幼児退行してくる第七王女の執事になったんだけど
木嶋隆太
第1話
異世界転生した、ようだ。
それに気づいたのは、俺が15歳になり、男娼へと売り飛ばされた日だった。
なんでこのタイミングなんだよ、と叫んだのは言うまでもない。
……俺の人生は、割と運が悪い。
両親はギャンブルで借金にまみれ、家計は火の車。そして、俺は借金のかたとして男娼へ、妹もどこかの貴族の家へと売り飛ばされてしまった。
……本当に、最悪のタイミングだよ。
もっと早く思い出していれば、前世の知識も使って効率よく金を稼げたというのに。
クソったれな両親のことはどうでもいいが、それで妹を助けることはできただろうに……!
俺がため息を吐いていると、男娼を任されているオーナーがいぶかしんだようにこちらを見てくる。
「おい、聞こえてるのかロンド? 指名が入ったからさっさと、101号室へ迎え」
「……はい」
……本当、最悪だ。
まさか、異世界転生して最初の記憶が、男娼で体を売ることなんて……。
今の俺では、これを断ることはできないだろう。目の前のオーナーは相当なレベルを持つ屈強な男性だ。
……俺が転生を果たしたこの異世界では、ステータスがものを言う。今の俺のレベルでは、百人集まってもオーナーに勝つことはできないだろう。
仕方なく、俺は薄暗い廊下を歩いていく。
男娼……ここは、男性が女性に奉仕するお店だ。俺がこの店に売り飛ばされたのは、転生したこの体が無駄に美形だからだ。
自分で鏡を見てもびっくりしたもん。なんだか中性的なイケメンがおる! ってなったら俺だった。もしも、現代でこんなイケメンを見たら、完全に嫉妬していただろう。
……くそぉ、もっと早くに転生したことを思い出していれば、いくらでもうまく立ち回ることができたはずだ。
ここから逃げ出すことも考えたが、あっさりと殺されてしまうだろう。
今は、とにかくしたがって、力をつけてどこかのタイミングで逃げ出すしかない。
……今は、大人しくするしかない。
頼む……変な客じゃなければいいんだけど……。
ドアをノックすると、「どうぞ」とか細い声が返ってきた。
部屋の中に入ると、そこに居たのは……仮面をつけた人物。顔は……恐らく正体を隠したい人なんだろう。
……体だけを見れば、かなり上位に入るレベルのスタイルだ。
薄いシルクのスカートが柔らかく揺れるたび、ちらりと覗く太もも。そのスカートの裾が絶妙なラインで、膝上までの肌を大胆に見せつけてくる。しなやかな脚線美が、俺の視線を引きつけて離さない。いや、これは……。
この脚、見覚えがあるぞ。
俺は脚フェチだ。
前世でもずっと脚ばかり見ていた。ゲームのキャラクターでも、アニメでも、脚の美しさが俺の評価基準だった。そして、この脚も――間違いない。
ここは……俺が転生したこの世界って……俺が大好きだったMMORPGの『レジェンドフル・ビ・キャクリア』の世界か!?
何度も彼女の姿をゲームで見たし、彼女の脚を追いかけていたからこそ、間違えるはずがない。
この美しく整った脚線美は間違いない――。
「――第七王女ルシアナ・グレイス」
ぽつりと、俺はその名前を口にした。
「えっ……!? なぜその名前を……!」
や、やっちまった! 思わず、お客様の名前を口にしてしまった。
仮面をしているということは、お忍びでの来訪だというのに! やべぇ、殺されるかも!
明らかに、彼女は動揺している。それが、俺の指摘を正とするものだった。
動揺していたルシアナ様と思われるその人物は、手に持っていた紙をはらりと落とした。
「あっ……!」
ルシアナ様が慌てた様子で紙を掴もうとしたが、それが俺の目の前にやってくる。
そこには、お願いしたいプレイ内容についてがかかれており、
【私を赤ちゃんとして扱い、膝枕や頭をなでたり、甘やかすこと!】
と書かれていた。
「これは……」
俺が拾い上げて問いかけようとしたとき、ルシアナ様が声を張り上げた。
「も、もう……!」
その声は、ゲーム本編で何度も聞いたことのある美しく凛とした声。
彼女の視線は、部屋にあった窓へと向けられる。
「お、王女とバレた上……私の欲望までバレた以上……私はもう死ぬしかない……!」
即座に彼女は窓へと向かい、バッと窓を開け放ち、身を乗り出す。
それをそのまま見過ごすわけにはいかず、俺は慌てて声を張り上げる。
「えええええ!? ちょ、ちょ待てよ!!」
俺は慌てて王女様を止めようと駆け寄った。だけど彼女は完全にパニック状態だ。
「止めないでくれ! 私はここで死ぬぅぅぅ!」
「い、いやあんたが死んだとしても、俺があんたのことを周りに言いふらしたら意味ないだろ!?」
と、とにかく今は彼女の自殺を止める必要がある! だってもしも死なれたら、この男娼に疑いがかかり、たぶん俺も殺されるから!
そういうわけで、俺は彼女が自殺しないよう、自殺の無意味さを必死に伝えると、それをルシアナ様も気づいたようだ。
「はっ……! そ、その通りだ。つまり――」
彼女の視線が、俺をまっすぐに捉えてくる。
「お前が生きていたら、私が死んでも意味がない……っ!」
「そ、そういうことだ。だから落ち着け。な?」
「……ああ、落ち着いたぞ。……つまり、一緒に死ぬしかないということだな!」
「うおおおい!? 落ち着け馬鹿!」
ルシアナ様が俺とともに窓から飛び降りようとしたので、俺は必死に彼女を止めた。
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