髪の獣

白鷺(楓賢)

プロローグ

その日、街に異変が起こった。最初は小さな噂に過ぎなかった。行方不明になった人々が、戻ってきたときには髪の毛が全て失われ、無残な白骨と化していたという。


誰も信じなかった。そんなバカげた話が本当に起こるはずがないと。だが、次第に噂は現実となり、人々の恐怖は形を伴い始める。街のあちこちで、突然髪の毛が根こそぎ抜け落ちたような人々が次々と発見され、彼らは例外なく、皮膚も筋肉も失い、乾いた骨だけを残して倒れていた。


「髪の毛の怪物が人を襲っている。」


その言葉が初めて囁かれたのは、古びた商店街の裏通りだった。夜道を歩いていた一人の若者が、突然、自分の髪が何かに引っ張られるのを感じた。振り返ると、そこには巨大な髪の毛の塊が揺らめきながら、闇の中でゆっくりと形を成していく姿があった。若者は叫び声を上げる間もなく、その黒々とした触手のような髪に絡め取られた。


彼の悲鳴が静まり、数分後、その場に残されたのは彼の白骨と一筋の黒い髪だけだった。


恐怖が街に広がる中、怪獣は次第にその力を増していく。人々が生き残るためには、怪獣の秘密とその唯一の弱点を突き止めるしかなかった。だが、髪でできたその体は、あらゆる攻撃をすり抜け、ただ人間の髪を求めて街を徘徊し続ける。


そして、夜が来るたびに、新たな犠牲者が生まれ、無数の髪の毛が怪物の体に吸い寄せられていく。果たして、この街に平穏が訪れる日は来るのだろうか――。物語は今、始まろうとしている。

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