第19話  修学旅行にて…②

「ねぇ、お母さん」

 夕ご飯を食べながらベッドの上で浮かび上がった疑問をぶつける。

「ん?なーに?」

 手を止めて私を見る母に私も顔を見て訊いてみる。


「友達と話になったんだけどさ。友達としての好きと恋愛感情の好きって何が違うのかなって。言われて『あー、確かに何だろう』って思ってね」

 嘘です、友達はいるけど話してはありません。

「あー、そう言う事に悩み出す時期になりましたか…成長したねぇー。母は感激じゃ」

「そう言うの良いからお母さんの考え教えて」

 はぐらかされそうで少し余裕がない対応になる。

「そうねー、難しい問題なんだけど。簡単に別けるなら気になる人に恋人がもし居たらと仮定した時に素直に応援できるなら友達止まり、もし訳もわからないのに拒絶したいとか不快な思いをしたのならその人に好意を持ってる証拠になるんじゃないかな」


 母はどこか楽しそうに答えてくれた。


 もし、愛華に恋人がいたら、私以外に飲み回ししてる人が居たりしたら…

でも女同士なら普通に飲み回しぐらいするだろう…

「遂にそう言う人ができたの紗凪ー」

 ニコニコで茶化してくる母に私は。

「友達の事だって言ったじゃん、それに私はやっぱまだ分からないや」


 食事を終え自室の本棚を眺める。

 弟に『僕の本貸してあげる』と押し付けられた宇宙の図鑑が目に入った。

 手に取りページを捲る。

 男の子って宇宙とかロボットとかほんと好きだよなと思う。

「土星の衛星は140個を超えてるんだ。名前はギリシャ神話やローマ神話か」

 昔の人の想像力には脱帽する。

「はぁ、物や事象に対する好きと人とは違うよなぁ」


 本を戻してスマホを見て日付を確認する。

 修学旅行まで数日だ。

 楽しまないと損だ。


 その時スマホに通知が来た。

 相手は愛華だった。

「なになに…『泊まるホテルは大浴場あるっぽい!大浴場で入れるならみんなで入ろうね!』と……」


 恥ずかしいと思うのは普通だよね!?

 この年頃なら皆んな同じだよね!?


 まぁいいや、『入れるならね』と返信をしたところで母から『お風呂行ってー』と呼ばれた。

 本当に見られてるかと思う時がある。

「お風呂の話してる時にお風呂行けか。私は二人に監視されてるのかな」


 さすがに本気では思ってないがタイミングがいいよなとは感じる。


「なんか疲れた、少し湯船でのんびりしよう」


 脱衣所に行き服を脱ぐ。

「ニキビとかは無しか。それなりに栄養は考えてもらってるおかげかな」

 それにしても。

「最近胸がキツイのは見たら分かるわ…下着新調しないと」

 ここ一年ですくすく成長していく胸に溜息が出る。

「身長が成長して欲しいんだけどなぁ」

 浴室に入り一通り済ませて湯船に浸かる。

「みんなとお風呂かぁ」

 体育の着替えで思ったが多分…

「私が一番デカいと思う…」


 絶対見られる…ぜーったい見られる。

 目の前に大きい胸があったらまぁ、触ってみたくなるのは分からなくもないけど、被害者にはなりたくないな。


 はぁ、まだ入るかどうか確定してないけど皆んな入るとして私だけ部屋のお風呂を使うのは空気読めない子になっちゃうよねー。

「同調圧力死ねー」

 一人虚しく湯船に沈みながら呟く。

 人との距離は難しいなぁ。

 

 お風呂を出て髪を乾かし着替えて母の元へ向かった。


「お母さん、今度の休み服買いに行くからお金頂戴って言ったらダメ?」

「いいよ、一緒に行こうか?」

「仕事休みなら一緒に行こう」

 母はここ最近は落ち着いたようで残業も少なくなって家にいる時間が増えて少し嬉しかったりする。

「うん、じゃあ明後日の土曜日に行こう」

 どうやら親子で買い物ができるようだ。

「うん!ありがとう。んじゃ私は部屋で勉強してから寝るわ」

 そう言い二階の自分の部屋に向かった。


 授業の内容を少し復習するだけで十分テストには対応できる。


「こんなもんでいいかな」

 椅子の上で上半身を逸らし体を伸ばす。


「来週の今頃は修学旅行かー」


 離れてる父と弟のお土産を何にしようか考える。

 送りやすい形状が良いだろうから箱物が無難だろう。

「ちょっと楽しみだな」

 

 洗面台に行き歯を磨く。

「髪も伸びて毛先が枝毛が目立つなぁ、旅行行く前に切ってしまおうかな」


 伸びた髪を切った時の頭の軽さたるや少し快感である。

「土曜日に切りに行こう」

 明日起きたら相談しよう。


 スマホで髪型を調べる。

「毛先だけ揃えてもいいけど、今回はバッサリ切ろうかなー」

 過去からさよならー…という訳ではないが…


「よし、切ろう」


 私はそう呟き癒し系の動画を流しながら目を閉じた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る