第6話 異世界のお手洗いと獣人の下着事情


 「お母さん、行ってらっしゃい」

 「行ってくるわね、フラン」


 お母さんを見送ると私は自室に戻る。




 「お留守番を任されたけど、どうやってすごそうかな」


 一人になった寂しさを紛らわそうと、つぶやきながら考える。

 とりあえず何かないかと、いつもの箱の中身を確認してみた。

 木の人形やら木の実やら、年相応のものが入ってる。


 わーい、お人形だー。おままごとセットだー。


 ってダメじゃん。無意識にいつもの箱とかいって開いたけど、これ、私のおもちゃ箱じゃんよ!

 普通の幼児なら問題ないんだろうけど今の私は中身が大人。

 記憶にあるこれらのおもちゃに愛着はあっても、さすがに遊ぶ気にはなれない。

 一瞬童心に帰ってそれもありかと思ったけど、たぶん気のせいだ。


 中身が大人といいながら、子どもっぽい行動してるとかツッコミは無しにしよう。

 精神が肉体に引きずられているのだ。間違いない。


 えーと、じゃあまた寝る、とか?

 うん、無いな。今は全然眠くない。ベッドに入る選択肢は無さそうだ。

 いつも疲れきってた前世じゃ考えられない。ここでの私は健康優良児なのだ。

 猫獣人は寝るの大好きとかいつも寝てるとか思わないでよ?

 私は寝るの大好きだけど。



 ここは旅行に関連させて考えてみよう。

 旅行といえば、私は見たことのない景色や文化に触れたり体験するのが楽しいんだよね。

 この世界についてはまだまだ知らないことだらけだし、第一歩としてまずは家の中くらいはちゃんと知っておくべきだよね。


 よし、そうと決まれば家の中を探検だ。

 異世界らしく、今の私は冒険者だ!

 自室以外の部屋がどうなってるかは詳しくは知らないし、なんだかワクワクしてきた!

 他人の私室に勝手に入るとかなんだかヤバい気がするけど、お父さんお母さんは他人じゃないし、ここは私の家でもある。子どもが入っても問題ない、大丈夫なのだ。決して本当のところは興味津々だなんて思ってない!




 とは言え、冒険前にまずはお手洗いへ行っておこう。



 この世界のお手洗いは便座がない屈むタイプ。

 水洗式ではないが臭いはほとんどない。

 なぜなら底にいるスライムがきれいに掃除してくれるからだ。

 もちろんスライムは魔物だ。さすが異世界。


 このスライムは人を襲わず下水や生活排水を処理してくれる大人しい種類のスライムだそうだ。

 スライムをこういった形で使う、もとい協力してもらうとか発想がすごい。ファンタジー見くびってた。

 ちょっとひどいと思ったけど、スライムにしたら安心して……これ以上はよそう。

 理想の共存関係だと思う。


 ちなみに、初めてこのお手洗いに行ったのは自我が戻る前なのだが、その時の記憶は黒歴史確定だ。

 私は底にいたスライムに気づくと怯えて泣きわめき、結局我慢できずに粗相をしてしまっていた。

 覚えていたくないけど、こんだけ恥ずかしければ記憶に残るか。ちくせう。



 お手洗いについた私は下着を脱いで私用の籠に入れる。

 体が小さいので下着が足に引っ掛かり誤って落ちないようにするためだ。

 全部脱ぐとか面倒くさい。急いでる時は間に合わなくなりそうで地味に怖い。

 でも、小さいこの体ではマジで落ちる可能性がある。何とか出れそうな深さだけど、ここに落ちるのは死ぬほど嫌なので諦めて脱ぐしかない。早く大きくなりたい。


 我が家の女性の下着は大人も子どももドロワーズだ。

 かぼちゃパンツよりも大きく腰近くまで布地がある。

 伸縮性があまりないせいか、ずり落ちないよう腰で紐を縛らないといけない。

 太もものところにも紐があるので絞る。すき間は埋めないとね。

 あとこの下着はフィット感が無いので、最初ははいてないように感じてとても落ち着かなかった。


 獣人族用のドロワーズはお尻側に縦の切れ込みがある。

 しっぽの邪魔にならないようにするためか、多くの種族で共通して使えるようにするためか、どちらか分かんないけど切れ込みは結構長い。

 そんなわけですき間が気になる。非常に気になるけど、こればかりは仕方ないらしい。

 せっかく太もものところは絞れるのに大事なこっちはすき間がある。

 マジか。

 元日本人の感覚として獣人族は下着に関して結構ヤバい気がする。がっでむ。

 普人族には前世のような下着がありそうだけど、獣人族だとしっぽ穴作らないといけなから難しいのかな……。



 すべきことを終えた私は下着をはきなおす。

 しっぽは器用に動くので切れ込みから出すのは意外と簡単だ。

 犬獣人や狼獣人では猫獣人ほど器用に動かせないような気がするけどどうなんだろう。いつか他種族の獣人友達ができたら聞いてみたい。



 私がこの異世界のお手洗いで一番助かると思ったのは、トイレットペーパーが無くても代わりのものがあったことだ。


 お手洗いで使う紙はクズ紙であり、質が悪くごわごわしてる。

 揉んで柔らかくしないと地味に痛くてまともに使えない。でもないよりずっといい。


 それとは別に、この世界には水取り葉と呼ばれる吸水性がよく肌触りのいい柔らかな産毛の生えた葉っぱがあり、小さい方はこちらを使う。

 ちょっと驚いたのは、水取り葉は何回かは使えるので、洗って干してリサイクルするのである。

 ちゃんと洗うんだから汚くない。

 現代日本のように物があふれる時代を知る私としてはとてもエコに思える。この世界に無駄は無いらしい。


 ちなみに、この水取り葉はお手洗いで使うだけではなく、用途は多岐にわたるため常に需要があるようだ。

 冒険者ギルドの未成年者たちに人気な常時採取依頼で補われているらしい。


 お手洗いの隅にある甕から杓子で水を掬い、水取り葉を入れた桶に注いで葉を洗う。

 洗い終わった葉っぱは邪魔にならないよう、私用の籠の下段にある網目を張ったところへ並べる。日陰干しだ。

 それが終わったら手と杓子も洗う。

 使い終わった水はすべてスライムにあげる。スライムはお手洗い程度の水分では溺れたりしないらしい。

 しかし、地味に後処理に手間がかかる。まあこの異世界のお手洗いは女性に優しいからいいんだけど。



 こうして私は一つの冒険を終えた。




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