僕はメインヒロインじゃありませんから……。

アイズカノン

第1話 エンドロールの裏側で


[男の娘]。

ラブコメもののサブカル作品において、度々登場してくるサブヒロイン枠の存在。


そんな特殊な枠の登場人物は大抵、主人公の相談役であったりする(主観調べ)。


今日も今日とて僕は、そんなラブコメ主人公な自称冴えない男子に恋愛相談されてる……。


「ユイカ。俺はどうしたらいいだ……。」

「知らんはそんなこと。(それより死ね。リア充。)」

「そんなこと言わずにさぁ……。」

「はぁ……。」


学校から徒歩10分圏内にあるとあるファミレス。

その一角の窓際の長椅子のテーブル席で、ドリンクバーで入れた白いジュースを、カラカラとストローでガラスと氷を踊らせながら、机で上半身の寝そべってる親友を僕は冷たい目で見下ろしてる。


彼の名は【水木みずきシロウ】。

家庭的で、成績はそこそこに、正義感も強く、何事にも一生懸命な頑張り屋さんのまさに主人公な人。


そんな彼の相談事は、普段ツンツンしてくるけど肝心なところではデレる【悠木ゆうきリン】という黒髪サイドテールの少女と、普段からシロウのことを「先輩。先輩。」と慕ってくる紫色のミディアムウェーブヘアの【周防すおうサクラ】という少女の2人。


なんと2人は生き別れの双子姉妹だったようで、どっちの子に告白の答えを出されたという贅沢な悩みを相談されてるのが今の状況。


いつか刺されないかなこいつ。


「それで、どうすれば良い?。」

「どうすればって……、そもそもお前がどうしたいだ。」

「どうしたいって……。」


身体を真剣な眼差しで僕を見つめるシロウ。

この目をしている時の彼は既に心に決めてる時の顔だ。

だからこそと言うべきか……、迷っている雰囲気を装って僕に相談に来たのだ。

親友である僕の言葉で自身の気持ちを再確認するために……。


「俺は今までずっとリンと一緒に過ごしてきた。」

「そうだね。幼なじみ、だもんね。」

「あぁ、だからいつも少し横暴な性格に少し嫌気がさしてた。」

「普段からあんなツンケンな態度は誰でも嫌になると思うよ。」

「それもそうだな。だけど……。」

「だけど?。」

「サクラと出会って、付き合い始めて、優しさに触れて、そして自分の想いと真剣に向き合うことができた。」

「たった1ヶ月で。」

「そう、たった1ヶ月だ。だけどそれはこれまでの時間を埋めるには十分だった。」

「そうか……。」

「だから俺は、リンを選ぶ。ずっと傍に居てくれたリンを。」

「そう……。」

「すぅー、ふぅー……。ありがとうユイカ。これで決心がつけた。俺、行ってくるよ。」

「あぁ、行ってこい。そして喧嘩するまで素直な気持ちをぶつけてこい。」

「あぁ、そうしてくる。じゃあな、ユイカ。今日も可愛かったぞ。」

「ちょっ、おいコラっ!。」


振り向いた頃には、シロウはファミレスの出入口を抜け出てしまっていた。


(余計な一言残しやがって……、これだからラブコメ主人公は嫌いなんだ……。)


ジューと、ボコボコと、水ぶえを鳴らした僕は空になったコップを吸い続けた。

まあこんな格好なのだから仕方ないと言えば仕方ないところもあるかな。


ごめん、読者のみんな。

紹介が遅れました。

僕の名前は【一柳ひとつやなぎユイカ】。

黒髪のミディアムショートヘアに銀色の瞳の一見少女な容姿の少年。

白いブラウスに黒のコルセットミニスカートと赤い紐リボンの女子制服を纏っている一見少女な少年。

なぜ2回も言ったかって?。

それは僕が冒頭で力説した通り、僕が少女よりの容姿の少年……、つまり男の娘であるから。


(はぁ……、慣れたとはいえ流石にここまで外見に変化ないのおかしくないか……。声変わりも目立ってしてないし、アニメだったら女性声優がやってるタイプの男の娘ぞ。僕。)


などと愚痴っていると紫色の綺麗な髪で、僕と同じ制服を着ている少女が、さっきまでシロウがいた席に座る。


「で、どうだった。さっきのあいつの素直な気持ちを聴いて。」

「はい……。」


少女は何事もないように、そこに置いてある『さっきまでシロウが飲んでいたジュース』を『一切の躊躇なく』飲んだ。


(oh......。)


第一印象から、シロウを尾行するヤバい子だとは思ってたけど……、ここまでとは。

しかもスッゴイ幸せそうな顔してる。

わぁ……。


「私ね。ずっと憧れてた王子様がいたの。」

「うん。」

「小さい時に演劇会で落ち込んでた私を、助けてくれた男の子がいるの。」

「うん……。」

「そして私は、この学校に転校してきてシロウ先輩に会って、ようやく王子様に会えたと思ってたの。」

「うん……。」

「でもね。先輩に告白した時の夜、夢の中で私は思い出したの。私が王子様だって……。」

「ん?。」

「ようやく会えたね。私のお姫様。」

「えっ……、えぇーーーーーーーーーー。」


サクラから放たれたその散弾な言葉は僕の記憶を呼び覚ました。

それは幼稚園の演劇会で、まだ女装に慣れてなかった僕を元気づけたとある男の子……。

そう紫色の髪の……。

ちょっと中性よりの……。


ある物語がエンドロールに入ろうとしている裏で、新しい物語のオープニングが始まろうとしていた。

これから始まるドッタンバッタンな学園生活が待っていることを……。

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