Three Sacred Treasures(三種の神器)

「今日は文化祭の準備は良かったの?」


 私はエキゾティック物質を作っていると思われる冷蔵庫を見つけた後、1日中考えをまとめてから、今日に来た。


「別に文化祭まで時間はあるし、もうほとんど出来上がっているから、早めに帰らせてもらった。」

「ごめんね。」

「大丈夫。こっちは世紀の大発明になるかもしれないんだからね。何かあればすぐに集合するよ。」

「じゃあ、その言葉の通り、これからはこっちに集中してもらうからね。」

「OK。」

「じゃあ、改めてワープ装置の仕組みの概要について解説したいと思います。


 まず、昨日話したワームホールタイプのワープの問題点3つについて話していきたいと思います。吋、昨日から頭の容量は回復した?」

「まあ、大丈夫だと思う。」

「一応、昨日いなかった一茶のためにワームホールタイプのワープについて簡単に離しておくと、ワームホールはワープしたい地点に移動時間が0になるようになトンネルを作るって言うワープ方法で、どこでもドアみたいなものと考えればいいわ。」

「なるほど、どこでもドアと言われると分かりやすいな。」

「はーい、それと昨日、ばぶるさんは一茶さんがいないと考えがまとまらないって言って帰っていきました。」


 私はそれを聞いて即座にげんこつを吋の頭に振り下ろした。


「余計なこと言うな!……一茶、別に、こいつが勝手に言ってるだけだからね。」


 吋は頭を押さえながら、床に悶え苦しんでいた。一茶はその倒れた吋を見つめていた。


「おっ、おう。」

「こほん、気を取り直して、じゃあ、ワームホールについて話していくわね。


 では、まず、ワームホールを使ったワープの問題点は大きく分けてワームホールを作れないこと。作れたとしても、ワームホールを安定して維持することが難しいこと。ワープする物質はワームホールを通るとき、保護されなければならないことの3つがあるわ。


 じゃあ、最初にワームホールが作れないことについてだけど、前提として、ワームホールの存在はいまだ発見されていないの。だから、ワームホールは理論上のものであると言えるわね。


 でも、ワームホールを作る方法はいくつかあるわ。有名なもので言うと、電荷を持ったブラックホールに宇宙ひもを通す方法があるんだけど、今回はそっちじゃなくて、エキゾティック物質を使ったワームホールの作り方を解説していくわ。


 でも、解説は簡単で、エキゾティック物質の中には特定の電磁力を与えると、ワームホールを作ることができるものもありますってだけね。


 ちなみに、その適切な電磁力はこのワープ装置の場合、ブラウン管テレビが行っていると考えられるわね。ブラウン管テレビには「FIRABELFIA」の名前と同時に、「電磁力調整機」と印字されていた。そして、それが分かって、この洗濯機の洗濯槽を外してみると……。」


 私は一茶にお願いして外してもらった洗濯槽を持ち上げてみると、洗濯槽の外側には銅線のようなものが全体に巻き付いていた。


「ブラウン管テレビで調節した電磁力をこの洗濯槽に巻きつけたコイルに流し込むことで、洗濯槽全体はエキゾティック物質がワームホールを生成する条件が整うの。そしてこれで、ワープの後に洗濯槽が強い静電気が発生していて、発熱していた理由が説明できるわね。


 じゃあ、話をワームホールの問題点に話を移して、次に、ワームホールを安定して維持することが難しいって話だけど、ワームホールはもし作ることができたとしても、すぐに閉じようとする力が働くから、無くなってしまうの。


 この時ワームホールをすぐ閉じないようにするためにはどうしたらいいかと言うと、これまたエキゾティック物質をワームホールの中に流し込めればいいの。そうすれば、ワームホールは安定して無くならずに維持することができる。


 そして、最後にワームホールを使ってワープをする物質は、ワームホールに押し潰されないように保護されなければならないこと。


 さっき言った通り、ワームホールはすぐ閉じて無くなってしまおうという特徴があって、その閉じようとする力は物質を押しつぶすどころか、素粒子まで粉々にしてしまうの。


 そこで必要になってくるのが、もう分かっていると思うけど、エキゾティック物質。エキゾティック物質でワームホールを通るものの周りを保護すれば、ワームホールを無傷で通ることができるの。


 エキゾティック物質の負の質量がワームホールの中に働く押しつぶす力と釣り合いを取るイメージね。


 そして、こう考えれば、氷水がエントロピー増大の法則を無視していた理由も分かる。氷水がエキゾティック物質によって保護されていたことで、外部にエネルギーが逃げなかったのね。


 まあ、本当は3つの問題を解決するエキゾティック物質の種類は少し違うのだけれど、要約すれば、ワープをするにはエキゾティック物質が必要不可欠だってこと。しかし、エキゾティック物質はワームホールと同じく未だ発見されていない。


 ですが、昨日、私はこのワープ装置の裏の部屋で、冷蔵庫を見つけた。その冷蔵庫にはエキゾティック物質生成装置と書かれていた。私はその冷蔵庫を開けようと試みたが、冷蔵庫の戸はびくともせず、開かなかったわ。


 なので、仮に本当にその冷蔵庫がエキゾティック物質生成装置と仮定すると、この洗濯機がワープ装置となっていることがうなづける。なので、あの冷蔵庫はエキゾティック物質生成装置であると考えるのが合理的なの。」

「はーい、もう、頭がパンクしそうでーす。」


 床から這いあがったタフな吋は、そう言った。


「はあ、軟弱ねえ、誰かに頭でも叩かれたのかしら。


 ……分かったわ。もう少し内容を噛み砕きながら、このワープ装置の仕組みについて話していくわ。


 じゃあ、まず、エキゾティック物質なんて仰々しい名前は止めて、もう少し親しみやすい名前で擬人化してみましょうか。他にも、ワームホールは扉と言い換えましょう。じゃあ、……私が今食べているラムネがココア味だから、エキゾティック物質をココアちゃんにするわね。


 まず、洗濯機に“もの”が入りました。この”もの”はどこか遠くに行きたいです。冷蔵庫から生まれたココアちゃんそれを知って、どうにかこの”もの”を遠くに運んであげたいと思いました。なので、ココアちゃんは遠くに通じる扉を作ってあげようとしました。


 しかし、ココアちゃんにはその扉を作る力はありません。ですが、ブラウン管テレビから作られる電気と磁石の不思議な力によって、ココアちゃんはどうにか扉を作ることができました。しかし、扉はすぐに閉まろうとします。


 なので、ココアちゃんは仲間を呼び、皆で力を合わせて扉が閉まろうとすることを防ごうとします。ですが、最後に遠くに行きたい”もの”はその扉にある不思議な力で入ることができません。なので、ココアちゃんはその”もの”を包み込むことで不思議な力から”もの”を守ってあげることができました。


 これで、”もの”はココアちゃんのおかげで遠くに行くことができましたとさ。ちゃんちゃん。」

「なるほど、ココアちゃんは優しいなあ。」


 吋は間抜けな口調でそう言った。


「本当に分かってんでしょうね。これ以上簡単に説明することはできないからね。とりあえず、そういうこと。


 冷蔵庫がココアちゃん、つまりは、エキゾティック物質を作り、ブラウン管テレビはココアちゃんが扉を作りやすい電力や磁力を調整して、洗濯機はワープする場所を決める。


 こんな感じで、冷蔵庫、ブラウン管テレビ、洗濯機の3つがそろって、ワープ装置を構成しているの。」

「三種の神器だな。」


 一茶がそのように言った。


「そうね。戦後、庶民に家電を買わせるためにマスコミが大々的に宣伝したキャッチコピーで、冷蔵庫、ブラウン管テレビ、洗濯機の3つのことをまとめて、三種の神器なんて言われたものと全く同じね。


 まあ、それは置いといて、ここからが本題。ここまで仕組みが分かれば、1つやってみたいことがあるの。」

「何?」

「このワープ装置を使って、タイムマシンを作る!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る