転生少女は優等生です。

runa

season1 転生したら少女でした。

新しい出会いを

プロローグ

――気づいたときには、すべてが変わっていた。


僕はその瞬間、何もかもを失った。慣れきった満員電車、うんざりする会議、帰り道に寄る馴染みのコンビニ――そんな日常が突然遠いものになっていた。仕事に疲れ、ただ日々の流れに流されるだけのサラリーマンだった俺が、いまこうして見知らぬ広大な大地の上に立っている。


「ここは……どこだ?」


風が冷たく頰を撫でる。湿った空気が肌にまとわりつき、周囲には薄暗い森が広がっていた。高くそびえる木々が天空を覆い尽くし、足元には苔むした地面が広がっている。東京の喧騒など突然考えられない静けさが耳を支配していた。


なによりも、目の前に広がる違和感が俺を困惑させる。視線を落とすと、そこには見覚えのないスカートがひらひらと揺れていた。そして、その先には、驚くほど細く白い足。


「なんだ、これ……?」


自分の声に驚き、胸元に手を当ててみると、やけに柔らかい感触が指先に伝わる。その瞬間、頭の中が真っ白になり、心臓が早鐘のように鳴り始めた。息を整えようとするも、動揺で呼吸が浅くなる。ゆっくりと髪をかき上げると、背中にさらりとかかる長い髪が揺れる。その触感の異質さが、現実感をさらに薄れさせる。


「嘘だろ……俺、女の子になってる?」


言葉にしても信じられない。胸の中で渦巻く不安、そしてわずかな好奇心が入り交じる――これが現実なら、一体何が起きているんだ?


混乱する気持ち。だが、それ以上に、思考の奥に流れる不思議な違和感。まるで前世の記憶が薄れていくような感覚――それでも、確かな記憶があった。自分は「男」だった。少し疲れていたけれど、確かに普通のサラリーマンとして生きていた。それが今、どうしてこんな美少女になってしまっているのか?


「異世界転生……か?」


頭の中でその言葉がよぎる。驚きと困惑が交錯する中で、ほんの一瞬、心の奥に期待感が芽生えた。まさか――これは、よくあるあの展開なのか? 異世界ものの小説やアニメ、ゲームが好きだった自分が、こんな形でその世界に足を踏み入れるなんて。現実ではあり得ない、けれど今、自分が置かれている状況がまさにそれだ。


ただ、普通の異世界転生とは決定的に違うことが一つある。


「俺、女の子になっちゃってる……」


――もしかして、ハーレムなんて夢のまた夢?


そんなことを考えながらも、冷静になろうと深呼吸をした。まずは、この状況を受け入れなくては。前世で読んでいた異世界ものの知識が役に立つかもしれない。だが、その知識を引き出そうとするほど、現実の感覚が自分を圧倒していく。異世界で美少女として生きることが、これからの新しい日常になるのだろうか?


「ま、いいか……」


現実を受け入れるには時間がかかりそうだが、まずは何とかこの世界で生き伸びなければならない。立ち止まって悩んでいても、前に進むことはできない。俺は新しい人生、いや、新しい自分として一歩を踏み出す決意を固めた。


そして、その瞬間、頭の中に異世界の知識が流れ込んでくるような感覚があった。魔法――この世界には魔法が存在している。何かが体の奥から漚き上がる。力が溢ぎるような、今まで感じたことのない感覚。それはまるで、僕がこの世界で新たな何かを成し適げることを期待されているかのような――


「やれるさ、きっと……」


胸の奥に溢き上がるのは、かつての退屈な人生で味わうことのなかった期待感。この異世界でなら、何でもできるかもしれない。そう思うと、胸の高鳴りが止まらなくなった。


そして、この旅の終わりには――そう、ハーレムだって夢じゃないかもしれない。


これから始まる異世界での冒険に向けて、俺はゆっくりと歩き出した。




第1回修正 R6 12/27

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