第13話
「葬儀もすぐにできないなんて」
「第五撮影所で亡くなってたなんて……嘘だろ?」
葛原二式と、
「葛原二式」
「何や、
「おまえのマネージャーに、確認したいことがある」
「奇遇やな、僕もや」
二式が撮影をしているあいだに、逢坂はまたしても姿を消していた。だが今回は、彼がどこにいるのかの予想ができていた。二式と
「逢坂さん、おるか」
「我入去(入るぞ)」
ノックもせずにドアノブを捻った。鍵は掛かっていなかった。
果たして、逢坂一威は客室にいた。シャワーを浴びた直後なのだろう。上半身は裸で、その肌に極彩色の刺青が入っているのを──二式と
「係黑幫嗎?(ヤクザなのか?)」
「我有冇提到我唔係黑幫?(ヤクザではないと言いましたか?)」
逢坂の応えに鋭く舌打ちをした
「
「!?」
逢坂と
「ジョンさん……!?」
「どうも、
ひょろりと長身の
「放開你隻手!(手を離せ!)」
「如果你應承唔打佢,我即刻放你走(あなたが彼を殴らないと約束するなら、すぐに離しますよ)」
傍から見ている分には
「
「我知!(分かってる!)」
「ジョンさん、
「Ah……噂通り、二式さんはずいぶん優しい人。でも、優しい人が来る場所じゃあないですよ、ここは。そうだろう、逢坂」
お道化た様子のジョンの台詞に、逢坂は黙って肩を竦める。肯定も否定も、しなかった。
「逢坂、あんた」
ようやく手首を解放された
「どういうつもりだ、
驚きはなかった。
白いワイシャツの袖を肘まで捲ったジョンの腕には、逢坂の背中と同じように色とりどりの刺青が刻まれていた。そして、右手の手首の裏側には、
「目立ちたがり屋が!」
「三角形に、洪」
呆気に取られて、二式は呟いた。周・ジョンはへらへらと笑い、「良いでしょう」と自慢げに両方の手首を見せ付けてくる。悪趣味にもほどがある。
「私は、
「ああ、聞いた。たしかに聞いたわ。せやけど後出しで三会會の関係者やった〜っていうんは、ちょっと卑怯やないか?」
「郭封鈴を殺したのはおまえたちか? 三会會が関わってるのか?」
牙を剥く
「逢坂、どうする──」
部屋に入ってすぐの場所にあるソファ。その側に置かれたローテーブルに乗っていた硝子の灰皿を鷲掴みにして、周・ジョンに向かって力任せに投げる。
投げたのは、葛原二式だ。
「がっ……!」
「おもんないんじゃ、クソボケが!」
顔面に灰皿をモロに受けた周・ジョンがその場に昏倒する。
「春天」
「……なんだ、誰から聞いた? その名前は、軽々しく口にして良いものじゃないぞ」
「その部下がこんな……どうしょうもない男やなんて、春天自体も別に大した人間やないんかもしれんな」
ソファの端に足を広げて腰を下ろし、煙草を咥えた逢坂がじっとりと二式を睨み上げる。
知らない人間の顔をしていた。
けものだ。
けだものだ。
──化け物だ。
鬼だ。
こんな人間を、なぜ、一度でも信用した。
愚か者め。
「二式」
「じゃかあしい」
「俺もずっと気になってた。おまえって、何者なんだ?」
「俳優や」
「それだけじゃないよな。ジョンはまあ、ふざけた野郎だが──たかが俳優の一撃で昏倒するほど弱くはない。おまえはさ、二式、動きが堅気じゃないんだよ」
二式と逢坂のやり取りを、周・ジョンを制圧した
「郭さんには世話んなった。死んでええ人やなかった」
「そうだな。ちょっとばかりやりすぎだと、俺も思うよ」
「俺も思う?」
「點樣回事,阿二(どうなってる、阿二)」
焦れたように
「あんたが紹介してくれんのなら、自分で勝手に会いに行くだけやけど……ええよな? 逢坂さん?」
「好きにしなよ」
逢坂は小首を傾げて鬱蒼と笑い、煙草を取り出して火を点ける。
第三撮影所での撮影が再開する朝までは、まだ時間がある。
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