第九話 潜入

俺たち3人はルカント城の支配域まで来ると馬を降りて道中の村で調達した干し草の俵を馬に結びつけ、衣装も村に滞在していた商人の服を買い取ったものに着替えた


行商人の様に馬の手綱を引き城下の街へゆっくりと向かっていった

城下の門は検閲が厳しく行われており、キースとやらがかなり用心深い性格だということがわかる。まぁ、簒奪者なので同様の裏切りを警戒している可能性は非常に高い


「向こうが何をして来ても武器は抜くな。多少の暴力位は見過ごせ」

俺が二人に耳打ちすると二人は神妙に頷いた


そして俺たちの検閲の順番が回ってきた

「貴様らは何の目的でここへ来たのだ?」

門番が厳しい目つきで俺たちと荷物をジロジロと見る

「へぇ、道中の村で買い付けた干し草をお城の方に買ってもらおうと思いやして」

俺はいかにもお上りさんという風を出しながら腰を低くして揉み手で彼らの質問に答える


「干し草だと?荷物を確認せよ!」

門番の隊長格らしき奴が部下に命じて馬へと向かう

次の瞬間、俵に剣を突き立てて中を漁り出した。干し草はボロボロとこぼれて足元に散らばる


商品に対して何という扱いかと抗議したくなるが静かに耐え忍ぶ

隊長は俺の顔を覗き込み、セシル、ハンターの順で顔を改めるとつまらなさそうにフンと息を吐くと俺の背中を蹴って「行ってよし!」と叫んだ

俺は数歩よろめいたあと体勢をゆっくり立て直してペコペコと頭を下げて門をくぐった


門の中は殺風景だった。城下だというのに活気はなく人々は足元を見ながら足早に道を行き来している

「こりゃ、相当な悪政らしいぞ?キースって奴は」

ハンターが俺に耳打ちするのに肩をすくめて応じ、城へ向かって馬を引いて歩き出した

城の前に辿り着き横の詰め所にいた兵士に話しかけた

「あのぉ、干し草は入り用でねぇですか?」

兵士は面倒くさそうに奥の椅子から立ち上がると俺たちのところまで来た


「干し草ぁ?確か、先週の大きな風で幾らか飛んで行ったんだったな。庭番の爺さん呼んでくるから待ってろ」

そう言って兵士が去ってしばらくすると門が開いた。中からは小柄な爺さんがヒョコヒョコと出て来て俺たちを手招きして門の中へ迎え入れた


「いやぁ、丁度干し草が欲しかった所なんだよ。ありがとうなぁ」

彼に案内された先には3人の兵士がおり、俺たちは干し草を下ろすのを見張っていた


俺はここだと思い、セシルに目配せした

セシルは頷き、周囲に聞こえる様な声で俺に話しかけた

「やっぱり干し草は何処でも入り用ですねぇ?これなら北のシーバル城の時みたいに飼葉もたんまり持ってくれば良かったですねぇ」

その声に俺も応じる様に大きな声で返答する

「あぁ、そうだなぁ。あそこは近々、もっと北のバーダン城と村の利権争いで戦争が起こるからなぁ。飼葉もよく売れたなぁ」

そこにハンターが割って入って来る


「それも1ヶ月も前の話だ。もう間も無く3日以内に戦いが始まるだろうな」

ハンターの言葉に兵士の顔がぴくりと動き、一人の兵士が駆け出していった


その後俺たちは付近の村の話や俺たちの来たフルデリ城の城主は守りばかり固めて野心のない臆病者だとかそういう話をして干し草の代金をもらって帰った

城門を出てすぐにフルデリ城へ帰ると訝しがられると思ったのであえて北の門をくぐり反対側へと進んで近くの村に滞在して彼らの動向を見守っていた


2日後、速度重視の騎兵主体の軍が顔に切り傷の目立つ鎧姿の男に率いられて村の前を北に向かって駆け去っていった


その瞬間俺たちはこの計略の成功を確信した

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