第46話 それは偶然

「姉さんが悪いのよ。いつも姉さんは私の理想を持っている。だから私は奪うしかない。私だってこんなことはしたくなかったわ。でもしょうがないの。殿下は私のものなんだから……」


 ふらふらと後退したアデライアは、ガチャン、と何かにぶつかった。


 テーブルに置かれていたランプが床に落ちて、火が床に燃え移る。


「嘘!?」


 アデライアは慌てて火を消そうとしたけれど、火は衰えることなくむしろ勢いを増して広がっていった。


「ごほっごほっ」


 煙が充満してきたので窓を開けた。すると空気を吸い込んだ火はさらに大きく燃え上がった。


「きゃあっ」


 火に驚いて後退ると、足元を何かに取られて倒れてしまった。


 床に倒れ込んだルイシーナだった。ルイシーナは炎が部屋を舐めていることも知らず、気を失っている。


 アデライアは揺すってルイシーナを起こそうとしたけれど、ルイシーナは微動だにしなかった。仕方なく引きずって助け出そうとした。でも廊下に出たところで腕に力が入らなくなって、それも適わなくなった。


「こんな……つもりじゃ……」


 みるみるうちに大きくなっていく炎。目を覚まさない姉。


 アデライアは怖ろしくなって、その場を逃げ出したのだった。

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