Spy(裏切り者)
「ないわね。」
私はコインランドリーの中に盗聴器や隠しカメラがないか一応調べてみたが、それらしいものもなかったし、盗聴電波も出ていなかった。それと自分でも存在を忘れていたのだが、パソコンに盗難や盗み見対策として、隠しカメラを取り付けてあることを忘れていた。
そのカメラを確認したが、私が寝落ちした間のパソコンのカメラには、誰も映っておらず、間抜けな私の寝顔しか映っていなかった。それと寝ている間に、一茶にあんなことをされていたとは思わなかった。
私はなんとなく髪の毛を指で触った。
私はクルクルと指で髪を触りながら、事件の分かることを頭で整理する。この監視カメラの映像から分かることは、C3の氷室もしくはその協力者は、私がタイムマシンの開発をしていることを直接聞いた、もしくは悟られた人物だ。そうなると、怪しい人物は絞られてくる。
自分以外を信じないのだとしたら、氷室関連の容疑者である可能性が高いのは、一茶、
次は、吋だが、こいつは総合的に見て1番怪しい。ちょうどこのワープ装置がこのコインランドリーに来た時に、家出とか言って、このコインランドリーに住みだしたのがおかしい。
そして、レコ爺、レコ爺はタイミングとしては一番怪しい。レコ爺は脅しのワープがあった朝、一茶からちょうどタイムマシンの存在を知ったのだから、タイミング的に一番怪しい。
と一応犯人の予想の整理をしておいたが、まあ、あの発言から犯人は十中八九決まっている。あの時のもう1つのワープ装置の存在を知っているようなあの発言はどこか引っ掛かるものがあった。
「なあ、お前天才なんだろう、この洗濯機ビリビリするんだけど、何とかしてくれねえか? 俺の服洗えないんだけど。」
「そんなのその洗濯機が漏電しているだけでしょ、こんなにたくさん洗濯機があるんだから、他の洗濯機使えばいいじゃない。それにそう言う機械ものは一茶の方が詳しいから私に聞くのは間違いよ。」
「確かにそうだ、他の洗濯機使えばいいのか!」
「紙くず入れてる洗濯機は一茶が部品取り過ぎて、回らないから別のやつ使ってね。」
吋は洗濯機から服を取り出して、他の洗濯機に移した。私はタイムマシンの設計図を書きながら、片手間で吋の質問に答えた。
「そう言えば、今日は一茶はいないのか? まだ文化祭の手伝いか?」
「……一茶は探し物をしているわ。」
「探し物って何?」
「ちょっと色々とね……。別にあんたに関係ないでしょ。」
「……まあそうだけど……。」
吋は口をとがらせながら、不満そうに口を閉じた。私はタイムマシンの設計に集中していたため、吋との会話を冷たくあしらった。
一茶は今もう1つのワープ装置を探している。なぜなら、ワープ装置を持っている氷室はこの町にいる可能性が高いからだ。私達を脅すということは、近くで監視して、いつでも殺せるようにしている可能性が高い。
そして、氷室がワープ装置を持っている可能性も高い。2回のワープともに、私たちの行動に合わせて行っているような偶然性があった。なら、私たちの行動を監視しながら、ワープ装置を操作していると考えられる。
なら、もう1つのワープ装置はこのコインランドリーを監視できる位置にある可能性が高い。それならば、しらみつぶしに探せば、もう1つのワープ装置が見つかるかもしれない。
まあ、相手のワープ装置が遠隔操作型だったり、形状が小さすぎる場合は見つけることが難しいかもしれないが、もう1つワープ装置があるなら、タイムマシン作りに役立つからぜひ欲しい。
まあ、どの道もうすぐ見つかるだろう……。
「あーあ、あんたのせいで集中が切れた……。気分転換がてら、私も一茶の探し物の手伝いをしてくる。」
私はそう言って、タイムマシンの設計図の紙をトントンと机に落として、端をそろえた後、机の上に置いた。そして、背伸びをしながら、ゆっくりと立ち上がり、コインランドリーを出た。
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私は氷室と思われる人間の跡を追っていた。
意外と簡単にあぶり出すことができた。まだ確信できないが、あいつがもう1つのワープ装置を持っている。
私は相手に気付かれないように、息を殺しながら、ゆっくりとそいつを追っていった。相手はまさか後ろを付けれているとは思っていないようで、すたすたとどこかに向かって、道のない山道を上がっていく。どんどんと人も獣も通らないような山道を入っていくと、ある所でそいつは止まった。
私はその様子をギリギリ目視できるような場所で、そいつの動向を見守って見ることにした。そいつが止まった所には何か不自然に盛り上がった大きなものがあった。そして、その何か大きなものに落ち葉が乗った古ぼけたボロ衣が掛けられていた。そいつはそのボロ衣の上を落ち葉を払い、ボロ衣を取った。
そのボロ衣によって隠されていたものは、洗濯機だった。
私はその洗濯機がワープ装置だと確信した。そのワープ装置と思われる洗濯機は、私達が持っているワープ装置より少し小さいが、同じ型のものだった。だが、私たちのワープ装置と大きく違うのは、冷蔵庫とブラウン管テレビがないことだ。
エキゾティック物質も、電磁力もない洗濯機に、ワープ機能があるのだろうか?
だが、あのワープ装置は私たちのワープ装置よりも高性能であることは間違いないので、冷蔵庫とブラウン管テレビの機能を1つにまとめることができたのかもしれない。それに、こんな山道に電気が通っているとは思えない。
ワープにはかなりの電力を必要とする。なので、ワープ装置が充電式であることは考えにくく、こんなところでワープ装置が起動するのか怪しいものである。
しかし、奴は洗濯機の蓋を開けて、中を確認すると、蓋を閉めて、ボタンを押して、設定をし始めた。洗濯機のボタンを押す機械音が静かな山の風に運ばれて、聞こえてくる。森の中で洗濯機をいじっている人間はなんだか異様だ。
私はワープをするのか気になってしまい、身を乗り出して、その様子を詳しく見ようとする。私は手を前に出した時、枝を踏んづけてしまった。枝が折れる音が静かな山の風に運ばれて、相手の耳に入った。私は漫画以外でこんなべたな展開になるとはと危機感が欠如した呑気なことを思いながら、相手の方を見てみた。
もちろん相手の顔はこちらの方に向いていて、ばっちりと目があった。私はしょうがないので、開き直って、こそこそせずに堂々と立って、喋りかけてみた。
「あっちでも洗濯、こっちでも洗濯。随分洗濯物が溜まっていたのね。吋いや、氷室っていうべき?」
洗濯機をいじっていたのは、吋だった。
「さて、なんのことやら?」
「ふーん、しらを切ってもいいけど、その洗濯機は渡してもらうわよ。私の研究に必要だから。」
吋は笑顔を崩さないで、声のトーンを低くして答えた。
「……渡すとでも。」
「やっぱりね。」
「やっぱり? 俺は俺の演技力には随分自信があったんだけどね。」
「演技力? まあ、そうかもね。間抜けな演技はとんだ千両役者だわ。
……でもね、いくら演技が上手くても、脚本家は別で雇った方がいいわよ。」
「?」
「おそらくあんたが起こした蛙と魚のバラバラ死体のワープの時、奥の部屋から出てきたあんたはいい演技をしていたわ。でもね、あの悲惨な光景を見ただけで、あんたはもう1つのワープ装置の存在とその脅しの意味までちゃんと読み取った。その発言が私には引っ掛かっていた。
あんたは奥の部屋でいて、私達の前に魚と蛙の死骸がワープしてきたことは知らなかった。なのに、あんたは何者かが脅しのためにワープをしたことを即座に理解していた。私達がその死骸を持ってきただけかもしれないし、ワープさせたかもしれない。
それなのに、もう1つのワープ装置を持つ何者かが魚と蛙の死骸をワープさせて、私達を脅しに来たという突飛な考えを一瞬で思いつき、それが真実だと信じて、話始めた。その時点で私は吋が黒幕だと勘繰っていたよ。」
「へえ、そうなんだ。確かに次からは脚本家を雇って、上手くやるよ。
……”次”からね。」
吋はそう言って、腰ポケットから折り畳みナイフを取り出し、きらりと輝く銀色の刃を出した。
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