Schneidーシュナイド

たろまる

隠された真実(壱)

 蝉時雨の降る夏の山道を歩いて1人の少年が山の中に入っていく。その少年はある景色に夢中になっていた。熱い日の本に対抗するように大きく水飛沫をあげる大滝が蝉時雨に負けじと大きな水音を鳴らして山に命の源を注ぎ込んでいたからだ。

 すると、

「コレ!龍我!こんな奥で何をしとるんじゃ!!」


 しわくちゃだが腰も曲がっていないパワフルな祖父が現れた。

「何を黄昏ておる!さっさと家に帰るぞ!ここはお前にはまだ早い!」

 これが鬼道龍我の祖父、鬼道源三郎の口癖であった。

 何がまだ早いのか龍我にはさっぱりだった。


「何が早いんだよジジイ!この山はどうせジジイの土地なんだからどこに行こうがいいじゃんかよ!」

「ジジイ言うなぁ!わしが生きてる間はたとえ孫だろうとわしの山では好き勝手させん。」

「早う自由研究とやらを終わらせてさっさと帰れ!」


 アナログでも流石に自由研究ぐらい知ってるだろ…。

 ていうかいつから俺の後ろに立ってたんだ?

 ここは一応山の坂道を走って2時間でさらに獣道をかき分けたところにある。今年で102歳の暴力ジジイがどうやってここまで来たのかと龍我は意味が分からなくて自由研究はこのジジィをテーマにしようかと思ったのであった。

 そんなジジイの家に帰ってくる頃にはもう夕方でやはりジジイは俺より早く帰ってきてたらしく晩御飯が置いてあった。


「ちーとばかし、外に行ってくるわ。変な事するんじゃないぞ。」

「わーったよ。いちいち言わなくていいって。」


 こんな夜の山でやることなんてなんてないだろうに。とはいえ俺より戦後からずっと山で一人暮らししてるから、ジジイにしか出来ないことでもあんのかねぇ。と思いながら作り置きの晩御飯を食べて、待っていた。

 すると、ジジイが帰ってきた。


「どこ行ってたんだ?」

「解体。」

「え?なに?」


 ジジイは一言だけ答えたあとそのまま寝室で眠ってしまった。明日に備えて俺もさっさと風呂に入ってから眠った。

 翌日。

 龍我はジジイより早く起きて昨日の滝の場所に行った。

 すると驚いたことに源三郎が待っていた。


「やはり来たか…全く怖いもの知らずめ」

「龍我。ついて来い。お前もこれに触れなければいかん。」

「ジジイ、そっち滝の裏だぞ!!」


 慌てながらジジイについて行った。滝の裏には洞窟があり、ジジイはその先を躊躇せず進んでいく。5分ほど歩いただろうか。洞窟の向こう側から光が差し込んでいる。

 向こう側には、何かの建物が建っていた。病院?にしては少し軍隊すぎる気がした。

 すると龍我が何か聞く前に源三郎は話し始めた


「ワシはここで…生まれたわけではない。いや生まれたと言ってもいいだろう。ここは当時の軍部を批判した者や反逆の疑いをかけられた者たちを集め人体実験を行なっていた研究施設じゃ。日独伊三国同盟を結んだ当時の奴らは秘密裏にドイツと共同で研究を行っていたんじゃ。そこにはワシの戦友もいた。許されぬことじゃ…。」

「終戦記念日も近いからな。お前も知るべき物だと思ってな。」

 龍我はかつて行われていた残虐行為の跡を知りただただ言葉も出せず代わりに涙を流していた。

 源三郎は龍我を見て「お前は優しいな。」と頭を撫でた。

「じいちゃん…。」

「なんだ?呼び方が変わったのう」と軽く笑いながら言った。


「じいちゃんもここで酷い目にあったのか?」

「…。ワシはなんとか逃げ延びることができた。命からがらな。ただワシの戦友を救ってやれなんだ…情けないことに。」


 その日はすぐに時間が過ぎていった。

 夜になるのも早くて寝ようとしても寝れなかった。戦争の被害者が実は近くにいて友を失ったことを聞いた。教科書にも載っていないことを聞かされた。

 しかし、なぜ教科書にこのことを載せなかったのだろう。やはり政府にとって都合の悪いことなのだろうか。すると、突然ドアを叩く音がした。

 ご近所付き合いもないのになんだろうと思いながらドアを開けた。

 訪ねて来たのは老人だった。


「源三郎さんはおらんかね?」

「今はいないっすね。」


 そう答えると、突然「そうか。それは好都合だぁ。」と言い龍我の胸ぐらを掴み外に放り投げた。龍我は訳がわからなかったがとにかく逃げた。

 山の中をなりふり構わずただ走った。


「逃げるかぁ…追い甲斐がぁ…あるなぁ…。」


 山の中を裸足で逃げ回る。ところが耳に風切り音が聞こえた時にはもう遅かった。

 謎の老人の魔の手はそこに迫っていた。

「熊でさえ儂からは逃れられん。終わりよぉ。」

 老人の貫手が喉仏を貫かんとした瞬間。

 誰かが龍我を助けた。

 赤と黒の甲冑。十文字槍を右に担いだその者は黒い面の下から

 赤ーく目を光らせている。赤い侍がそこには立っていた。

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