第1話

「端戸さん、最近目の色が変わりましたね」と、よくいわれる。そりゃそうさ、新しいこと始めないと、目の色なんぞ変わらないさ――。


 その発端は親友からの連絡だった。「おい……ハタド」聞きなれたはずのその深い声をスマホを通して聞いたとき、思わず涙が出た。

樋上ひがみ――」

 樋上信也。

「俺のことは、おぼえてるか」

 別の声が聞いた。壮也……であっていたかな。

「そうそう、そうです~」

「その声からすると今二人は同じところに……?」

「ああ」と信也がこたえた。「どこにいるの? って聞くんだろ、どうせ」

「ご名答」エスパーでもあるのかと、あきれてしまう。

「多分8年来付き合ってたから、わかるんだろうな」

「そっかそっか。もう8年か……」

 不意に寒くなった。日本は冬だ。ずいぶん雑音がする。外国かどこかでないだろうか。

「そっちは外国なんでしょ」

「ご明察、そうだ。鋭いな」

「このくらいはね」

 成長とは、寂しいものだと子供の時はずいぶん思ったが、少し余裕を持てるようになった今では、あまりそういうことは思わないようになってきていた。

「ちょっと……寂しいよな」

 屋根の上から夕陽を眺めているような気持になった。怖いはずなのになぜかほっこりとしている。――そうだ、ちょうどあれは少年時代 俺たちがよくした遊びだ。

 はっとした。俺は、ふいにスマホを耳から遠ざけた。――あいつのほうが進化していた。


           *


 作家同盟の会の本題に入ったのは、懐かしい相手との長電話が5分を超えたころあたりからだった。「さて、ここもアジアだし、ちゃっぷいことは寒い。ああ、どんとぽっちぃ……」

 爆笑から始まった話題だった。とはいっても十年後にそんな対応を返したら呆れられるだろうが。

「瀬戸と有賀、おぼえてるか」

 瀬戸は、大作家だ。有賀がその孫の弟でないかという噂が立っている。もっとも、「じゃあなんであんなに文才がないのか」と聞かれては、二人も首をかしげるばかりだが――。

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