秘密と秘密で百花蜜
紅色甜茶
第一章 始まりまでの道のり
第1話 お別れ
ベッドで酸素マスクを装着して静かに呼吸してる私の恋人…デリス・ファスファイト・風炎は静かに死を待つだけなのだ。
彼女は21歳にして末期がんだった、スキルス性胃癌だったようであっという間に進行して肺にも転移し呼吸機能を低下させてた。
もうデリスの命は尽きてしまう……
「サナギちゃん、デリスと居てくれて……ありがとう…ね、あの子とても楽しそうにサナギちゃんの事話してたのよ、ほんとに楽しそう…だったのよ…」
涙を我慢して私、夜月紗凪にデリスのお母さんが私に告げる。
「私も同じです、本当に楽しかったです…だけどどうしてもっと早く…気づかなかったのでしょうね…いつも近くに居たのに…」
涙が…涙が出てしまう…
「君は娘の恩人だよ、娘の人生をより良く濃い物にしてくれた、他人がここまで涙を流してくれてるんだ…立派に育ってくれてたんだなデリスよ」
今度はお父さんが告げる。
私は涙が溢れる…。
私の事を助けてくれたのはデリスだ、彼女が居たから楽しく過ごせた。
「ありがとう…ございます」
精一杯答えた。
「ファス、今までありがとう…私頑張るからね、頑張って生きるからね」
私はミドルネームで呼んでた、彼女曰く最も近い人にはミドルネームを呼ばせてたみたいだった。
その時少しだけ大きくデリスが息を吸ったように見えた。
それから彼女が呼吸をする事はなかった……
それから少し時間が経ちひとまず仕事に行けるようにはなった。
「紗凪、アンタはホントいい奴だ!私の分まで楽しく生きてくれよ!あははは」
旅立った彼女が私に言ってくれた言葉は忘れずに今もよく思い出す。
上司も同僚も気にかけてくれて少しずつ持ち直してる。
友達が亡くなったとだけ伝えてるけど私の落ち込み具合からしてかなり近い関係なのは察しが付いてるだろう。
みんな良い人で助かる。
デリスとは同棲していた、彼女は高校卒業した後は就職、私は短大に進学したのだが
デリスがあんな事を言い出したが故に同棲する事になった。
「おお!紗凪の短大私の職場から近いじゃん、居候するわ、ああ、働く分食費は出してやろう!」
ふへへへへと変な笑いをしながら提案してきたのだ。
流されるまま同棲してしまったんだけどね!!
そんな事を思い出しながら歩いてたら人とぶつかってしまった。
「きゃっ」
「あっ、ごめんなさい!」
ほぼ同時に声が出た。
私より背が低い女性だった。
「考え事しててごめんなさい、大丈夫?」
ひとまず声をかけて少し近づく。
「はい、私こそぼーっとしててすみません……あれ?先輩?夜月先輩?」
ぶつかった女性は私の事を知ってるようだ。
私の部署には居ない人だな。
「先輩って言うのは…」
と私が続きを言おうとした時。
「同じ高校の後輩になります!まさか先輩が一緒の職場なんてなんで偶然でしょう!」
そう、元気に明るくそう言った。
私は彼女の事は知らないけど、私の事は知っているのか…
「へー、そうなんだ!でもごめんなさい、私あなたのこと知らないんだ、お名前は?」
無難に尋ねるのがいいだろう。
「あ、そうですよね、私は雨湯児飛燕(ウユニヒエン)といいます!よろしくお願いします!」
元気に教えてくれた。
「うん、よろしくね」
正直デリスの事もまだ立ち直ってはないから元気の差に少し疲れてしまいそうだ。
「先輩大丈夫ですか?何かこう、しんどいように見えます」
覗き込むように顔を向けられ言われた。
「ああ、ごめんね、少し前に大切な人を亡くしてしまってね、まだこう…ね」
言ってしまった。
雨湯児さんは顔から生気がなくなり抑揚のない声で。
「先輩の大切な人って…もしかして…デリス先輩…ですか……?」
それを聞いた私は全身が冷たくなった…
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