う。特別の給料も出すから職務に邁進してくれたまえ」

「は、はい!」


俺が給料も出すと言った途端に数人の代表者の顔が面倒ごとを押し付けた奴の顔から羨望の眼差しに変わるのを俺は見逃さなかった。奴らとしては若者に面倒は押し付けてしまえという発想だったんだろうがそうは問屋が卸さない。

それにこうして分断を煽っておけば多少の無理な徴兵でもこぞって反発してくるものは減るだろう。一部はこちらに擦り寄ってくるもの達もいるだろうしソイツらを上手く使えば統治は非常に楽になるはずだ


俺が悪代官の様な事を考えていると父の部下が至急城館に集まる様にと伝達を持ってきた。俺は代表者達に解散の下知を飛ばして、城館へと急いだ




俺たちが城館に着くと応接間には所狭しと金品や物品が運び込まれ、父と文官のカリンは目録に目を通していた。父の目の前の椅子には留守番でフルデリ城に残っている武官一名を除いた四名の武官が世間話をしていた


「父上!お呼びでしょうか?」

俺が部屋に入ると父は目録から目を上げていつに無く神妙な顔で目の前の空いた椅子を顎で示した。座れということなのだろう

俺がそっと席に座ると父は目録を置いて俺たちの方へ向き直った

「それでは、論功行賞を執り行う!」

そして四名の武官へ収奪品の金、武具、布、調度品の分配が行われた。

その後、父は俺の正面まで歩いてきた


「そして文句なしの勲一等、ルイ・キャラハン!お前には収奪品の中から金貨500枚、鎧武具一式を50名分与える。加えて!此度の援軍の交渉、並びに敵を城から誘き出す計略の成功を持ってこのルカント城の城主を任せる!」

その言葉に武官達のざわめきに加えて、ハンターとセシルも後ろで小さく声を漏らす

まぁ、然もありなんという感じだ。軍功を理由にしているが親族以外にやっと手に入れた二つ目の城は任せられないだろう。他の武官達は父と同じく下級役人の出身だ。そこに加えて父と博打を打つほど野心に溢れている。そんな者たちに城を与えれば野心が爆発して父から独立なんて事にもなりかねない


「ハハッ!ありがたくこの城をお預かりいたします!」

俺が椅子から立ち上って腰を落とし、俺に続いてセシルとハンターも腰を落とした

横に並ぶ武官達は俺への目線を感じる。羨望7嫉妬3といった具合だろうか

彼らから見れば父の身内贔屓に見えただろう。彼らをまとめ上げる父も大変だな


そんな風に他人事に考えながら、その他の兵士たちへの特別褒賞の算段をつける父とカリンを見つめていた


それにしても、俺が一城の主人か父の思惑ありきとはいえ嬉しいものだ。これで自信を持ってエリーを迎えることもできるし自身の兵を使って義父になるノーブル殿も助けに行くことができる。まずはキースが搾り尽くしたこの土地に活力を取り戻さなければならない。

やることは山積しているが自分の好きな様にできる場を手に入れたと言うのは楽しみな事だ

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