第8話 見えざる敵の影
麗華(れいか)の陰謀が暴かれたにもかかわらず、後宮の平静は表面的なものでしかなかった。霜花(そうか)は表向きには通常の任務に戻っていたが、心の中では不安が広がっていた。麗華が残した最後の言葉、「私の役割は終わった」とは何を意味するのか――霜花の胸にはその問いがずっと残っていた。
新たな調査
数日が過ぎ、霜花は皇帝・廉明(れんめい)から再び謁見を命じられた。彼女が玉座の間に入ると、廉明は彼女に穏やかに頷いた。
「霜花、麗華の陰謀は防げたが、あの反乱の背後にはもっと大きな力が存在している可能性が高い。私はその動きを掴みたい。」
廉明の声には重さがあり、彼の目にはかすかな疲労が滲んでいた。
「陛下、私も同じく感じております。麗華様があのように言い残したのは、まだ何かが動いている証拠かと……」
霜花は慎重に答えた。
「そうだ、だからこそ、もう一度お前に後宮内を調査してもらいたい。麗華の背後にいる者たちが誰なのか、そして何を計画しているのかを突き止めてほしい。」
廉明の言葉は決意に満ちていた。霜花は深く頭を下げ、任務を受け入れる決意を新たにした。
「お任せください、陛下。必ず真実を掴んでみせます。」
彼女の声には強い覚悟が込められていた。
疑惑の侍女たち
霜花は麗華の元侍女たちの動向を探り始めた。表向きには、彼女たちは麗華の捕縛後も普通に任務を続けているように見えたが、霜花の目にはその裏で何かが進行しているように感じられた。特に、琥珀(こはく)という侍女が怪しかった。彼女は麗華の最も信頼された侍女であり、霜花に対して常に冷たい態度を取っていた。
「琥珀……何か隠しているに違いない。」
霜花は心の中で決意し、彼女の動きを監視することにした。
ある日、霜花は琥珀が後宮の奥まった使われていない離れに頻繁に足を運んでいることに気づいた。その場所は通常、人が立ち入ることはなく、後宮の他の侍女たちも滅多に近づかない場所だった。
「ここで何を……?」
霜花は琥珀の後を密かに追うことを決め、彼女が何をしているのかを探ろうとした。
秘密の会話
夜が更け、後宮が静まり返った頃、霜花は影のように琥珀の後を追い始めた。彼女が目指していたのは、後宮の奥深くにある忘れられたような離れだった。薄暗い廊下を静かに歩きながら、霜花は琥珀が部屋に入るのを確認した。
霜花はその部屋に近づき、耳を澄ますと中から低い声が聞こえてきた。慎重に声に集中し、隙間から中を覗き込んだ。そこには琥珀と数人の男たちが立っており、何やら密かに話し合っていた。
「……麗華様の計画は、成功しなかったが、次の段階に進む準備は整っている。」
男の一人が静かに話した。
「反乱の準備は完了している。陛下が気づく前に、全てを終わらせる。」
別の男が答えた。その声は冷徹で、霜花の背筋が凍りつくような響きだった。
「反乱……!」
霜花は驚愕し、その言葉に凍りついた。この陰謀は麗華が捕まった後もなお続いており、後宮の中で何者かが新たな反逆を計画しているのだ。
「これは……陛下に伝えなければ……!」
霜花は急いでその場を離れようとしたが、その瞬間、背後から突然誰かに手を掴まれた。
捕らわれの身
霜花は振り向く暇もなく、強い力で腕を引かれ、首に鋭い痛みが走った。視界がぐるりと回り、彼女はそのまま意識を失った。
目を覚ました時、霜花は暗い部屋の中に縛られていた。冷たい床に倒れ込み、手足は縄で固く縛られていた。頭が重く、痛みが全身に広がっていたが、何とか体を起こして周囲を見回した。
「ここは……」
彼女は暗闇の中で、自分がどこにいるのかを確認しようとした。だが、目の前に琥珀が現れ、その冷たい表情が霜花を睨みつけた。
「霜花、あなたも余計なことをしたわね。麗華様がいなくなっても、この計画は続くのよ。むしろ、ここからが本当の始まりだわ。」
琥珀の言葉は冷酷で、彼女の目には狂気じみた輝きが見えた。
「反逆者がここまで大胆に……なぜ……?」
霜花は震える声で問いかけたが、琥珀は笑みを浮かべた。
「あなたには知る必要がないわ。もう二度と外には出られないのだから。」
琥珀はそう言い残し、霜花を放置して部屋を出て行った。
絶望の中で
霜花は必死に縄を解こうとしたが、固く縛られた手足は一向に動かない。彼女は冷静に状況を把握しようとしたが、暗闇の中で何をすべきかが見えなかった。もしこのままでは、彼女は反乱が起こる前にこの部屋で命を落としてしまうかもしれない。
「何とか……しなければ……」
彼女は心の中で強く自分に言い聞かせた。皇帝に忠誠を誓った自分が、このまま死んでしまうわけにはいかない。反乱を阻止し、陛下を守るためにここを脱出しなければならない。
しかし、どうやって――?
霜花は必死にもがきながら、心の中で何度も脱出の手段を模索した。だが、その時、彼女の耳に小さな音が聞こえた。
部屋の外から、足音が近づいてくる。霜花はその音に希望を抱き、目を凝らして扉の方を見つめた。
救いの手
扉が静かに開き、そこに現れたのは、皇帝の近衛兵の一人だった。彼は素早く霜花の元に駆け寄り、縛られた縄を解き始めた。
「陛下があなたを探しています。急いでここを出ましょう。」
近衛兵の言葉に、霜花は安堵の息をついた。彼女は急いで体を起こし、近衛兵と共にその暗い部屋から脱出した。
夜明け前
霜花は近衛兵に支えられながら、何とか後宮の安全な場所へと辿り着いた。夜明けが近づいていたが、彼女の心には依然として不安が残っていた。反乱の計画が進行していることを皇帝に伝えなければならない――その思いが、彼女を再び奮い立たせていた。
「まだ終わっていない……この反乱を止めなければ……」
霜花は心の中で強く誓い、次の行動を起こす決意を新たにした。
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